ゆり子の家

「ああ、もう良いから。お願い、その話はしないで~」

祥恵は、ゆり子に言った。

今は夏休み、ゆみも、祥恵も、ゆり子も期末試験が終わって夏休みの真っ最中だった。

「やっぱり、祥恵も、あまり良くなかったか」

ゆり子は、祥恵に言った。

「私も、今回の期末試験はあんまりだったな。なんか英語以外の科目は、どれも難しかったよ」

ゆり子は言った。

「ね、祥恵はさ、来年の高等部の入試は受けるつもり?」

ゆり子は、テーブルの上の自分の分のジュースを飲みながら聞いた。

「え、それは受けるしかないでしょう。受けなかったら高等部に行けないよ」

祥恵は答えた。

「私はさ、英語は得意なんだけど、そのほかの科目があまり得意じゃないし、高等部の入試は受けないで、別の高校に行こうかなって思っているんだけど」

「え、そうなの?ゆり子は、高校は明星の高等部には行かないの?どこの高校に行くの?」

「まだ、はっきりは決めていないけど、なんとなく他の高校も良いかなって、思い始めてはいるんだ」

「そうか。私も、ほかの高校でも良いのかな・・」

祥恵は、ゆり子に言われて、ほかの高校というのも考えていた。

「私、どこが良いと思う?」

「そうね、祥恵は、お父さんの仕事っていうか、歯医者さんになるんでしょう?」

「そのつもり」

祥恵は答えた。

「それだと、例えば歯医者さん、お医者さんになれる大学行くことになるから。医科大学で付属の高校があるところとか」

「なるほど、そうか」

「ほら、大学受験とかって、医科大学だけじゃなくて普通の大学だって難しいじゃない。だったら、少しでも簡単な高校入試で、医科大学の附属高校を選んでおくみたいな・・」

「そうか。そうだよね、高校のうちから医科大学の附属高校に入っておくっていうのも手かもね」

祥恵は、ゆり子に言われて気づいた。

「私は、お医者さんになりたいわけではないから、医科大学の附属高校ってどの大学にあるのかとかはよくわからないけど」

「うん。帰ったら、お父さんに聞いてみるわ」

祥恵は、ゆり子に返事した。

「さあ、ケーキ出来たわよ。どうぞ」

ゆり子のお母さんが、自分の家の台所からパウンドケーキを持って出てきた。ゆり子のお母さんの後ろから、ゆみも食器を持って出てくる。

「うわっ、美味しそう!」

「おばさんが作ったんですか?」

「ええ」

ゆり子のお母さんは、祥恵に頷いた。

「ゆみも、手伝ったの?」

「手伝ってくれたわよね。というよりも、こっちのフルーツのパウンドケーキは殆ど全部、ゆみちゃんが1人で作ったようなものよね」

ゆり子のお母さんが答えた。

夏休みで、祥恵とゆみは、ゆり子の家に遊びに来ていたのだった。

「ゆみちゃん。お料理とか本当に上手だわ。きっと良いお嫁さんになるわ」

ゆり子のお母さんは、ゆみの頭を撫でながら言った。

「さあ、食べましょう」

ゆり子のお母さんは、みなの分の紅茶を出すと、パウンドケーキをお皿に分けながら言った。

「いただきます!」

皆は、しばらくパウンドケーキを食べるのに夢中で無言だった。

「ゆみちゃん、今年は皆と尾瀬山に行くんですって?」

ゆり子のお母さんは、パウンドケーキを食べ終わって、ゆみに聞いた。

「はい。初めての登山なんです」

「ね、ゆみちゃんのお母さんも張り切っていたわよ。なんか、お母さんといろいろ山に行くお買い物の準備行ったんでしょう?」

ゆり子のお母さんは、ゆみに言った。

「うん、お洋服とか買ってもらったの」

「どんなお洋服買ってもらったの?」

「山は寒いからって上着とか・・。あ、あとね、山スカートっていうの買ってもらったの」

ゆみは、ゆり子のお母さんに答えた。

「あ、それも、お母さんが話していたわ。ゆみちゃん、スカートをちっとも履かないから、山スカートだったら履くって言ってくれたので、ゆみちゃんのお母さんはとっても嬉しかったみたいよ」

「うん。あたし、スカート嫌いなんだけど、山スカートだったら、下にズボンを履くからって、それだったら良いかなって思って。お母さん、赤いチェックの山スカートを選んでくれたの」

「それは可愛いでしょうね。今度、おばさんにも着ているところを見せてね」

ゆり子のお母さんは、ゆみに言った。

「ね、ゆみちゃんは将来、何になりたいの?」

「将来?」

ゆみは、ゆり子に聞かれて、聞き返した。

「ほら、ゆり子はね、英語の翻訳のお仕事したいなって思っているの。祥ちゃんは、お医者さん、お父さんと同じ歯医者さんになるでしょう。ゆみちゃんは、何になりたいのかなって思って」

ゆり子に聞かれて、ゆみは首を傾げた。

「まだ、わからないわよね。ゆみちゃんは、ゆり子や祥ちゃんと比べたら、まだまだ大人になるのは先だものね」

ゆり子のお母さんが、助け船を出してくれた。

「うん、まだわからないかな」

ゆみは、ゆり子に答えた。

「確かに、ゆみちゃんは年は、私たちよりずっと下かもしれないけど。学年は同い年なんだし、卒業とか進学とかは、私たちと同じなんだよ」

ゆり子に言われて、ゆみも確かにと思った。

「それは、そうだわね」

ゆり子のお母さんも、ゆり子の言葉に頷いた。

「なんかなりたいな、っていうものはないの?例えば、ケーキ屋さんになりたいとか、お花屋さんになりたい、みたいな」

「うーん」

ゆみは、首を傾げた。

「学校を卒業したらどうしたいか?みたいな」

「お母さんとお父さん、お姉ちゃんとずっと一緒に東松原の家で暮らしたい」

ゆみは、ゆり子に正直に答えた。

「そうか。それは、それで大事な夢よね」

ゆり子は、ゆみに返事した。

「ゆみちゃんの好きな人と結婚して、お父さん、お母さんと同居みたいな・・」

ゆり子は言った。

「祥恵は結婚はできないだろうから、祥恵もそこで一緒に暮らせるしね」

「何よ、それ。ゆり子、それ、どういう意味よ」

祥恵は、苦笑して、ゆり子の頭を小突いた。

祥恵の進路につづく