今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

2 ナーサリースクール

「ゆみ・・」

母は、近所のスーパーにちょっと買い物に行っただけなのに、そこから帰って、家の中に私の姿が見当たらないと心配で、私のことを家じゅう必死になって探し回っていた。身体の弱い私が家から外に出れるわけもなく、リビングのソファの下で眠りこけていたりするのを発見すると、母はとても大切そうに私のことを抱き上げると、自分のベッドまで運んでいった。

私は、母の実家、ニューヨーク郊外で、母と母の両親、私の祖母、祖父にとても大切に育てられていた。まだ父や姉とは、実際にリアルでは会ったことがなかったが、インターネットを通じて、画面越しにオンラインでは何度も会っていた。画面の向こうにいるのが、私のお父さんとお姉さんだというのは、薄っすらと理解していたようだ。

月に一度の病院への診察以外、家から外へは一歩も出たことがなかったので、リビングに置いてあったテレビが私の唯一の友人だった。アメリカのテレビなので、画面から聞こえてくる音声は英語だった。テレビからは英語を耳にして、英語を理解していた。だが、パソコンの向こうのお父さんやお姉さんは日本語を話している。お母さんや祖母、祖父も私との会話は日本語で接していた。

おかげで、私はテレビからは英語、皆との会話は日本語とバイリンガルで言葉を理解できた。ほかの同年齢の子たちが、近所に遊びに行ったり、お買い物に行ったり、ときには旅行に出かけたりするのに対して、私は基本的にずっと家の中だけで過ごしていた。だから、テレビを見たり、本を読んだりする時間だけは、たっぷりあった。テレビで英語の言葉や情報などを吸収し、本を読んで、テレビで吸収した情報源などの知識をより深めていった。

はじめ、お母さんが買ってきてくれた子供向けの絵本や本だけを読んでいたが、それらの本に読み飽きてくると、戸棚に積んであったお母さんやお婆ちゃんたちの本までも読み漁っていた。

「ちょっと、ゆみは何の本を読んでいるの?」

私が、お母さんが医大受験のときに読んでいた人体解剖の書籍を読んでいたときに、お母さんは私が読んでいる本を覗き込んで驚いていたこともあった。

「難しくないの?意味わかるの?」

お母さんに聞かれて、私は本に書いてあった英語とドイツ語混じりの文章をスラスラと読んでみせた。英語と日本語は、普段のテレビや日常会話などで理解できたとして、どうしてこの子はドイツ語までも理解できたのかしら。

「だって、前にテレビでドイツ語講座やっていたし」

ゆみがサラッとお母さんに答えると、母は驚いていた。

「この子は、きっと頭の良い子に育つわよ」

祖母は、母に話した。

「あんたが苦労して入学した慶応大学にも楽に合格しちゃうかもしれないわね」

「そんな、まさか」

母は、私の頭を撫でながら笑顔で答えた。

そして、私はニューヨークの祖母、祖父の家で、母のもと大切に育てられて、3歳、4歳になった。同年齢のほかの子たちは、ナーサリースクール、幼稚園に通い始める年齢だ。

私は、その頃にはだいぶ足腰もしっかりしてきてはいたが、まだ長時間、家から離れて、外の場所で過ごせるほどではなかった。そのため、他の子たちのようにナーサリースクールに通うこともなかった。

おかげで、さらに家で過ごす時間はたっぷりとできた。テレビにも見飽きて、お母さんにはよく買い物の帰りに、近所の図書館に寄って、本を借りてきてもらっていた。その頃、読んでいた本は、およそ幼稚園児が読むような絵本などではなく、中学、高校生のお兄さん、お姉さんたちが読んでいるような本が多くなっていた。

「ゆみ。頭の中の知識がどんどん深まっているわね」

中学のお兄さん、お姉さんたちが読んでいるような本を一生懸命に読書している私の姿を眺めながら、母と祖母はよく話していた。祖父などは、私が難しい本を読んでいると、こいつは天才だ、将来は大物になるぞ、うちの経営コンサルタントオフィスの跡継ぎになれるかもしれないぞと喜んでいた。

「お姉ちゃん、その本はなに?」

インターネットで日本にいる姉とオンラインで話しているときに、姉が持っていた本を覗きこんで、ゆみは聞いた。

「これは学校の教科書」

姉は、オンラインのカメラに自分の教科書を映しながら、私に答えた。

「パイの二乗かける・・」

「あんた、わかるの?」

ゆみは、姉に頷いて、姉の持っている教科書に書かれている内容を解説してみせた。

「なんでわかるの?私だって殆ど理解していないのに」

姉は、私が解説した教科書の内容を聞きながら驚いていた。

「ゆみは、1日じゅうずっと本ばかり読んでいるからね。本の知識だけはあるのよ」

ゆみの横にいた母が、パソコンの向こうの父と姉に説明する。

「こいつはすごいな!天才かもしれないぞ」

「私よりも頭が良いかも」

「医大に一発合格できるかも!うちの今井デンタルクリニックを継がせよう」

父が祖父と同じようなことを発言しているのを聞いて、母は思わず吹き出していた。

そんなわけで、ほかの同年齢の子たちが、ナーサリースクールに通っている時間だけ、他のことに費やす時間だけはたっぷりとあって、テレビや読書で知識だけはどんどん吸収していった。

もちろん読書するだけでなく、読書をしている間に、病院の先生からもらった軽めのダンベルとかの筋力グッズを握ったりしながら、少しずつ体力も補っていた。

「今日は近所のスーパーまで一緒にお買い物に行こうか」

母は、私にUV加工の帽子や長袖の服を着させて腕が出ないようにする。UV加工の屋根が付いたベビーカーに乗せた、完全防備の姿でならば近所へお買い物にも行けるようになってきた。

「もうナーサリースクールは無理だけど、来年からはキンダーガーデンに通えるといいわね」

母は、私に話しかけた。

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