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ブタの初登校

「ゆみ、出かけるよ」

祥恵は、玄関先で学校に行くときのバッグを持ちながら、部屋の中に声をかけた。

「はーい、ちょっと待って」

ゆみは、慌てて部屋の中から玄関に出てきた。

「そんなに慌てなくてもいいわよ。転ぶと大変だからね」

お母さんは、ゆみに言った。

「それじゃ、行ってきます」

「いってらしゃい」

祥恵とゆみは、玄関を出て学校へ向かった。ゆみたちは、いつも家を出ると駅前の商店街を抜けて東松原駅まで歩いて行く。そこから井の頭線に乗って、学校のある井の頭公園駅まで行って、そこから学校までは15分ぐらいの歩きだ。井の頭線は、東松原駅から2つ目の永福町駅で急行の待ち合わせをする。が、ゆみたちは井の頭公園駅には急行が停まらないので、急行には乗り換えない。おかげで他の人たちが急行に乗り換えてくれるので、朝夕の通勤時間とはいえ永福町駅に着くと少し電車の中が空いてくれるのだ。

「ゆみ。空いたから座らせてもらいなさい」

永福町駅で空くと、たまに席が1つ分空いたりするときもある。そういうときは、お姉ちゃんの祥恵は、いつもゆみに席を譲ってくれるのだった。

「お姉ちゃん、荷物を持つよ」

ゆみは、空いた席に座ってから祥恵に言った。

「大丈夫よ。お姉ちゃんのバッグは荷物いろいろ入っているから、あなたには重たいからね」

祥恵は、ゆみの申し出を断った。ゆみは、席に座りながら、前に立っている祥恵がどこかに行ってしまわないように、しっかり祥恵の腕を握っていた。

ゆみが電車の中をきょろきょろと見回していると、向かいの網棚の上にポンとブータ先生が現れた。

「え・・」

ゆみが網棚の上のブータ先生を見ていると、ブータ先生は上手に両腕を高く上げて飛び上がって、つり革にぶら下がった。そして、つり革からつり革に上手に移動してゆみの真上のつり革までやって来た。

そして、ゆみの頭上から膝の上にジャンプした。

「ブータ先生・・」

「よっ、おはよう」

ブータ先生は、片手をゆみの方に上げて挨拶した。

「え、ちょっと。これから、あたし学校に行くんだけど・・。ついてきちゃダメよ」

ゆみは、ブータ先生の側に顔を近づけて小声で囁いた。

「何を言っているんだ。俺は、おまえさんの救世主なんだぞ。いつも側に見守ってあげなければ意味ないだろう」

ブータ先生は、ゆみに言った。

「どうせ、おまえさん以外には誰もおいらの姿は見えておらんよ」

ブータ先生は、そう言うと、ゆみの膝の上で丸くなって眠ってしまった。

「え、ゆみ。そのブタさん持ってきちゃったの?」

前に立っている祥恵が、ゆみに言った。

「えっ?」

ゆみは、祥恵のほうを見上げた。ブータ先生は、自分の姿は他の人には見えないとか言っていたのに、お姉ちゃんに見えているみたいなんだけど。

「しょうがない子ね。ぬいぐるみなんか学校に持ってきて、先生に怒られても知らないよ」

祥恵は、ゆみのことを笑っていた。

電車は、井の頭公園駅の1つ手前の三鷹台駅に着いた。三鷹台駅には、立教女学院があって、そこの生徒さんが、どこかに出かけるのだろうかたくさん乗って来た。

「うわ」

立教女学院の生徒さんたちに押されて、祥恵は、ゆみの前から離れて奥の方に移動させられてしまっていた。

「発車します!」

車掌さんのアナウンスが流れて、電車は発車して隣の井の頭公園駅に着いた。奥まで押されてしまった祥恵は、仕方ないので奥の扉から駅に降りた。ゆみも降りなければならないのだが、目の前には立教女学院の生徒たちがいっぱいいて扉まで行けず降りられそうもない。ゆみは席から立ち上がりかけながら、どうしようか悩んでいた。

「ねえ、降りたいの?」

ゆみのすぐ側にいた立教女学院の高校生ぐらいのお姉さんだろうか、彼女がゆみに声をかけてくれた。ゆみは、お姉さんに黙って頷いた。すると、

「すみません!この子、降ります!」

お姉さんが周りの人たちに大きな声で声をかけてくれて、ゆみの前の車内が広く道が開けられた。

「ありがとうございます」

ゆみは、お姉さんにお礼を言うと、

「さあ、大丈夫だから急いで降りなさい」

お姉さんが扉のところまで手を引いてくれて、ゆみは電車を降りることができた。

「大丈夫だった?危ないところだったね」

降りたところで、祥恵が待っていてくれた。それから、2人は手を繋いで駅の改札を出て、学校まで歩き出した。ゆみの肩には、ブータ先生が乗っかっていた。

「おまえさん、1人だったら危うく電車を乗り過ごすところだったな」

ブータ先生は、肩の上に座りながらゆみに言った。

「本当、あぶなかった」

「早速、救世主ブータ先生がお役にたったな」

ブータ先生は、ゆみに言った。

「そうなの?」

「お前さん1人だったら、電車の扉の前まで道がなくて降りられず、吉祥寺駅まで行ってしまうところだっただろう。だから俺様が、あの女性を使って道を開けさせたのじゃ」

「そうなんだ」

「うむ、そうじゃぞ」

「それは、ありがとうございます」

なんとなく電車を降りることが出来たのは、あのお姉さんの親切のおかげに思えたが、ブータ先生に言われるとそういう風にも思えたので、ゆみはブータ先生にお礼を言った。

大友先生につづく

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