「やっと、一通り片付いたかな」
お父さんは、車の中を見渡してから、皆に言った。
「そうね。なんとか片付いたけど。まだまだ家の中には、一緒に持っていきたいものがいっぱい山ほどあるんだけどね」
お母さんが言った。車の中は、きれいに荷物が仕分けられていた。座席の足下には、しっかり脱いだ靴を置いておく場所まで作られていた。
お父さんの車はジープタイプ、ステーションワゴンなので、座席スペースと後ろのトランク部分がつながっている。後部座席中央の部分を倒すと後ろのトランクに歩いていけるようになっていて、トランクの両端には、洗面スペースやちょっとした化粧台まで作られていた。ここのトランクスペースに座って、朝晩の洗面や化粧などをする気らしかった。
「なんか、すごく上手に収納できたね」
祥恵は、お母さんに言った。
「まるで、お父さんの車がキャンピングカーみたい」
「お母さんの車は、持っていかないの?」
ゆみに言われて、お母さんは一瞬、自分の車も持っていけば、まだもう少し荷物を持っていけるかなとも思った。
「地下シェルターというのが、どのぐらいの広さがあるのかわからないけど。さすがに一家族で車を2台持っていくのは迷惑だろう」
お父さんが、言った。
「あと、ゆみはお風呂場の洗面セットを持ってきて。それと皆のベッドのところに置いてあるパジャマも」
お母さんは、ゆみに指示した。
「祥恵は、診察室に行って、往信用の医療セットがあったでしょう。お父さんが無駄遣いしたドイツ製の治療用具が全部バッグの中に入っている高かったやつ。あれを持ってきてちょうだい」
祥恵にも、持ってくるものを指示する。
「おいおい、あれまで持っていくのか?」
「あの医療セットは高かったでしょう。まだ一度も使っていないのに、もったいないじゃない」
お母さんは、まだ昔にお父さんが無駄に高価なものを衝動買いしたことを根に持っているようだ。
「診察用具を持っていて、地下シェルターで診察する気か?」
お父さんは、お母さんに聞いた。
「あれば、診察できるでしょう。それに、地下で歯が痛くなる人だって出てくるでしょうし。診察用具があれば、お金が足りなくなったときに、仕事もできるじゃないですか」
「それはそうだ。やっぱり、あのときにちょっと高かったけど、あの診察セットを購入しておいて良かったな」
お父さんは、つぶやいた。
「もっと安い診察セットでも良かったんだけどね」
お母さんに一言いやみを付け足されて、お父さんは少し苦笑していた。祥恵は、その例の診察セットが一式入った真っ黒いバッグを持って、病院から出てきた。
「はい、ごくろうさま」
お母さんは、祥恵からバッグを受け取ると、トランクの隅の空いていたところにバッグを置いた。
ゆみが、お風呂の洗面セットと皆のパジャマを持って、家から出てきた。お母さんは、洗面セットをトランク脇に作った洗面台の下のスペースにしまった。皆のパジャマは、寝るときに着替えられるように、それぞれの座席の端っこに、枕と毛布とともに置いた。
「さあ、出発しようか」
お父さんが言って、車に乗り込んだ。ほかの皆も、車に乗り込む。
「メロディ、乗って」
ゆみは、猫の美奈ちゃんとマリちゃん、ギズちゃんを抱いて車に乗せながら、犬のメロディも車に乗せる。
「よし、出発!」
お父さんがエンジンをかけて、車を駐車場から出し、道を走り出したときには、時刻はもう夕方の6時を過ぎていた。辺りは、すっかり暗くなってきていた。お父さんは、車のライトを付けて走っている。
よその家で夜ごはんにつづく