「お母さん!ゆみの理由がわかったよ」
お姉ちゃんは、茶色い家のリビングでテレビを見ながら、台所のお母さんに言った。
「なあに?」
お母さんが、台所から皮をむいていたジャガイモを持ったまま、出てくる。
「ほら、ゆみ以外にも動物たちを救った子どもがいっぱいいるみたい」
お姉ちゃんは、テレビの報道番組を指差しながら言った。
「今日、世界各地で不思議な出来事がありました」
テレビのアナウンサーは、ニュース原稿を読んでいた。
「世界各地では、宇宙人ガミラスの隕石、遊星爆弾から避難するために、人々は各主要都市の地下に作られた地下シェルターへの避難行動が続いていますが。避難中の家族で、障害を持った子ども、例えば目が見えない、手足が不自由などの子どもたちが突然、空に向かって手をかざすと、ガミラスの宇宙船が舞い降りて来るという事件が多発しています」
アナウンサーの報道は、続いている。
「彼ら子どもたちにより、呼ばれた宇宙船は、本来の乗組員である宇宙人たちを船から追い出し、代わりに、呼ばれた子どもたちの指示に従って、地上に取り残された動物、植物たちを保護し、地下シェルターまで避難させています。宇宙船で避難して来た植物たちは、地下シェルター内の大地に根をはり、動物たちは、その自然の中、新天地での暮らしを始めています」
お母さんは、祥恵と一緒にテレビのニュースに見入っていた。
「地下シェルターに避難して来た、動物、植物たちを宇宙船で救った子どもたちのことを、病院で精密検査してみると、どの子どもも、目が見えない子は目が見えるようになっている、足が不自由な子は歩けるようになっている、など、いずれの子も、自分が持っていた障害が克服されているそうです。医師の話では、ガミラスの宇宙船や遊星爆弾が放っている放射能、放射線が子どもたちの身体に何らかの影響を与え、障害が克服されたのではないかと推測しています。が、詳しい原因については解明されていません」
ニュース報道が終わった。
「今のニュースって、それって、ゆみのことじゃないのか?」
2階のベッドルームに枕や布団を取りに行っていたお父さんが戻ってきて、ニュースを見て言った。
「だよね。やっぱ、お父さんもそう思った。私も、ニュースを聞いた瞬間に、今日のゆみのことじゃんって思った」
祥恵が、お父さんに言った。
「でも、ゆみは障害なんか持ってないわよ」
お母さんが言った。
「持っているじゃない。生まれつき、病弱だったでしょう」
祥恵は、お母さんに言った。
「病弱っていうのも、障害のうちに入るのかしら?」
お母さんは、リビングのソファで寝ているゆみの頭を撫でながら、つぶやいた。
「お、お母さん・・」
お母さんに撫でられて、気を失っていたゆみが目覚めた。
「ゆみ、気がついた?大丈夫?」
「うん、大丈夫。なんかすごくお腹が空いた」
ゆみは、起き上がって、お母さんに答えた。
「そう、お腹空いたの?今日は、ゆみちゃんは大活躍だったものね。すぐ、ごはんにしましょう」
お母さんは、キッチンに戻って、食事の支度を再開した。ゆみも、お母さんにくっついていき、夕食の、料理の手伝いを始めた。
「ねえ、お母さん。動物たちってどうなったの?」
ゆみは、夕食を食べながら、お母さんに聞いた。
「宇宙船に乗っていたじゃない。ゆみちゃんの目の前で」
「そうだったよね。ちゃんと地下シェルターまで着けたかな?」
「大丈夫よ。着けているわよ」
お母さんは、ゆみに言った。
「ゆみ。体の調子はどうだ?」
お父さんが、ゆみに聞いた。
「うん?ぜんぜん普通。元気だよ!」
ゆみは、お父さんに答えた。
「念のため、地下シェルターに行ったら、病院でも診てもらった方がいいよね」
お姉ちゃんが、ゆみに言った。ゆみは、お姉ちゃんに頷いた。
「地下シェルターっていつ行くの?」
ゆみが聞いた。
「明日には、必ず行けるさ」
お父さんが答えた。
「明日か・・」
「明日かって、ゆみが井の頭公園に行きたいって言うから、今日、地下シェルターに到着できなかったんじゃない」
お姉ちゃんが、明日かってつぶやいたゆみに言った。
「明日には、地下シェルターに着けるよね?そろそろ、地下シェルターに入らないと、きっとこの辺じゅう、隕石の爆弾で放射能だらけになっちゃう」
「ゆみが、明日どこか他のところに行きたいって言わなかったら、明日は、ちゃんと地下シェルターに着けるよ」
「もう他は行きたくない。地下シェルターに行きたい」
お姉ちゃんに言われて、ゆみは答えた。
「まったく。ゆみったら現金なんだから」
お姉ちゃんは、前の席からゆみの頭を笑顔で小突いた。
新宿の地下街につづく