「え、なんで?マジでスカートとか履いたことないの?」
ゆみと同じ1組の生徒、男の子の星野くんが、ゆみに驚いていた。合唱で倒れて、保健室に運ばれた日から2週間ぐらい経った日のことだった。
学校の放課後、祥恵がバスケ部の練習に行ってしまったので、その間、ゆみは教室で祥恵の部活が終わるのを待っていた。放課後なので、殆どの生徒たちは帰ってしまって、教室には数人の生徒しか残っていなかった。
「星野からしたら珍しい。もったいないってところだよね」
ゆみや星野と一緒に、1組の教室に遊びに来ていた紗耶香という4組のクラスの女の子が言った。
「なんで?」
ゆみが、紗耶香に聞くと、
「星野ってさ、女の子の服とか好きなんだよね」
「え?」
紗耶香が答えた言葉に、ゆみが驚いてしまった。
「あ、別に女の子の服が好きっていったって、自分で着たりするわけじゃないよ」
星野は、慌てて紗耶香がゆみに話した言葉を訂正した。
「でも、それだって女の子の髪飾りじゃん」
紗耶香は、星野の男の子にしては、肩まで伸びたちょっと長めの髪に付いているキラキラのアクセサリーを指さした。
「これは、ただの髪飾りだから」
星野は、少し色っぽく自分の髪をかき上げながら答えた。
「まあ、もし自分が女の子に生まれていたら、可愛いスカートとかワンピース着てみたいとは思うけどね」
「そうなんだ」
ゆみは、ちょっと不思議そうに星野くんのことを眺めて答えた。中等部に入学してから今まで星野くんとも、何回かおしゃべりしてきたけど、ぜんぜん普通に優しいお兄さんとしか見ていなかったので、そんな風に思っていることを知って驚いてしまっていたのだった。
「ふーん。うちにね、お母さんが、あたしのために買ってきたスカートとかあるんだけど。あたし、1回も着たことないから新品だよ」
ゆみは、星野に言った。
「良かったじゃん、星野。もらちゃえば」
紗耶香は、笑いながら星野に言った。
「いや、別に女の子で生まれてたら着たかったってだけで、着たいわけじゃないから」
星野は、2人に答えた。
「それに、ゆみちゃんの服じゃ、小さくて俺に着れるわけないし」
「そりゃそうだよね」
「ゆみちゃんもスカートは履いたことないけど、一応スカートは持ってはいるんだ」
紗耶香が、ゆみに言った。
「ううん。ゆみが持っているというよりも、お母さんが、あたしが着ないものを勝手に買ってきただけだから、お母さんのスカートみたいなものかな」
「え、でも、お母さんは、ゆみちゃんに着てもらいたくて買ってきてくれたんでしょう。だったら着てあげないとスカートがかわいそうだよ」
「うん」
ゆみは、紗耶香に言われて、お母さんが買ってきてくれたスカートを少し思い浮かべてはみたのだが、
「やっぱりスカートは履きたくない」
ゆみは、きっぱり紗耶香に言い切った。
「そうか。ゆみちゃんのスカート可愛いと思うけど、履くのが嫌いだったら仕方ないよね」
紗耶香は、自分の着ている白い膝下まで丈のあるロングのフレアースカートを揺らしてみせながら、ゆみに言った。
「紗耶香お姉ちゃんの履いているスカート姿は可愛いと思うけど」
ゆみは、紗耶香に言った。紗耶香は、自分の履いている白のロングスカートを揺らして、ゆみと2人で笑顔で話していた。
「なんかやめてくれる。スカート履いてるの自慢されると、羨ましくなってしまうから」
星野が2人に言った。
「そうだね。ごめんごめん」
紗耶香は、星野に言った。ゆみは、星野のことを眺めていた。
「なんか星野お兄ちゃんって、優しいお兄ちゃんって、ずっと思っていたからスカートとか好きって話を聞いて、なんかちょっと驚き。新発見した感じする」
ゆみは、星野に言った。星野は、照れくさそうにしていた。
「そうかな」
紗耶香は、ゆみの言葉を聞いてつぶやいた。
「星野って、けっこう前からちょっと女っぽい仕草とかしていたよね。バッグとかお財布もちょっと女性っぽいの持っているし・・」
紗耶香にそう言われたが、ゆみは、星野のことをぜんぜんそんな風に見えていなかった。
「まあ、普通にしてれば俺だって割と男っぽく見えるってことだよ」
「うん。星野お兄ちゃんかっこいいよ」
ゆみは、星野に伝えた。
「そうかな」
昔から星野のことを知っている紗耶香は、首を傾げていた。
「っていうか、ゆみちゃんさ。あたしにもだけど、星野やあたしに別に紗耶香お姉ちゃんとか星野お兄ちゃんなんて呼ばなくてもいいんじゃない」
紗耶香は、ゆみに言った。
「確かに。ゆみちゃんから見れば、俺らは年上かもしれないけどさ。クラスメートで同級生なんだし、星野とか紗耶香って呼んでくれていいんだよ」
星野は、ゆみに言った。
「うん、紗耶香って呼んでよ。そうでないと、なんかよそよそしいじゃない。その代わり、あたしも、ゆみちゃんのこと、ゆみって呼ぶからさ」
紗耶香も、ゆみに言った。
「うん。紗耶香・・」
「そうそう。なあに、ゆみ?」
紗耶香は、ゆみに呼ばれて笑顔で答えた。
「ゆみ・・」
「なあに、星野」
ゆみも、星野のことを星野と呼んでみた。なんか、また中等部に馴染めた気がして、ゆみは嬉しかった。
音楽室の昼休みにつづく