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音楽室の昼休み

「ゆみ君は、ここに腰掛けていなさい」

次の音楽の授業のとき、ゆみは大友先生に見学用の椅子を用意されてしまって、そこに座って、クラスの皆が合唱するところを見学させられるようになってしまっていた。

授業に出ても見学しかできないゆみなので、もうあまり音楽室とは関わりが無くなってしまったのかというと、実はそうではなかった。

「ゆみ、お昼のお弁当食べに行こう」

ゆみは、お昼休みの時間、麻子たちに呼ばれて、皆でお弁当を持って音楽室に出かけるようになっていた。以前だったら、祥恵とゆり子、美和たち3人が集まってお弁当を食べている端に、祥恵の妹ということで混ぜてもらって食べていたのだが、最近では、ゆみには、ゆみの仲の良い子がクラスに出来てきて、その子たちとお昼を食べるようになっていた。

「きょう、クッキー焼いてきたの。あとで、ゆみちゃんにもあげるね」

「うん!」

ゆみは、麻子たちと音楽室に向かって歩きながら、おしゃべりしていた。

音楽室のある平屋の建物に入ると、二つの音楽室に挟まれた中間にある音楽職員室に入った。そこには、新任の馬宮先生という女性の先生がいて、ゆみたちは、いつも馬宮先生と一緒に、そこでお昼を食べているのだった。

職員室の扉を入ったところにある応接室のテーブルの上に、持ってきたお弁当を広げて食事しているのだった。馬宮先生も、自分で作ってきたお弁当を広げて、生徒たちと一緒に食べているのだった。

「なんか弾こうか」

食事を終えると、馬宮先生が言って、生徒たち皆は、少し狭い方の音楽室に移動して、その部屋の中央にあるグランドピアノで馬宮先生が演奏してくれるのだった。そのピアノを、生徒たちは囲んで先生の弾くピアノを鑑賞するのだった。

「そこを押してみてもいいよ」

馬宮先生は、1曲演奏が終わると、横にいたゆみに言った。

ゆみは、馬宮先生の演奏中、ずっと先生の座っている椅子の真横に置いてあった椅子に腰掛けて、先生の演奏を聴いていたのだった。

もちろん、先生の演奏はちゃんと聴いていたのだが、聴きながら、自分の目の前にあるピアノの鍵盤を興味深そうに眺めていたのだった。

「押してもいいの?」

「うん。別に、押したからってピアノは噛みついたりしないから」

馬宮先生は、笑顔でゆみに答えた。

ゆみは、馬宮先生に言われて、そっと1本の指を鍵盤に近づけて、押してみた。ピアノは、ゆみが押した鍵盤に反応して、音を鳴らした。

「うわ、鳴った」

「今度は、その隣の鍵盤を押してみて」

馬宮先生に言われて、ゆみは今押した鍵盤のすぐ隣りの鍵盤も押してみた。さっきの鍵盤とは1オクターブ違う音がピアノから出た。

「そしたら、先生と同じように弾いてみて」

馬宮先生は、ゆみが真似して弾きやすいように、指1本ずつで順番にピアノの鍵盤を弾いてみせた。先生の弾く鍵盤の順番を真似しながら、ゆみも同じように指1本で鍵盤を押してみた。

「あ、猫踏んじゃった!」

ゆみは、自分が押した鍵盤から流れてきたメロディを聴いて叫んだ。

「そう、猫踏んじゃったのメロディ」

馬宮先生は、そう言って、ゆみにピアノでの猫踏んじゃったの弾き方を教えてくれた。ゆみは、先生にピアノの弾き方を教えてもらいながら、一生懸命鍵盤を叩いていた。

「うん。上手いじゃない!」

それから、馬宮先生は、昼休みの度に、ゆみにピアノの弾き方を教えてくれるようになった。猫踏んじゃったを覚えた後は、蛍の光とか簡単に弾ける曲を順番に教えてくれた。2人がピアノを昼休みに弾いている姿を、大友先生は職員室から見ていた。

次の音楽の時間だった。ゆみは、またクラスの皆が合唱している姿を、椅子に座って見学していた。

「よし、大分うまくなってきたじゃないか」

大友先生は、クラスの皆の合唱が終わると、生徒たち皆に言った。

「今日の合唱は、ここまでにしよう」

大友先生は、クラスの皆に伝えた。授業が終わる時間が来るまでに、まだ5分ほど余裕があった。

「ちょっと皆、いいかな」

大友先生は、クラスの皆に話しかけた。

「まだ授業の終わる時間まで少し時間があるから、ここで1曲、蛍の光を合唱しようと思うんだ」

そう言うと、大友先生は、蛍の光の歌詞カードを生徒たち皆に配った。そして、ピアノの前に来ると、ゆみのことを呼んだ。

「はい・・」

呼ばれたゆみが、先生の側に行くと、ピアノの前に座らせられた。

「蛍の光、弾けるだろう?」

「え、あたし?指1本ずつでしか弾けないよ」

ゆみは、大友先生に聞かれて答えた。

「それでもいいよ。弾いてごらん」

ゆみは、大友先生に言われて、ピアノの前に座らせられて、馬宮先生に習った蛍の光を、指1本ずつで弾かさせられた。ゆみの弾くピアノの音に合わせて、大友先生が指揮棒を振ると、ひな壇の上の生徒たちは蛍の光を歌い始めた。

ゆみは、蛍の光の1番を弾き終わった。大友先生は、そのまま指揮棒を振り続けて、生徒たちも皆、2番を歌い始めようとしていた。が、ゆみは、そこでピアノを弾くのをやめた。

「あれ、どうした?」

「だって、あたし1番しかまだ弾けないもの」

ゆみは、大友先生に答えた。それを聞いて、大友先生はコントのようにガックシとズッコけるポーズをして、指揮棒を振るのをやめた。クラスの皆も、笑いながら歌うのを途中で中断した。

「そうか。それじゃ仕方ないな」

大友先生は、演奏をやめると、ゆみに言った。

「皆、どうだったかな?ゆみ君の演奏は?歌いにくくはなかったか?」

「いいえ」

「ぜんぜん」

「それじゃ、秋に開催される中等部の合唱祭があるのだが、そこで、ゆみ君の弾くピアノでクラスの皆が合唱するっていうのはどうだろう?」

大友先生は、クラスの皆に提案した。

「良いと思う」

麻子たちが大友先生に賛成した。

「それでは秋までまだ時間はたっぷりあるけど、皆もその方向で考えておいてくれ。それでは、本日の授業は終わり」

大友先生が言うと、授業の終わりを告げるチャイムが校内に鳴った。

かおりお姉さんにつづく

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