今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

13 みなと夕食

「ゆみちゃん!」

ゆみは、キッチンからお母さんに呼ばれた。

「ごはんにしましょう」

お母さんは、ゆみだけでなく、お父さんや祥恵、お姉ちゃんのことも呼んでいた。これから今井家の夕食の時間だった。ゆみとお母さんがニューヨークから帰国してからの、もう何回目かの家族4人による夕食だった。

「お姉ちゃん、バスケ部に入るの?」

ゆみは、自分の隣の席のお姉ちゃんに、お茶を淹れてあげながら聞いた。

「そうよ、バスケットボール部」

「私も、バスケ部に入ろうかな」

「あんた、運動はできないでしょう」

祥恵は、ゆみに言った。

ニューヨークにいた頃よりは、だいぶ身体が丈夫になってきたとはいえ、まだまだ運動ができるほどではなかった。学校の体育の授業も、皆と一緒に参加することはできないので、係りつけのお医者さんにも体育の授業は見学するようにと言われていた。

「体育の授業はできないかもしれないけど、バスケ部ならできるよ」

「できるわけないでしょう」

祥恵は、ゆみに言った。

「ゆみって、勉強ができるから飛び級で中等部に進級したんだよね。なのに、時々バカなことを言うよね」

「ゆみだって、本気で体育の授業に参加できないのに、バスケ部は参加できるなんて思ってはいませんよ。ただ、お姉ちゃんと同じ部活がしたいだけですよ」

お母さんは、祥恵に答えた。

「お母さん、私はいつから体育とか部活できる?」

「そうね、病院の先生に聞いてみないとね」

お母さんは、ゆみに答えた。

「まずは、身体をもっともっと丈夫にしなきゃね」

「ゆみさ。まず、その食事を残すのをやめないとね。たくさん食べないと力がつかないよ」

ゆみが食べ終わったお皿を流しまで運んでいる。運んでいるお皿には、食べきれない分の食事がまだ少し残っていた。お母さんには、ゆみの分の食事は皆よりかなり少なめに盛り付けてもらっているのだが、それでも、その日の体調によっては食べきれず、食べ残してしまうことがあった。

「ごちそうさま」

「はい、よく食べました」

お母さんは、ゆみが運んできたお皿に、まだ少し食事が残っているのを確認しながら、返事した。

「ゆみ、そのブロッコリーだけは食べちゃいなさいよ」

お母さんに言われて、ゆみは、お皿に残っていたブロッコリー1本だけは手でつかんで食べきった。

「もう少しだけでも量が食べれたらいいのにね」

「仕方ないわよ。あなたと違って、ゆみはあれだけ小柄なんだし、お腹の大きさだって小さいんだから、そんなに量は食べられませんよ」

「でも、しっかり食べないと、力だってつかないし、いつまで経っても身体だって丈夫になれないよ」

「いいわよ。ゆっくり成長していけば」

お母さんは、祥恵に言った。

「そうだ、テレビを見ようよ!」

祥恵は、夕食の後、お父さんとお母さんと一緒にリビングでテレビを見ていた。

「お風呂、終わったよ」

お風呂から出てきたゆみが、バスタオルを頭に巻いて、パジャマ姿で皆がテレビを見ているリビングにやって来た。お母さんが、ゆみのことを手招きして、自分の膝に乗せると、洗い終わったゆみの髪をブラシでブラッシングしてくれた。

「おやすみなさい」

お母さんのブラッシングが終わると、ゆみは皆に挨拶して、1人で2階の自分とお姉ちゃんの部屋に行き、ベッドに入って眠りについた。

「ゆみって、いつも寝る時間が9時なのね」

祥恵は、2階の自分たちの部屋に行ってしまったゆみの姿を見送ってから、お母さんに言った。

「ニューヨークにいた頃の係りつけの先生に、毎日ちゃんと規則正しい生活をするように言われてから、毎晩9時に就寝、朝7時に起床するようにくせがついているのよ」

「毎日?」

「そうよ。ともかく毎日を規則正しく生活することと睡眠、食事には気を配るようにしているのよ」

「そうなんだ」

祥恵は、お母さんに答えた。

「私も、そろそろ自分の部屋に行こうかな?」

祥恵は、テレビを見終わって、お母さんに言った。お父さんがテレビを消すと、3人はリビングの電気を消して、2階に上がった。

お父さんは、祥恵たち2人のすぐ隣のお父さん、お母さんの部屋に入った。お母さんは、祥恵と一緒に、ゆみの寝顔を確認しに、2人の部屋に入った。

「よく寝てるね」

お母さんの後ろから、祥恵も覗きこんでつぶやいた。

「ええ、可愛いわね」

お母さんは、寝ているゆみの顔をそっと撫でながら言った。

「そんなに触ったら、起きてしまうよ」

祥恵は、ゆみの顔を触っているお母さんに言った。お母さんは、ときどき、いや、けっこういつも、ゆみに対しては特別扱いというか、ものすごく親バカのときがあるなと思っていた。自分よりも、ゆみに対してはかなり甘いなと思うときがよくあった。

「ね、このぬいぐるみって」

祥恵は、ずっと気になっていたことをお母さんに聞いた。2人の部屋は、ドアから手前側にゆみのベッドと勉強机があって、奥側に祥恵のベッドと勉強机が置いてあった。手前側のゆみの机やタンスの上には、ありとあらゆるところに動物のぬいぐるみが大量に並んでいた。

「全部、ゆみのお気に入りのぬいぐるみね」

お母さんは、ゆみの周りをぐるっと囲むようにして置かれている動物のぬいぐるみを一匹ずつ眺めながら、祥恵に返事した。

「小さい頃から、1人で部屋の中で過ごしてきたでしょう。だから、寂しかったんじゃないかしらね。最初に猫のぬいぐるみを買ってあげてから、どんどんいろいろな動物たちのぬいぐるみが増えていって、この数になったのよ」

「それは良いんだけどさ、ニューヨークからこれ全部持って帰ってきたの?」

「だって、ゆみちゃんがどれがお気に入りか選べないって言うから、どの子も捨てるのはかわいそうだからできないって言うから、ぜんぶ持って帰ってくるしかなかったのよ」

お母さんは、祥恵に答えた。

「それにしても、この量・・」

「これでも、全部はニューヨークから持ってきていないのよ。何匹かは、ニューヨークのお婆ちゃんのところに置いてきてあるのよ。動物たちの中で、お婆ちゃんのことが好きってぬいぐるみがいるらしくて、その子たちに関しては、ニューヨークのお婆ちゃんのところで待っているらしいのよ」

「お婆ちゃんがお気に入りの動物って・・。皆ぬいぐるみでしょう」

祥恵が、並んでいる動物のぬいぐるみを眺め回しながら言った。

「どうして、動物のぬいぐるみばかりなの?」

祥恵は、動物のぬいぐるみを眺めながら、お母さんに聞いた。

「ゆみちゃんは、小さい頃から動物が好きで、動物園に連れてくと、いつまで経ってもずっと動物たちを眺めていられるぐらいに」

「それで、動物のぬいぐるみばかりなんだ」

猫、犬、熊、キリン、ヤギなどタンスなどの上に並んでいるぬいぐるみは皆、動物のぬいぐるみばかりだった。人間のぬいぐるみ、いわゆるリカちゃん人形のようなお人形さんは、どこにもいなかった。

「そうね、人間のぬいぐるみ、お人形さんは1つも無いわね」

お母さんは、ぬいぐるみを眺め回しながら、おもちゃ屋でバービーちゃん人形を奨めたときのことを思い出していた。ゆみは、人間のぬいぐるみ、お人形さんを手渡してやっても、それらには一切興味を示さなかったのだった。代わりに動物のぬいぐるみを手渡すと、大喜びして、その度にお母さんは、そのぬいぐるみを買ってあげていたのだった。

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