周りの避難民が浮かれている中、ゆみには、気になっていることがあった。
洞穴で暮らしている少年盗賊団の皆のことだった。彼らは、遊星爆弾の攻撃で両親を亡くし、ようやくこの地下シェルターに避難してきた子どもたちだ。彼らの記録は、役所に管理されている記録簿に名前があるのだろうか?おそらく、ゆみには名前が無いように感じていた。もし、名前があるのならば、ちゃんと毎日の食料の配給だって、役所からもらえていたはずだ。それが、無いから、ゆみが盗賊団のリーダーになって、夜な夜な街に出かけていってお店の食料を頂いていたのだ。
ゆみは、浮かれている皆の間をかき分けて、竜の姿を探していた。たぶん、おばあちゃんの小さな軽自動車の中に、おばあちゃんと一緒に待機しているはずだ。
「竜!」
ゆみは、周りのおばあちゃんたちと話している竜のおばあちゃんの側にいる竜を見つけて呼びかけた。
「おお、ゆみか」
おばあちゃんたちの世間話に少し飽き飽きしていた竜は、ゆみに声をかけられて笑顔で手を上げて答えた。
「竜、ちょっと来て」
ゆみは、周りの皆から少し離れたところに竜を呼んだ。
「なんだよ、俺とのデートの誘いか?」
竜は、ゆみの後についてきた。
「ねえ、皆はどうなるんだろう?」
ゆみは、竜に聞いた。
「え、皆順番に地上に上がれるんだよ!順番が来るのを、おまえだって待っているんだろう?」
竜は、ゆみに答えた。
「皆よ、皆」
「皆?」
竜は、ゆみに聞き返した。
「鈍いわね。竜って本当に鈍いね。少年盗賊団の皆のことよ」
「ああ、彼らだって、順番が来たら地上に上がれるさ」
「順番って?」
「順番は順番だよ。地上に上がるエレベーターに乗る順番だよ」
竜は、ゆみの質問の意味をぜんぜん理解していないようだった。
「順番来ると思う?あゆみちゃんも、皆も役所から食料の配給だってもらえていないのよ。それで、エレベーターに乗る順番って来ると思う?」
「あ!」
竜は、ゆみに言われて初めて気づいたようだった。
「来ないかな・・でも、どうしたらいい?」
竜は、ゆみに言われて困ったような顔をしていた。
「ね、皆の車の空いている席に分散して乗せてもらいましょうよ」
ゆみは、竜に提案した。
「分散?乗せてもらうって?」
竜は、ゆみの提案の意味がよくわからないようだった。
「ともかく、皆のところに行きましょう」
ゆみは、竜と一緒に少年盗賊団の皆がいる洞穴まで移動した。
「ね、皆。これから地上に上がれるんだよ。宇宙戦艦ヤマトが地上の放射能をぜんぶ綺麗に除去してくれたんだよ」
ゆみは、少年盗賊団の皆に説明した。洞穴にはテレビなど無いので、少年盗賊団の皆は、ゆみから話を聞くまで地上の放射能がきれいになったことを知らなかった。
「え、それじゃ地上に戻れるの?」
「そうよ」
ゆみは、皆に答えた。
「でも、ここにいても地上に上がるエレベーターには乗せてもらえないから、あっちの皆がいる駐車場にお引越しましょう」
「え、俺らも駐車場で暮らすの?」
「うん。駐車場で暮らしている車の中には、4人乗りの車なのに竜の家みたいにおばあちゃんと2人だけで暮らしている車とかもたくさんあるから」
ゆみは、皆に説明した。
「そんな車の人たちに頼んで、車の空いている席に皆も分散して乗せてもらいましょう。そしたら、その車の順番が来たら、皆も一緒に地上に上がれるから」
ゆみは、少年盗賊団の皆を連れて、駐車場に来た。少年盗賊団の皆は、最低限の食料と衣服を背中のバックパックに積めて来ていた。
「お願いします。この子たちを乗せてあげてください」
ゆみは、車の中に席が空いている人たちに頼み込んでいた。もちろん、ゆみのお父さんの車にも、お姉ちゃんの座っていた席や後部トランクにある空きスペースに、何人か少年盗賊団の皆を乗せていた。竜の車にも、おばあちゃんに頼んで何人か引き受けてもらっていた。
「ゆみは、ときどきお出かけしていたのは、この子たちと遊んでいたからだったのね」
お母さんは、少年盗賊団の女の子たちを何人か、自分の、お父さんの車に乗せながら、ゆみに言った。
「ゆみお姉ちゃんには、お世話になっています」
あゆみが、ゆみのお母さんに頭を下げた。
「いいえ、こちらこそ。ゆみといつも仲良くしてくれてありがとうございます」
お母さんは、あゆみに言った。
席が空いている車で、息子さんがいる家族のところには少年盗賊団の男の子を、娘さんがいる家族のところには女の子を分散させて乗せるようにした。そして、少年盗賊団の皆も、いつでも地上に上がれるように準備は整えていた。
閣僚会議につづく