「あ、おはよう」
ゆみは、朝お母さんとマーケットに食事の配給を取りに来ていた。そこで、おばあちゃんと一緒に配給を取りに来ている竜と出会った。
「あ、おっす」
竜も、ゆみに答えた。
「ねえ、お母さん。今日の配給の量少ないね」
「そうね。皆に配れる量が少なかったのかもね」
お母さんは、もらった配給が入っているビニール袋を抱えながら言った。竜のおばあちゃんも、自分がもらった配給の袋を抱えていた。
「この袋1個だけだったら、お母さん1人で車まで持って帰れるでしょう?」
「え、まあ、1人でも持って帰れるけど・・」
お母さんは、ゆみに返事した。
「じゃあ、あたしは、竜とちょっと出かけてもいいかな?」
「え、いいわよ。遊んでらしゃい」
お母さんは、ここ来てからいつも1人で車の中で塞ぎ込んでいたゆみに、珍しくお友だちと遊びに行っていいかと聞かれたので、喜んで送り出してくれた。
「行くよ!竜」
ゆみは、竜を誘って、草むらの方に歩き出した。
「え、おい、ちょっと待ってよ」
いきなり誘われたので、慌てて竜は、ゆみの後を追って歩き出した。
「お前さ、アホだろう」
竜は歩きながら、ゆみに話しかけた。
「こんな朝っぱらから、建物の向こうにあるお店が開いているわけないだろう」
竜は、ゆみに言った。
「うるさいな。あたしがリーダーなんだから、竜は黙ってついてこい」
「なんだよ、リーダー面するなよ。俺は、まだお前のことリーダーと認めたわけじゃないからな」
竜は、ゆみに言った。
「じゃあ、なんで、あたしをあの子たちのところに誘ったのよ?」
「はあ?なんでってどう言う意味だよ」
「あんたじゃ、皆を仕切れないからって、あたしのことを誘ったんでしょうが」
「はあ?」
竜は、ゆみのことをマジマジと見つめてから言った。
「誰が、お前なんかリーダーにするために誘うかよ!俺の右腕として言うとおりに動かすやつが必要だから誘ったに決まっているだろうが」
そう竜は、ゆみに言ったつもりだったが、ゆみは、ずっと先の方に歩いていってしまっていて、竜の話など聞いてはいなかった。
「チェ、あいつ、俺のこと無視しやがって」
竜も、慌てて、ゆみの後を追いかけていく。
2人は、子どもたちがいつも寝たり、暮らしている草むらに到着した。
「おはよう、ゆみちゃん」
草むらに到着すると、そこにいた子どもたち皆が、ゆみに声をかけてくれた。ゆみも、皆に挨拶を交わしていた。もう、すっかり皆と仲良くなっているゆみだった。
「ゆみちゃん、来るの早くない?」
「まだ、お店とか開いていないよ」
子どもたちは、ゆみに言った。
「お店は、まだ行かないよ」
ゆみは、皆に答えた。
「これからね、皆と、ちょっと向こうに見えるでしょう。あの丘、山の方に行ってみようと思うのよ」
ゆみが言うと、子どもたちは嬉しそうにゆみの周りに集まってきた。
「遠足だね。楽しみ!」
「うん、遠足だよ。出かける準備、荷物を持って来て」
ゆみが、子どもたち皆に伝えた。
「皆、荷物なんてないよ。お洋服だって、今着ている服しか持っていないし」
子どもたちが、ゆみに答えた。
「あるじゃない、あれが」
ゆみは、草むらの陰に畳んである子どもたちが寝るときに使っている毛布を指差した。
「え、あれも持っていくの?」
「あれは、夜に寝るときに使うやつだよ」
「うん。皆がいま持っている荷物って、全部であれだけでしょう?だったら、あれを全部持っていきましょう」
子どもたちに聞かれたゆみは、答えた。
子どもたちは、なんであれを持っていくのかよくわからなかったが、全員それぞれ自分の使っている毛布を持って、ゆみの前に集まってきた。
「皆、持ってきた?それじゃ、出かけるよ」
ゆみは、そう言って、一番近くにいた男の子と女の子の手を握ると、近くにある丘に向かって、歩き出した。ほかの子どもたちも、ゆみの後について歩き出す。竜も、ゆみの意図がなんだかわからないままに、ついて来る。
新しい家につづく