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清里の話

「で、どうだったの?楽しかったの?」

ゆみは、夏休み明けの自分の部屋で、ゆり子のところから戻ってきたブータ先生に質問していた。

「まあな、山はいいぞ。空気が澄んでいてだな。こんな都会よりも気持ちよかった」

ブータ先生は、ゆみに答えた。

「そうなんだ、良かったじゃない」

ゆみは、ブータ先生がゆり子のところから戻ってくるときに、ゆり子からもらった清里村の旅行の時の写真を眺めながら答えた。

「その割には、どの写真のブータ先生もずいぶんおとなしく撮られているよね」

ゆみは、写真の中のブータ先生を見て言った。

「まるで、ぬいぐるみみたいにおとなしい顔している」

「それは仕方ないだろう。ゆり子殿の前で身体を動かしたりしたら、おいらのことをゆり子殿にばれてしまうではないか」

「そうか・・」

「いつも、ずっとゆり子殿と一緒にいるときは、まるでぬいぐるみのようにじっとしていなければならないんじゃ。おかげであっちこっち肩が凝って、肩が凝って・・」

ブータ先生は、自分の腕を回したり、腰を振ったりしていた。

「ゆり子殿の前では年中じっとしていなければならないからな。ここに戻ってきて、おかげで身体がほぐれるわい」

そう言って、ブータ先生は、ゆみのベッドの上でごろごろ身体を転がして気持ちよさそうに寝そべっていた。

「それは良かったね」

ゆみは、そんなくつろいでいるブータ先生の姿を見て笑顔で答えた。

「ね、ここが清里のてっぺん、頂上なの?」

「うん、どれどれ」

ブータ先生は、ベッドから起き上がると、机の上のゆみが持っている写真を覗きこんだ。

「おお、そうじゃ。そうじゃ。そこまで登るのが大変じゃったよ」

「けっこう歩いたんだ?」

「そうじゃな。まあ、おいらは、ずっとゆり子殿の背中のリュックから眺めているだけだったが」

「ふーん」

「ゆり子殿は疲れた、疲れたって言ってな。美和さんも疲れたとかで、お前さんの姉さんの祥恵殿だけはぜんぜん疲れ知らずで、どんどん先に先にと登っておったよ」

「お姉ちゃん、体力強いもん」

「それで、ゆり子殿と美和だけ遅れて、あとから登ってきたんだ」

「そうか」

「そうそう。頂上に着いたらな、ゆみに見せてあげるんだとか言ってな、ゆり子殿は、おいらのことを頂上の立て札に登らせてくれて写真を撮っておいでだった。頂上だけじゃないぞ、ホテルとか山小屋の部屋やお花が咲いている野原の中でも、常においらのことを立たせて、ゆみのためにって写真を撮ってくれていたよ」

「そうなんだ。明日ゆり子お姉ちゃんに学校で会ったらお礼言うね」

「そうじゃ、そうじゃ。清里の食堂でえらい苦いお豆腐の揚げ物がでてな。お前さんの姉さんの祥恵殿は苦いとかいって食べられないで困っていたよ」

「へえ、お姉ちゃんってあんまり好き嫌いないのに」

「結局、夕子や美和が、祥恵の分のお豆腐を食べてあげていたよ」

その後も、ブータ先生の夏休みに学校で清里村に旅行したときの話は延々と続いて、ゆみは行っていないのに、写真を見ながらブータ先生の話を聞いていると、まるで行ってきたように思えていた。

次の日、ゆり子は、ゆみに渡した写真を一緒に見ながら旅行の話をしてあげようと思っていたのだが、ゆみの方はブータ先生から全部聞いてしまったのでそんな必要はなくなっていた。

「お姉ちゃん、清里でお豆腐食べられなかったんでしょう?」

夕食のとき、ゆみは祥恵に聞いた。

「なんで、あんた知っているの?あれはさ、お豆腐が食べられなかったんじゃなくて、お豆腐と一緒に煮てあったゴーヤが苦くて食べられなかったのよ」

「ゴーヤ?」

「ゴーヤは沖縄のお野菜よ。ゆみは、まだ食べたことなかったわね」

お母さんが、話に割って入ってきて説明した。

「ゴーヤは苦いもん。たぶん、ゆみだって食べられないよ」

「そんなことないわよ。お料理の仕方で苦みを取って、甘めに作ることもできるのよ。今度、お母さんがゴーヤの料理作ってあげるわ」

料理の得意なお母さんが2人に言った。

夕食のあと、家族でテレビを見ているときに、ゆみはお母さんに夏休みの清里村旅行のことをいっぱい話してあげていた。

「へえ、そんなことがあったの」

お母さんは、ゆみの話に興味深そうに聞いていた。

「それにしても、ゆみも清里には行っていないのに、ずいぶん詳しく清里であったことを知っているわね。それって皆、ゆり子お姉ちゃんから聞いたの?」

「え、うん。まあそうなの」

本当はブータ先生から聞いたのだが、そんなこと言っても誰にも信じてもらえないので、ゆみはなんとなくゆり子から聞いたことにして誤魔化していた。

「お姉ちゃんはね、佐藤君とかと早く登れたんだって。ゆり子お姉ちゃんと美和さんはね、登るのに疲れて、けっこう最後の方だったんだって」

「へえ、そうなの」

お母さんは、ゆみの話に耳を傾けていた。

「ゆみさ、そんなに何でもかんでもしゃべらなくてもいいよ」

お父さんとテレビを見ていた祥恵が、ゆみに言った。

「あら、お母さんは祥恵の山に登った話とか聞けて嬉しいわよ。だって、ゆみちゃんはいつも学校であった話を何でもしてくれるけど、あなたはちっとも学校の話をお母さんにしてくれないのだもの」

「そんな、いちいち学校であったことを全部話す子なんてそんないないよ」

祥恵は、お母さんに答えた。

「ゆみちゃんは話してくれるわよね?」

「うん!」

ゆみは、即座にお母さんに答えていた。

かおりのお見舞いにつづく

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