「ねえ、お母さん。学校の教室の前の方に車椅子の女の子がいたよね」
ゆみは、キッチンでお母さんの夕食のお手伝いをしながら、言った。
「ああ、そうね。あの子は、元々はちゃんと歩けていたのよ。でも、車椅子になってしまったの。ほら、あなたのクラスの担任の佐伯先生っているでしょう。あの先生は、本来は小等部の先生なんだけど、彼女のために、そのまま中等部の担任をやることになったのよ」
お母さんは、中等部の学校説明会の時に聞いたことを、ゆみに話した。
「え、どういうこと?」
ゆみは、お母さんに聞いた。
「あの車椅子の子は、かおりちゃんって言うんだけど、小等部からずっとお姉ちゃんと同じクラスの同級生だったのよ。何年生だったかな?お母さんも、ちょっと忘れちゃったけど、4年生か5年生か、それとも3年生だったかな?その時に、体の病気になってしまってね、足が動かなくなって、目も見えなくなってしまったのよ」
お母さんは、ゆみに説明している。
「でね、本当だったら、目が見えなくて、足も歩けないで車椅子でしょう」
お母さんの話は続く。
「そういう子は、障害者学校に行かなければならないの。でも、かおりちゃんは、ずっと明星学園で通ってきたから、お友だちと別れるのも嫌だって言ったのよ。そしたらね、佐伯先生が、かおりちゃんの気持ちを察して、お姉ちゃんたちクラスの皆に、これからは目も見えないし、移動も車椅子だって説明したの。でも、1年からずっと同じクラスのお友だちじゃないか。だから、先生も手助けするから、皆も手助けしてやってくれないかって言ったの。それで、クラスの生徒たちも、お友だちだしもちろん、これからも手助けするって話しになったのよ」
「お姉ちゃんも手助けするって言ったの?」
「そうよ」
「お姉ちゃん、偉い!」
ゆみが言うと、
「うん、お姉ちゃんも偉いね」
お母さんは、ゆみの頭を撫でてくれながら言った。
「まあ、お姉ちゃんが教室で発言したかどうかは、お母さんも知らないんだけど、佐伯先生は、かおりちゃんのことを可能な限り、自分も見るようにするから、クラスの生徒たちも協力してくれるって言うから、って職員会議の時に他の先生たちにも掛け合って、かおりちゃんが明星学園に残れるようにしてくれたのよ」
お母さんは言った。
「それでね、かおりちゃんが今回、中等部に進学する時、本当だったら佐伯先生は小等部のクラス担当なんだけど、そのまま中等部も引き続き、お姉ちゃんたちのクラスを担任することになったのよ」
「へえ、そうなんだ」
ゆみは、お母さんから話を聞いて納得した。
「それじゃ、佐伯先生って、小等部の時から、ずっとお姉ちゃんのクラスの先生なの?」
「そうよ」
「それじゃ、お姉ちゃんって1年生の時からずっと佐伯先生のクラスなんだ」
ゆみが気づいた。
「そうね、佐伯先生って自分でも、自分の頭のこと指差して、ラーメン先生とか言ってたけど、本当は優しくてすごく良い先生でしょう?」
「うん!」
お母さんに聞かれて、ゆみは返事した。
「ただいま!」
ちょうど夕食の準備が出来上がった頃に、お姉ちゃんが学校から帰ってきた。
「あ、お姉ちゃん」
ゆみは、帰ってきたお姉ちゃんに飛びついた。
「ただいま。今日は学校から一緒に帰ってあげられなくてごめんね」
お姉ちゃんは、ゆみの頭を撫でてくれた。
「大丈夫よ。お母さんと一緒に車で帰ってきたから」
ゆみは、お姉ちゃんに答えた。
「で、祥恵はクラブ活動は何をするのか決まったの?」
「うん、まあね」
お姉ちゃんは、お母さんに聞かれて答えた。
お姉ちゃんの部活につづく