「ゆみちゃん、これから盗みに行くの?」
子どもたちが、ゆみに聞いた。
「でも、まだ朝早いよ」
「お店だって閉まっているよ。入れないよ」
時刻は、朝早い、かなりの早朝だった。
「そうよ、だから良いのよ」
竜と盗みに行っていた時は、いつも昼間だった。ちょうど店主が昼時とかおやつの休憩時間中の店が留守になる時を狙って、盗みに行っていた。
それが、今は早朝、しかもかなり早い時間だった。
「ほら、お店開いていないよ」
「シャッターまでしっかり閉まっているよ」
子どもたちは、お店の前までやってきて、店のシャッターがしっかり閉まっているのを確認して口々に言った。お店は、大手スーパーってほどではないが、色々な食料品が売っているスーパーだった。
そんな中、ゆみは、お店の裏側に回った。裏側には、従業員用の裏口があった。もちろん、裏口の扉も閉まっていて、鍵もかかっていた。
「どうするんだよ。鍵までかかっているぞ」
竜は、ゆみに言った。家づくりは、なんとかうまく出来たかもしれないが、さすがに盗みなんて、ゆみに経験なんかないだろう。うまくできるわけがないとほくそ笑んでいた。
ゆみは、裏口のドアに手をかけて開けようとしてみた。が、鍵がかかっていた。
「開くわけないだろうが」
竜が、ゆみのことを笑った。
ゆみは、自分の長い髪の中から1本ヘアピンを抜いた。そのヘアピンを真っ直ぐに伸ばすと、鍵穴に入れて、ぐちゃぐちゃと動かし始めた。
「バカかよ、お前は。盗みのプロじゃあるまいし、ヘアピン1個でおまえなんかに開けられるわけないだろうが」
竜が言った。
ゆみは、慎重に鍵穴に突っ込んだヘアピンを左右に揺らしている。
「大丈夫?開きそう?」
子どもたちは、じっとゆみの様子を見ていた。
「ほら、開いたよ」
ゆみは、小声で子どもたちに言うと、ドアをパタンと開いた。
「え、すごい!」
「静かに」
思わず歓声をあげた子どもたちに、ゆみは、注意した。慌てて、子どもたちも、シーのポーズを指して、店内に入る。スーパーだけあって店内のショーケースには、様々な食品が並んでいた。
「いい、自分たちの好きなものを盗るのは禁止!あたしがこれって言ったものだけを、自分たちのバックパックに詰めること」
ゆみは、子どもたちに指示した。
ゆみは、子どもたちに1箇所からまとめて盗ませるのではなく、あっちこっちの棚から少しずつ分散して盗ませるようにさせた。日持ちのしない野菜やお肉類は、自分たちの食べれる分だけ、その他のものはなるだけ日持ちのする缶詰やお菓子を中心に盗ませた。
「ほら、竜も勝手なものを盗むんじゃないの!盗むのは、あたしの言ったものだけにしなさい」
「うるさい!」
竜は、ゆみの言うことを無視して、勝手に好きなものを自分のバックパックに詰めていた。が、他の子どもたちは皆、ゆみに言われたものだけを盗んでいた。
「さあ、そろそろお店を出るわよ」
ゆみに言われて、皆は入ってきた裏口の扉から外に出る。皆の最後に、竜もやって来て、外に出ようとした。
「竜は、その荷物の中に入っているハムとソーセージ、あとお菓子の袋。それは、あたしが盗んできてって言ったものではないから、戻って棚に戻してきて」
ゆみは、竜に言った。
「うるさい」
竜は小声で言ったが、ゆみが黙って、竜のことを睨んでいる。他の子どもたちも竜のことを睨んでいるので、店内に戻っていった。
「竜、ぜったいにその辺の棚に適当に戻したりしちゃダメだからね!ちゃんと盗んできた棚に戻すこと」
後ろからゆみに言われて、竜は渋々と盗ってきた棚に戻してきた。
「はい、全員いる?」
ゆみは、子どもたちの人数を確認すると、裏口のドアを閉めて、鍵穴にヘアピンを入れて、ガチャガチャやってから、皆と一緒にスーパーを後にした。
ゆみがドアをガチャガチャやった後で、竜が裏口のドアに行って、ドアを開けようとしたが、ドアにはしっかり鍵がかかっていて開かなかった。
「あいつ、ヘアピン1本で鍵を開けるだけじゃなく、ちゃんと閉めちゃった」
竜は、ゆみの行動に驚いていた。
洋服屋さんにつづく