今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

3 キンダーガーデン

「あと1年だけ我慢しましょうか」

その日の診察で、ゆみの担当医師の先生は、母に告げた。

来月からは9月、ゆみも、もうキンダーガーデンに通える年だった。母は、ゆみのことをキンダーガーデンに通わせたいと先生に相談したのであった。

「順調には体力もついてきているのですが、今ここで焦っても・・なので、もう1年だけ自宅療養で頑張って、しっかり体力が備わってから、来年からの小学校入学できれば良いんじゃないでしょうか」

というのが、担当医師の先生の結論だった。

そんなわけで、ゆみはもう1年自宅療養で、幼稚園、ナーサリースクールとキンダーガーデンには全く通わずに、翌年からいきなり小学校デビューする予定となった。

地域によっても違うみたいだが、この辺りではナーサリースクールが幼稚園、そして幼稚園の年長組にあたる1年間がキンダーガーデンということで学校が分類されていた。

そして、ほかの同年齢の子たちがキンダーガーデンに通っているときも、ゆみだけは1人寂しく自宅で、お母さんやお婆ちゃん、お爺ちゃんと過ごすこととなった。

「それは寂しいね」

姉の祥恵は、ゆみがもう1年幼稚園には通えずに、家で過ごすこととなったことを聞いて答えた。しかし、ゆみは生まれてからずっと家で過ごしてきて、ほかの子供たちと遊んだこともなければ、お話ししたこともなかったし、何よりもお母さんが大好きだったので、幼稚園には通えなくても、ぜんぜん寂しくなかった。

さらに、家にいる時間が長くなって、ついに母が医大時代に使っていた医学書が並んでいる本棚もほとんど読破してしまっていた。医学書はドイツ語で書かれたものが多い、中にはスペイン語やフランス語で書かれたものもあった。

ゆみは、特にスペイン語で書かれた本に、とても興味を持って読んでいた。ニューヨークには、スパニッシュ系のアメリカ人も大変多く住んでいて、ニューヨークのテレビは割とスペイン語の番組をよく放送していた。この言語は、なんとなく早口で聞き取りにくい、何を言っているのかもわかりづらいから、この言語のことをもう少し理解したいと思う気持ちが、スペイン語の本を集中して読むようになれたようだった。

「すごいわね。あなた、どんどん知識が深まっていくわね」

側でみていた母は、ゆみの頭を優しく撫でながら言った。

「来年からは小学校に入学できそうね」

診察のとき、ゆみがダンベルを握っている姿を確認しながら、担当医師の先生は母に告げた。この夏休みが終わって、9月からは無事に小学校へ入学できそうだった。

ゆみが小学校に入学、通っても大丈夫だろうとお墨付きを担当医師の先生から頂いて、母は忙しくなってきた。これから、ゆみが通うことになる小学校の選定をしなければならないのだ。

「どこに通わせようかしらね?」

母は、ゆみが寝てからの父との深夜のオンライン通信で話していた。

「俺は、そっちの小学校についてはよくわからないから、お母さんとも相談して決めたら良いんじゃないか。お母さんは、ずっとそっちの、ニューヨークに住んでいるんだから、ある程度はそっちの小学校のことだって詳しんじゃないんか」

お父さんは、お母さんに言った。

お母さんも、子供の頃はニューヨークの、ここの実家で暮らしていたので、この辺の小学校には実際に通っていて、詳しかった。お母さん自身は、ここの実家からでも歩いて通える近所の公立小学校に通っていた。できたら、ゆみにも自分と同じあの小学校に通わせたいなと思っていた。

次の日の昼間、母は、ゆみを連れて近所の公立小学校まで出かけてみた。学校の入り口から校舎の中へ入ると、事務局の受付にいき、受付に立っていた女性に、娘を入学させたいと聞いてみる。

それでは、入学の適性試験を受けてみてくださいと、事務所の奥にある部屋に連れていかれ、そこに部屋にあった机と椅子に、ゆみは座らせられた。女性が持ってきた適性試験の用紙を手渡されて、そこに書かれている問題を解答してみろと指示された。ゆみは、問題文を読み、解答欄に解答を記入した。

「彼女は小学校に通う必要はありません」

ゆみが解答した用紙を持って、奥の部屋に行くと、ゆみの解答内容を確認して戻ってきた女性は、母に告げた。ゆみの解答内容は全問正解で、その結果によると、小学校に進学する必要は全くなく、中学校に入学できてしまうというのだった。アメリカには飛び級制度という制度があって、勉強ができる生徒は年齢や学年に関係なくどんどんと進級ができてしまうのだった。

「あなたは、来年から中学校に入学できるんですって」

「私、中学校に入学するのでもいいよ」

ゆみは母に答えた。ゆみは、ナーサリースクールにもキンダーガーデンにも通えなかったのだ。生まれて初めての学校に通えるのだ。別に小学校でなくてもよい、中学校だってどこだって学校に通えるのならばどこでもよいと思っていた。

「じゃ、中学校に通おうか?」

「うん」

ゆみは、母に頷いた。

次の日、ゆみは母と一緒に、昨日の小学校でもらった小学校の卒業証明書を持って、小学校のすぐ隣の公立中学校に行った。中学校では、無事に小学校の卒業証明書を受理してもらえて入学できることになった。

「ゆみ、目の前の中学校に通うよ」

家に戻ると、私は祖母に笑顔で伝えた。

中学校ってどんなところかな、お友達がいっぱいできるかな、9月から通う中学校がとても楽しみで、ゆみはダイニングでお婆ちゃんとこれから通う中学校の話ばかりしていた。

母は、私がお婆ちゃんと話している会話を聞きながら、台所で夕食の準備をしていた。夕食を作り終わると、お皿に盛りつけて、ゆみたちが話しているダイニングテーブルの上に並べた。

「ねえ、ゆみ。中学校なんだけど、あそこの中学校はやめない?」

夕食のときに、母は私に言った。

「近所だし、通学は歩いてでも行ける距離だし良いとは思うんだけど。ゆみがね、近所の、あそこの小学校に通うんだったら、お母さんも通っていた小学校だし良いと思うんだけど。あの中学校は、あんまり良くないと思うの。学校の中庭にいた生徒さんたち見たでしょう。男の子も女の子も中学生だというのに、みなタバコを普通に吸っていたでしょう。昔から、あの中学校は通っている生徒さんたちがあんまり良くないのよ」

母は、ゆみに説明した。

「歩いてはいけないんだけど、車で20分ぐらいのところにフィールドストーンロワースクールという私立の中学校があるのよ。もし、ゆみがそっちの中学校でも良いならば、お母さんが毎日車で送り迎えはしてあげる」

「うん、ゆみはお母さんが良いって思う中学校でいいよ」

ゆみは、母に答えた。

そして、9月から母の実家から車で20分ぐらいのところに在る私立の中学校に通うこととなった。

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