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かおりお姉さん

かおりお姉さんは、車椅子だった。

小等部の頃に、病気のせいで両足が動かせなくなってしまった。両足だけではない、両目までも見えなくなってしまっていた。本来ならば、障害者ということで、障害者の通う学校に転校しなければならなかったのだが、その当時からずっと担任をしている佐伯先生の尽力で、中等部も1組で授業を受けられるようになっていた。

「大丈夫か?足、ちゃんと机の下に入れられるか」

毎朝、学校が始まるとき、佐伯先生は、いつもかおりの乗る車椅子を押しながら、教室にやって来る。かおりの席は、車椅子が入れやすいように一番通路側の前の席だった。車椅子があるので、自分の机は置いてあるが椅子は置いていない。車椅子を机の中に入れて、そこでノートとかを開いて授業を受けるのだった。

教科書は、ほかの生徒たちの教科書とは違って、点字で書かれた教科書だった。その教科書の点字を指で追いながら、教壇に立っている先生の授業を聞いていた。

ゆみの席は、今井の「ア行」で窓側の先頭だった。同じ今井の姉の祥恵の一つ後ろの席だった。ちょうど、かおりの座っている席とは真反対の場所だ。そのため、ゆみの席からは、かおりの席が遠く、あまり彼女が勉強しているところは、よく見えなかった。

授業中は、ほかの生徒たちが大勢いるので、その生徒たちが間で障害物になって、かおりの席はよく見えていなかったが、放課後になると、間に座っていた生徒たちの数はぐっと減って、かおりの姿が見えやすくなる。

かおりは、佐伯先生の授業の都合かなにかがあるらしく、いつも授業が終わっても、放課後1時間ぐらいは、自分の席で先生が迎えに来るのを待っていた。

佐伯先生が迎えに来ると、車椅子を押してもらって、学校の正門まで連れていってもらって、そこに車で迎えに来ているお母さんに、車に乗せてもらって家に帰っていた。

ゆみも、バスケ部の祥恵が部活の日は、いつも姉の部活が終わるまで1時間か2時間ぐらい教室で待っていて、祥恵が部活を終えて戻って来ると、一緒に東松原の家に帰っていた。

ゆみは、体調の関係で夜は9時には就寝してしまうので、待っている間の2時間ぐらいで、その日授業でやった復習や明日の予習など勉強をしていた。かおりも、夜9時には寝るのかどうかはわからなかったが、その佐伯先生を待っている時間帯は、復習や予習などの勉強時間に当てていた。なので、2人とも勉強中なので、お互いにおしゃべりをすることもあまり無かった。

「おい、もうだれもいないぜ」

その日、ゆみとかおりは、いつものように姉と佐伯先生が来るのを待ちながら、自分の机で勉強していると、クラスの男の子で川上君と鶴見君が教室に戻ってきた。

「誰もいないじゃん」

「なんかシーンとしているな」

川上と鶴見の2人は、教室の前の方の席で勉強しているゆみとかおりのことは知らんふりして、教室の後ろに1個だけ置かれている黒い1人掛けのソファの縁に2人で座りながら、おしゃべりしていた。

2人は、しばらくソファの上でじゃれ合っていたのだが、それに飽きてくると教室の前の方にやって来て、黒板に落書きを描いて遊び始めていた。はじめは黒板にチョークで落書きを描いているだけだったのだが、そのうち2人でお互いにチョークを投げ合って遊び始めた。

そのチョークが一つ、かおりの腕に当たった。

「あ、悪い」

川上は、かおりに軽く会釈した。

「あ、大丈夫です。何が当たったんですか?」

かおりは、目が見えないので、自分の腕に当たったものが何かはわからず、川上に聞いてみた。

「チョーク・・」

「ああ、チョークですか」

かおりは、川上に答えた。

その後しばらく、川上と鶴見はチョークを投げ合って遊んでいたが、そのうちそれにも飽きてきたので、かおりの開いている点字の教科書を覗きこんできた。

「へえ、それ読めるんだ」

「ブツブツの穴しか開いてないじゃん」

2人は、点字の教科書を興味深そうに見ているだけだったのだが、そのうち、目の見えないかおりのことをからかい始めた。

「これ、見えるのかな」

鶴見は、机の上に置いてあったかおりの鉛筆を少しずらしながら言った。

かおりが机の上の鉛筆を取ろうとすると、かおりの手が鉛筆に届く少し前に、鉛筆をずらしてみる。すると、かおりは、そこにあると思っていた鉛筆を上手く取れずにいた。

「ははは、おもしろい!」

川上と鶴見は、机の上に置いてある鉛筆や消しゴムを、かおりが手に取る前に、違う場所に移動したりして、かおりが手に持てないで困っている姿を見て喜んでいた。

そのうち、かおりは2人にいじめられて泣いてしまった。

「おいおい、泣いているぞ」

「目が見えないのに、涙なんか出るのかな」

泣いているかおりの姿はお構いなしに、2人はまだかおりのことをからかっていた。その様子を、ずっとじっと我慢して窓際の自分の席から眺めていたゆみだったが、さすがに、かおりが泣き出しているので我慢できなくなった。

「ちょっと泣いているじゃない。やめなさいよ」

ゆみは、川上たちの側に寄っていき、抗議した。が、2人はチビのゆみのことなんか無視していた。

「やめてあげて!泣いているでしょう」

ゆみは、2人にお願いした。

「なんだと」

川上は、ゆみの方を振り向いて言った。

「泣いているの。かわいそうでしょう」

「うるさい!おまえには関係ないだろう」

「このチビが。まだ小学生のガキのくせに、何、中等部のクラスに入ってきているんだよ!中学生に偉そうに説教してるんじゃないよ」

川上が、ゆみのことを突き飛ばした。身体の小さく軽いゆみは、川上に押されて教室の端の壁に押し倒されてしまった。床に倒れたときの痛さで、今度はゆみも泣いてしまった。

「あーーん・・」

ゆみは、教室の隅の床に転がって泣いていた。

「やべーよ。どうする?」

「俺は知らねー、帰ろうぜ」

そう言って、2人は泣いているゆみのことを床にほったらかしたまま、教室を後にして帰ってしまった。

目の見えないお友だちにつづく

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