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大友先生

「ゆみ、行くよ」

祥恵は、ゆみに声をかけた。

「どこに行くの?」

「次は音楽の授業だから、合唱室に移動よ」

「そうなんだ」

ゆみは、祥恵に言われて、音楽室は別の場所なのだとはじめて知った。

「ゆみは、音楽室がどこか知らないでしょう?だから、初めだけでも一緒に行かないとね」

祥恵は、ゆみに言った。

「ゆみちゃん、次は合唱だよ。音楽室に行こう」

そう誘ってくれたのは、同じクラスの麻子だった。

「麻子に音楽室まで連れていってもらうの?」

祥恵は、ゆみに聞いた。

「あ、ゆみちゃんは、祥ちゃんと一緒に行くのか。それなら別に良いんだけど」

「ううん。麻子、ゆみのこと合唱室まで連れていってあげて」

ゆみが返事する前に、祥恵が麻子に返事していた。

「それじゃ、行こうか」

「うん」

ゆみは、麻子と一緒に教室を出ると、合唱室に移動するため中等部の校舎を出た。祥恵は、ゆり子や美和と一緒に合唱室に向かっていた。

「ゆみちゃん、合唱室がどこか知っている?」

「ううん。知らない」

「じゃ、私が案内してあげるね」

麻子は、ゆみのことを合唱室まで連れていってくれた。まだ中等部に入学したばかりの頃は、祥恵が教室の移動を一緒に行ってあげなければ、ゆみには、お友だちが他に1人もいなかったが、最近では、ゆみと仲良くしてくれるクラスメートもけっこう増えてきていた。

合唱室は、中等部の校舎を出て、ずっと小等部の平屋建ての校舎を抜けた一番先にあった。入り口からその校舎の中に入ると、中は2つの部屋に別れていて、左側の部屋はひな壇になっているステージもあって広かった。反対側の部屋は、少し狭いが大きなピアノが中央に置いてあり、ピアノを弾く先生を囲んで、生徒たちは合唱できるようになっていた。

「こんなところに合唱室があるなんて知らなかった」

「ゆみちゃん、小等部も明星学園でしょう?」

「うん」

「それじゃ、小等部の校舎でお勉強してなかったの?」

「していたけど、こんな一番奥まで来たこと無かった。それに、あたし小等部は、たった三年間しか通えなかったです」

「そうか。ゆみちゃんは、飛び級しちゃう優秀だったんだもんね」

合唱室に入ると、先に来ている生徒たちが、ひな壇の上にしゃがんで雑談をしていた。

「あ、ゆみちゃん。麻子」

先に来て、ひな壇にしゃがんでおしゃべりしていた由香が声をかけてきた。

「ここ、いい?」

「もちろん」

麻子とゆみは、由香の隣の空いているひな壇に腰掛けた。

「ゆみちゃん、合唱は初めて?」

「うん」

「そうか。皆で、ここのひな壇に並んで、立って歌を歌うんだよ」

「あたしも歌っても平気なのかな?」

ゆみは、由香に聞いた。

「え?もちろん歌って平気よ」

「音痴だから、歌いたくないとかあるの?」

「そうじゃないと思うけど、あたし、小等部のときは、いつも体育は見学だったの」

「そうか。まあ、体育は運動だからね。身体が不安な人は見学もありかもしれないけど、合唱は別に関係ないでしょう」

皆が、そう言ってくれた。

祥恵も、ゆり子、美和とやって来て、ひな壇に並んだ。

「ゆみちゃん、ブータ先生連れてきたんだって?」

ゆり子は、ゆみの隣のひな壇に並んで、話しかけてきた。

「うん。勝手について来ちゃったの」

ゆみは、ゆり子に言った。

「勝手に?そうか、ブータ先生、きっと独りぼっちで家で留守番するの寂しかったんだね」

ゆり子は、優しくゆみの頭を撫でてくれながら答えた。たぶん、ゆり子は、本当にブータ先生が勝手についてきたとは思っていなさそうだった。

「それでは、合唱の授業をはじめます」

青いデニムのジャケットにジーンズ、頭の毛がいちばんてっぺんだけ丸く禿げている先生が、皆の前に立って挨拶した。

「私は大友といいます。大友先生です」

そう言うと、大友先生は、皆のことを軽く合唱させて、君は声が高いからソプラノ、そっちの男子はバス、テノールと、ひな壇の場所を4分割して、それぞれのパートに別れさせた。

「君は、少し低いからアルトだな」

祥恵や美和、ゆり子はひな壇中央左側のアルト席に移動になった。

「君は、声が高いからソプラノね」

ゆみは、ひな壇左側のソプラノ席に移動させられそうになった。

「あ、あの、お姉ちゃんなんで・・」

ゆみは、大友先生のグループ分けは無視して、アルトの席に移動しようとしていた。

「あたしのお姉ちゃんなの」

「お姉ちゃんだろうが合唱には関係ないだろう。別にお姉ちゃんだからって、これから先ずっと一生お姉ちゃんとくっついていなければならないことはないだろう」

大友先生に、ゆみは手を引かれてソプラノの席に移動させられた。ゆみがお姉ちゃんと別々になるので泣きそうな顔をすると、

「泣いたってだめだよ。授業なんだからな」

大友先生は、ゆみのことを優しく睨んだ。

「ゆみちゃん、あたしと同じ席だよ」

ソプラノ席の麻子と由香が、ゆみに声をかけてくれたので、辛うじて泣かないで済んだゆみだった。

ゆみ、倒れるにつづく

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