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湯川あさこ

岩本たちが太鼓を叩き、それに合わせて、4組の皆はソーラン節をマットの上で踊っていた。ソーラン節は、普通に夏の盆踊りのようなものに思えるかもしれないが、踊ってみると足腰にグッと力を入れなければならなく意外に体力が必要な踊りだった。

「よし、ここまで」

椎名先生は、皆の踊りを止めてから、生徒たちに感想を聞いた。

「どうだ、ソーラン節って意外と体力が必要だろう?ソーラン節をきちんと踊れるようになるためには、基礎的なマット運動が出来なければならない」

椎名先生は、皆に言うと、体育館に敷いたマットの上で、でんぐり返しとかストレッチなどの体操を指導しはじめた。

「皆、がんばっているな」

ゆみは、授業の一番最初になぜか椎名先生に太鼓を打たされたが、その後は太鼓の担当者が決まると、椎名先生に何か指図されることもなく安心して、見学用の椅子に腰掛けて、皆がマット運動する様子を眺めていた。

「何を安心しきって見ているんだ」

横にやって来た椎名先生に、ゆみは声をかけられた。

「えっ」

「安心しているわけにはいかないぞ。お前だって、合唱祭では、皆の踊りに合わせてピアノで伴奏を弾くんだからな」

「えっ、そうなんですか?」

ゆみは、思わず椎名先生に聞き返した。

「そうだよ」

「だって、あたしのピアノって、すごくゆっくりしか弾けないんですよ」

ゆみは、去年の7年生の時の合唱祭を思い出しながら、椎名先生に言った。

「何を言っているんだ。それは去年の話だろう。大友先生や馬宮先生から聞いているぞ。最近は、ずいぶん普通のスピードでピアノを弾けるようになってきたって」

椎名先生は、ゆみに言った。

確かに、ゆみは馬宮先生とずっと昼休みにピアノを弾いているうちに、最近ではだいぶ普通の速度でもピアノを弾けるようになってきてはいた。だけど、皆の伴奏になれるほどは弾けていないんじゃないかなと思った。

「小さなピアニストさん、合唱祭ではピアノ頑張れ!」

椎名先生は、ゆみにそう言い残すと、体育の残りの授業時間を4組の生徒たちのマット運動の指導に行ってしまった。

「大丈夫かな、あたし」

ゆみは、椎名先生に聞いた言葉で少し不安になっていた。

「まゆみ、いいな」

湯川あさこは、音楽室で皆とお弁当を食べながら言った。湯川あさこも4組の生徒だった。いつも、ゆみは音楽職員室で、馬宮先生とまゆみ、麻子とお弁当を食べている。それに今日は、湯川あさこも一緒に食べているのだった。

麻子とあさこ、4組には、あさこって名前の生徒が2人いるのだ。

「え、何が?」

「太鼓。あたしも太鼓叩くのやりたかった」

湯川あさこは、まゆみに言った。

「そうなの?だったら、あさこも手を上げれば良かったのに」

「ちょっと、上げそびれちゃった。そしたら、まゆみが手を上げてしまったから、じゃ、まあいいや。って太鼓は諦めたの」

「そうだったんだ。じゃ、代わる?私、別に太鼓それほど叩きたくないから」

「ううん。大丈夫。あたしも、それほどは叩きたいわけではないから」

「何よ、それ」

「へへ。ちょっと興味があっただけ」

湯川あさこは、まゆみに返事した。

「それに踊る方もなんか面白そうだし」

お弁当の卵焼きを食べながら、湯川あさこは答えた。それから皆は、しばらくお弁当を食べるのに夢中になって静かになっていた。

「先生、あたしってピアノ弾くの?」

ゆみは、お弁当を食べ終わると、馬宮先生に聞いた。

「ピアノ?もう弾きにいきたい」

馬宮先生は、隣の音楽室に行こうと立ち上がりかけながら、ゆみに言った。

「ううん。そうじゃなくて、合唱祭で・・」

「ああ、合唱祭ね」

馬宮先生は、自分から話していいのか迷って、チラッと奥の机でお昼を食べている大友先生のほうを見た。

「ああ、そうそう。椎名先生から聞いたのか?」

大友先生が、それに気づいて、ゆみに聞いた。確か、この前の4組の授業は体育だったことに気づいた4組担任の大友先生だった。

「うん」

「そうだよ。ゆみは、最近はピアノなかなか上手に弾けるようになってきたからな。今年の4組の合唱祭は、ピアノは全曲ともゆみが担当で弾いてもらおうと思って」

大友先生は、ゆみに言った。

「ええ、そんなの無理。あたしのピアノ下手だし、遅いし」

「なんだよ、そんなことないぞ!自信を持て」

大友先生は、不安がるゆみに言った。

「良かったじゃん、ゆみ。合唱祭でやることあって」

「うん、ゆみ。ピアノ上手になっていたもの」

麻子やまゆみ、あさこもゆみのことを応援してくれた。

「弾けるかな?」

「弾ける!弾ける!」

馬宮先生も、ゆみに言った。

なんか、それを聞いて不安になっていただけだったが、逆に、合唱祭で皆と同じように見学でなく何かができるということに嬉しくなってきたゆみだった。

「お前さん、ピアノ弾くのか?」

祥恵と一緒に、学校からの帰り、井の頭線に乗っていると、突然ブータ先生が現れて、ゆみに話しかけた。

「うん」

ゆみが、ブータ先生に頷くと、ブータ先生も満足そうに、ゆみのお膝の上からゆみのことを見上げて頷いていた。

「お姉ちゃん、あたし4組の合唱祭でピアノの担当になったんだよ」

「そうなんだ」

祥恵は、ゆみに返事した。

「ゆみ。初めは8年生になるとき、4組なんか嫌だって言っていたのに、なんかずいぶん4組に馴染んできたよね。お友だちもいっぱい出来たみたいだし」

「うん!」

ゆみは、祥恵に頷いた。

狭山湖マラソンにつづく

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