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秘密基地

「先生、どこに行くの?」

屋上でお昼を食べ終わって、下の音楽室に戻るとき、馬宮先生だけが非常階段を降りると、音楽棟の裏手の細い道を進んでいく。

「ちょっと冒険してみようか」

馬宮先生は、少しニヤリと微笑みながら、ゆみたちに言った。ゆみたちも、馬宮先生の後について音楽棟の裏手の細い道を進んでいく。

「こんなところに道があったんだ」

「あ、ほら、こっちに行くと、屋上から見えていた花壇だよ」

麻子が、花壇の方向を指さして言った。

「こっちの方だったよね」

馬宮先生は、花壇と反対の方向に進んでいく。

「先生、どこに行くの?」

まゆみが聞いた。

「もしかして、さっきの男の子のいた方向・・」

ゆみが、まゆみの後ろを歩きながら言った。

「うん。さすが、ゆみちゃん。よくわかってるじゃない」

そういうと、馬宮先生は、さっき屋上から見たとき、男の子がお弁当を食べていた茂みの中辺りまでやってきた。

「なんかここだけ囲いになっている!」

背の低いゆみは、皆より目線が低いため、茂みの中に板とかで囲まれている場所があることに気づいた。

「本当だ。さっきの男の子は、ここをまるで自分の基地のようにして、この中でお弁当を食べていたのね」

馬宮先生は推測した。

「すごい!先生、まるで名探偵コナン君だね」

麻子が言った。

「でも、なんで、こんなところでお弁当なんか食べていたのかしら?」

馬宮先生は、疑問に思っていた。

「それは、きっと皆にお弁当を食べているところを見られたくないから」

突然、背後で声がして、皆は驚いて振り向いた。

「あ、栗原さん」

栗原淳子のことを知っているまゆみが叫んだ。

「え?」

「2組の栗原さん」

「ああ」

まゆみが、ほかの皆に栗原淳子のことを紹介して、皆は栗原淳子に頷いた。

「それで、皆に見られたくないって?」

「なんか、自分がお弁当を食べているところを他の人に見られたくないみたいですよ」

淳子は、良明のことを説明した。けど、夕子から聞いたニューヨークでクラスの他の女の子に食べさせてもらっていたという話はしなかった。

「そうなんだ」

「それじゃ、せっかくの彼のお弁当を食べられる場所なんだから、とっといてあげなきゃ」

ゆみは、良明のことを知らないが、なんとなく彼のお弁当を食べる場所が無くなったらかわいそうって思って言った。

「そうだね。ゆみちゃんの言うとおりだから、そっとして置いてあげましょう」

馬宮先生も、そう言って皆は、音楽室に戻ろうと、今来た道を振り返った。

「それは、片づけてしまわないとだめだな」

振り返ると、その場所に大友先生が立っていて、皆に言った。

「あ、大友先生!」

「なんで、皆。あたしたちの後について、ここに来ているの?」

まゆみが言った。

「おまえたちが音楽室の裏側に入るのが見えたから、なんだろうって思っただけだよ」

大友先生は、そう言うと、皆の間を抜けて、茂みの中の秘密基地に入り、その周りに囲まれていた板とかを取っ払ってしまった。

「え、なんで?かわいそうだよ」

ゆみは、大友先生に抗議した。

「かわいそうじゃない!」

大友先生は、逆にゆみに言った。

「ここは食堂ではないのだから。こんなところでお弁当食べるのでなく、ちゃんと自分で皆と一緒にクラスの教室で食べられるようにならないと、その子のためにもならないだろう」

大友先生は言った。

「お弁当食べる場所が無くなったらかわいそうで、こんな場所を取っておいてあげるのは逆に、その子のためにならないだろうが」

大友先生に言われて、ゆみもなんとか納得した。ほかの皆も、それは確かにそうだなって思った。

「さあ、おまえたちも午後の授業が始まるぞ」

「はーい」

基地を片付け終わった大友先生に言われて、皆はその場所を離れた。

「午後の授業って、大友先生の授業なんだけど」

「そうだよな。音楽室で授業始めるから行くぞ」

皆は、音楽室の中に戻った。午後の授業は、8年生全学年、1組から4組まで揃って、秋の合唱祭の練習時間だった。

皆は、音楽室のひな壇に上がる。さすがに、学年全員が上がると、広いはずのひな壇も結構ぎゅうぎゅう詰めだった。

「熱いな」

皆は、熱い熱い言いながら、狭いひな壇に並んでいた。合唱の時間は見学のゆみだけは、手前に置かれた椅子に腰掛けていた。7年のときは、かおりちゃんも車椅子で一緒に並んで見学していたのだが、今はゆみ1人だった。

「ちょっと聞いてくれ」

全学年による合唱の練習が終わった後、授業の少ない残り時間で、大友先生が皆に言った。

「まあ、俺は4組の担任だから、ほかのクラスの生徒さんのことを、そのクラスの担任を差し置いてとやかく言うのは、越権行為かもしれないが」

大友先生は、そう前置きしてから、

「誰とは言わないが、ここの音楽室棟の裏手にある茂みの中で、お昼のお弁当を食べている生徒が8年生にいる」

大友先生は、チラッとひな壇の上の良明の方を見ながら話していた。がチラッと見ただけなので、他の生徒には、それが良明のことを言っているとは気づかなかった。

ただ、さっきその場にいたゆみ、それに麻子やまゆみ、淳子にはわかっていた。

「お昼のお弁当は、クラスの皆と一緒に食べてこそ、学校生活の意味があるというものだ。もし、皆の中で、そういう生徒がいるって気づいたなら、ぜひ声を掛けてやって、一緒に食べれるようにしてあげてほしい」

大友先生は、生徒たちにお願いした。

「そのために、ホームルームを開く必要があるのならば、担任の先生に相談して、そのための時間を割いてもらいなさい。それが、もし4組ならば、4組の生徒たちは俺のところに相談に来なさい。そしたらホームルームをそのために時間を割こう」

大友先生は、自分の担任の4組の生徒たちに言った。

「まあ、4組は今のところ、そういう生徒さんはいないようだが」

そう大友先生は締めくくった。

良明は、ひな壇の上で今の大友先生の話を聞いて、自分があそこでお弁当を食べていたことがなぜかばれていると思った。そして、もうあそこではお弁当を食べられない、どこか別のお弁当を食べられる場所を探さなくてはと思っていた。

夏のクルージングにつづく

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