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さらに待機

「それで、またしばらく、ここに残っていなければならないのか」

お父さんは、お母さんに聞いた。

「だって、仕方ないじゃないですか。ゆみの身体からまだ放射能が抜けきれないのですから」

「それは、まあ、そうだけど」

お父さんは、答えた。

毎日、少しずつかもしれないが、いま新宿の地下街で地下シェルターへの順番待ちしている車は、順番に地下シェルターへとエレベーターで降りていた。

そんな中、ゆみたちの乗っているお父さんの車だけ、ゆみの身体の放射能除去のために、その場で待機となった。

 

「それじゃ、行ってくるよ」

待機している間、特になにもやることもないので、お父さんは、毎日上の階の新宿地下ショッピング街に出かけていた。地下ショッピング街には、閉店しているお店がいっぱいあるので、そこのお店に行き、そこに置かれている食品を、避難食料として集めているのだった。地下シェルターに降りた後でも、食べられるものとして、なるだけ日持ちのする缶詰めなどの食品を中心に集めていた。

「ゆみちゃんは、何をしているの?」

お母さんが、ゆみの見ているDVDプレイヤーを覗きこんだ。

先日、新宿地下街に逃げ込んでくるときに、お父さんの車が宇宙船と逃亡劇したときの様子が、テレビに流されたが、あの映像をお父さんにDVDに録画してもらっていたのだった。

そのDVDを、座席の下に収納してあったお父さんのポータブルDVDプレイヤーを取り出して、そこへセットして、ゆみは毎日視聴していた。

「ゆみちゃんは、そのDVDを毎日見ていて、よく飽きないわね」

お母さんは、ゆみに聞いた。

「だって、お姉ちゃんが・・」

ゆみは、ちょっと言いかけてから、口をつぐんだ。

「お姉ちゃんが?」

「うん。お姉ちゃん、あたしたちより一足先に地下シェルターに行っているんだよね」

ゆみは、お母さんには、たった一言それだけを言った。

「え、そうなのかしらね」

お母さんは、ゆみがなんでそう思うのか不思議に思ったが、ゆみがそう思っているのならば、しばらくそう思わせておこうと、それ以上は、ゆみを問い詰めるのをやめた。

ゆみも、それ以上は、お母さんには言わなかったが。

「私が降りて、押すよ!」

お姉ちゃんは、宇宙船から車で逃げる途中、車が地面の穴の端にタイヤが挟まった際に、車から降りて車の後ろを押した。

「お父さん、いい?」

お姉ちゃんは、運転席のお父さんに声をかけながら、

「1、2、の3」

車の後部を押すと、車のタイヤは地面の挟まったところから抜けて、車は前方へ移動した。

「さあ、私も車に戻ろう」

そう思って、お姉ちゃんが車に戻ろうと足を一歩前へ出そうとしたとき、地面が割れ、足下から無くなるのを感じた。

「あれ、地面が無い」

お姉ちゃんは、足下に地面が無くなってしまったので、足をバタバタさせて必死で踏みしめる地面を探していた。

とバタバタさせていた足が何かに触れる感触があった。割れた地面の欠片は、地上に開いた穴の中に次々と落ちていったのだが、その中の一つの欠片の上に、うまくお姉ちゃんの足が乗っかり、運動神経の良いお姉ちゃんは、うまく落下していく欠片の上に立つことができたのだった。

そして、映像には、欠片の上に立つお姉ちゃんが、穴の中へと落ちて、消えていくシーンが映っていた。

「あーあ、お姉さんは穴に落ちて亡くなってしまわれた」

普通ならば、その映像を見た人は、誰もがそう思ったことでしょう。

「お姉ちゃん、開いたばかりの穴から、地面の欠片に乗って、うまく欠片をコントロールして、そのまま一足先に地面の奥、地下シェルターに向かったのね」

ゆみには、そのシーンがそのように見えてしまったのだった。その証拠に、お姉ちゃんは、上手に自分が乗った欠片をコントロールして、穴の真下にある地下シェルターを目指していた。

ゆみは、そう確信していた。

しかし、そう見えたのは、ゆみだけで、他の人は誰もが皆、きっと穴の中に欠片とともに落ちてしまっただけにしか見えなかっただろう。

だからこそ、ゆみは、そのことを映像の中に見つけても、お母さんにも、お父さんにも誰にも言えなかった。自分の頭の中に秘めておくしかなかったのだった。

地下へ降りるエレベーターにつづく

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