今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

30 ブータ先生の秘密

「かおりちゃん、何か読みたい本ある?」

ゆみは、図書室で、かおりに聞いた。

「あたしは、普通の本は読めないから」

「あ、そうか。かおりちゃんが読める本ってあるのかな」

ゆみは、目が見えない人でも読める本がないかと図書室の中を見渡した。

「さすがに、点字の本は無いよね」

かおりは、ゆみに言った。

「ね、図書室の中がどうなっているか案内してもらえない?」

「いいよ」

ゆみは、かおりの車椅子を押しながら、図書室の中をぐるぐると一周した。

「あそこがね、小等部の子たちが遊べるスペースなの。絵本とかもいっぱいあるけど、ほかに積み木とかおもちゃもあって、カーペットの上で直に座って遊べるんだよ」

ゆみは、図書室の入ってすぐのところにあるカラフルなカーペットが敷かれたキッズスペースの前で、そこがどうなっているのかを、かおりに説明した。

「今は小等部の子たちは誰もいないけどね」

空っぽのキッズスペースを見ながら、ゆみは言った。

「あたしさ、飛び級で中等部にならなかったら、きっと、こっちの小等部に入学していたのかもしれないんだよね。だから、小等部の子たちとお友達になっていたのかもしれない」

「そうか。でも、もし、ゆみちゃんが小等部だったら、私とは同じクラスじゃなかったし、お友達にもなれていなかったんだろうね」

「そうだよね、だったら、かおりちゃんとお友達になれたし、中等部になれてよかった」

ゆみは、かおりに言った。

キッズスペースに続いて、今度はかおりを奥の書庫の方に案内した。狭い書庫の通路をゆっくりと車椅子を押しながら進んでいく。

「え、なんか光っている」

ゆみは、奥の書庫の棚が金色に輝いているのを見つけて叫んだ。

「何かいるよね」

目が見えていないはずのかおりも、その金色に光るものに気づいて、ゆみに言った。

「え。あ、ブータ先生!」

ゆみは、金色に光る中に、書庫の棚の上に立っているブータ先生の姿に気づいた。金色に光る中に立っているブータ先生は、まるで神様のようだった。

「え、なに?ブータ先生って?」

かおりは、ゆみに聞いた。ゆみは、かおりに何て説明したらいいのかわからずに黙っていた。

「ゆみちゃん、どうしたの?ブータ先生って、ゆみちゃんのお友達?」

かおりは、黙っているゆみに質問した。

「あのー、お友だちというか・・なんていうか」

ゆみが返答に困っていると、

「なんだよ。もっとちゃんとおいらのことを紹介しろよ」

ブータ先生が書庫の棚から飛び降りて、こちらにやって来ながら、ゆみに文句を言った。

「こんちわ」

ブータ先生は、かおりに挨拶した。

「あら、こんにちは」

かおりは、ブータ先生の方に返事しながら、自分の側にやって来たブータ先生の身体を手で触って確認していた。

「あなた、ブタさん?っていうかブタのぬいぐるみさん?」

かおりは、ブータ先生の身体を手で触って確かめながら質問した。

「まあ、おいらはブタじゃないんだけど。まあ、人間界では、おいらの姿をブタのぬいぐるみだと認識する人が多いみたいだな」

「あら、そうなの」

かおりは、ブータ先生の身体を手で抱き上げながら言った。

「かおりちゃん、ブータ先生の姿が見えるの?」

ゆみは、ブータ先生を持ち上げているかおりに聞いた。

「え?ええ。見えるっていうか、目が見えないから、見えていないんだけど、手で触れれば、ブタさんのぬいぐるみだなってことはわかるわよ」

かおりは、ゆみに答えた。

「今、かおりちゃん。ブータ先生とお話していた?」

「うん。だって何か話しかけてくるんだもん」

かおりは、ブータ先生の頭を撫でながら答えた。

「あたしもブータ先生のこと見えるし、おしゃべりもできるの」

ゆみが、かおりに言った。

「でも、お姉ちゃんとか、百合子お姉ちゃんには、ブータ先生が見えないみたいなのよ。ううん、見えているんだけど、それはただのブタのぬいぐるみで、おしゃべりとかは聞こえないみたいなの」

ゆみは、かおりに説明した。

「そうなんだ。あたしにはブータ先生の声、ちゃんと聞こえるよ」

「そうか、良かった!だって、ブータ先生って、今まであたしにしか聞こえないから、あたしがなんか頭おかしくなったのかと思って心配してたの」

「大丈夫。あたしにも、ちゃんと聞こえているから」

かおりは、ゆみに笑顔で答えた。

「それはじゃな、心が荒んでいるんだな」

ブータ先生は、2人に答えた。

「心が荒んでいる?」

「そうじゃ。心が荒んでいる人間には、おいらの声は聞こえんのじゃ。心がきれいで清い人だけ、おいらの声が聞こえるし、話もできるのじゃ」

ブータ先生が言った。

「え、ちょっと待ってよ!それじゃ、あたしのお姉ちゃんは、心が荒んでいることになってしまうじゃないの!」

ゆみは、ブータ先生の言葉に反論した。

「そうかもな」

「ちょっとそれって、お姉ちゃんに失礼ね。しかも、百合子お姉ちゃんなんて、あなたのことを大切にしてくれている持ち主さんじゃないの。ブータ先生ってちょいちょい失礼なときあるよね」

ゆみは、ブータ先生に抗議した。かおりは、ブータ先生と仲良さそうに抗議するゆみの声を聞きながら笑っていた。

「まあ、心が荒んでいるっていうのは撤回してやろう」

ブータ先生は、ゆみに言った。

「ともかく、この学校でおいらのことが見えるのは君ら2人だけなんだから。その辺のところは、ちゃんと理解してもらわんとな」

「理解?」

「そうじゃ。理解じゃ」

ブータ先生は、2人に言った。

「ほら、古くは魔法使いサリーとかアラレちゃんとか、最近ではプリキュアだって皆、ヒロインはちゃんと秘密は守っておるだろう」

「ふーん。ブータ先生って秘密なんだ」

ゆみは、ブータ先生のことを見つめながらつぶやいた。

「あなたたち2人は仲が良いのね。2人でずっととても楽しそうにお話をしているんだもん。ゆみちゃん良かったわね、仲の良いお友達ができて」

図書室の入り口の方にある受付から、野口先生が奥の2人に声をかけた。野口先生には、ブータ先生が見えていないようだった。正確には、ブタのぬいぐるみとして見えてはいるのだが、ブータ先生の話す声や動く姿については全く見えていないようだった。

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