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ブータ先生からの手紙

「ゆみちゃん」

ゆり子は、4組の教室に行くと、ゆみの姿を見つけて声を掛けた。

「あ、ゆり子お姉ちゃん」

ゆみは、ゆり子に返事した。

中等部の生活も慣れてきて、ほかのお友だちとは、麻子とかって普通に呼び合うようになっていたのだが、なんとなくお姉ちゃんのお友だちとして元々知っていたゆり子や美和には、未だにゆり子お姉ちゃん、美和お姉ちゃんと呼んでいるゆみだった。

「はい、これ。ブータ先生からのお手紙だよ」

ゆり子は、本当は自分が古文のレポートを書いている合間に、落書きしたのだろう手紙を、ゆみに渡しながらブータ先生から預かったように振る舞っていた。

「え、ブータ先生から?」

「うん。朝、タンスの上のブータ先生が口に加えて、私に手渡してくれたの」

「そうなんだ」

ゆみは、ゆり子からもらった手紙を手に取った。

「開けて、中を読んでみたら?」

「うん」

ゆみは、手紙の封筒を開けて、中からレターパッドを取りだした。ゆり子も、朝一度見ているのだが、ゆみの背後から手紙を覗きこむ。

あのあまり上手でないブタや動物たちの絵が描かれている。それを見て、やっぱヘタだよな、私の絵。ゆみに何を描いたのかわかってもらえるかなと、不安になるゆり子だった。

「あ、向こうでも元気だね。ブータ先生」

ゆみは、手紙の中身を読んでから、ゆり子に言った。

「向こう?元気?」

ゆり子は、なんのことかわからずに、ゆみに聞き返した。

「ゆり子お姉ちゃんとも、ブータ先生おしゃべりするようになったんだね?」

ゆみは、ゆり子に聞いた。

「おしゃべり?」

「だって、ブータ先生がゆり子お姉ちゃんに、この手紙渡したんでしょう?」

「そ、そうね」

ゆり子は、慌ててゆみに返事した。

「ブータ先生が、向こうでいつも一緒にいてあげたら、おじいちゃんの病気も良くなってきたんだね」

ゆみは、ゆり子に手紙で読んだ内容を繰り返した。

「おじいちゃん?ブータ先生のおじいちゃんのことが書いてあるの?」

「うん」

ゆみは、ゆり子に頷いてから、

「もしかして、ゆり子お姉ちゃんまだブータ先生の手紙の中身まで読んでいないの?」

「え?」

ゆり子は、ゆみに答えた。

「それはそうよ。ゆみちゃん宛に来た手紙を先に、私が読むわけないじゃない」

「そうか。あたし読み終わったから、ゆり子お姉ちゃん読んでもいいよ」

ゆみは、ゆり子に手紙を渡した。それを受け取ったゆり子は、もう一度手紙のあっちこっちを見直したが、やはりブタと動物の絵以外に文字なんてどこにも書いていなかった。

「あのさ、ゆみちゃん。この手紙に絵じゃなくて文字って書いてある?」

「え?」

今度は、ゆみがゆり子に聞き返した。

「絵って、この端に描いてあるブタさんの絵のこと?このブタさんが、ブータ先生のおじいちゃんなんだって」

ゆみは、手紙の端のほうに挿絵として描かれている年老いたブタの絵を指さした。ゆり子には、ゆみが指さしたところにはキツネの絵しか描かれていなかった。

「ここのところに、ブータ先生のおじいちゃんが元気になってきたって書かれているでしょう?」

ゆみは、ブタの絵、ゆり子にキツネに見えているブタの絵の脇に書かれている文章を指さしてみせた。ゆり子には、そこにはたくさんの動物たちが森の中で追いかけっこしている絵しか見えなかった。

「こっちの亀さんの絵、かわいいね」

ゆり子は、おじいちゃんが元気になったと書かれているらしい、ところに見えていた亀の絵を指さして、ゆみに言った。

ゆみには、そこには亀の絵などなくぎっしりとブータ先生が書いた文章が書かれていた。

「これって、もしかして、ゆり子お姉ちゃんとあたしって、見えているものが違うの?あたしにしか文字の内容は読めないように、ほかの人たちには文字でなく絵が描かれているように見えているのかもしれない」

ゆみは、ゆり子の変な様子を見て、そう直感した。

「ね、久美子。この子かわいくない?」

ゆみは、前の席に座っている久美子に、ブータ先生の手紙の適当なところを指さして聞いてみた。

「確かに、ウサギさん可愛い絵だね」

久美子は、返事した。

「うん。そのウサギさんも可愛いけど、こっちの亀も可愛くない?」

「可愛いと思う。その亀のつぶらな目が」

ゆり子と久美子は、どうやら同じに見えているらしく、ウサギとカメのことをしきりと可愛いと話していた。

「やっぱり、あたしにしかブータ先生が書いた手紙の内容は見えないんだ」

ゆみは、2人の会話の様子を聞きながら全てを理解した。

「で、ゆみちゃん。ブータ先生というのは、おじいちゃんの看病をしているの?」

「うん。それで、ゆり子お姉ちゃんのお部屋に戻ったの」

「そうなんだ」

「はじめ、ゆり子お姉ちゃんのところに戻ったばかりの頃は、ブータ先生がずっとおじいちゃんの側についていなければならなかったんだけど、最近はずっとでなくても大丈夫になったんだって。それで山にウサギさんとカメくんと山にピクニックに行ったら、クマさんが出てきて、追いかけっこして大変だったって書いてあったよ」

「そうか」

「あたしも、ブータ先生にお手紙の返事書いてあげようかな」

「そうだよ。そうしなよ。手紙書き終わったら、私がブータ先生のところに届けてあげるから」

「うん、そうする!」

ゆみは、ゆり子に答えた。

栗原淳子につづく

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