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希望の光

「お宅ら、すごいですね」

お父さんに話しかけて来たのは、ゆみたちの車の前の前の列に並んでいた車を運転しているおじさんだった。そのおじさんは、ユニークで明るい人だった。

「あっしなんか、自分の家族を1人も助けられなかったよ」

そのおじさんは、お父さんに話した。

「うちには中学生の娘と、まだ小さい息子がいたんだが、どちらも、あっしが宇宙人の野郎が爆弾を落としたってニュースを聞いて、急いで会社から家に戻った時には、間に合わなくて2人とも、3階の自分の部屋で亡くなってしまったよ」

おじさんは、お父さんに自分が避難したときのことを説明した。

「それでも、キッチンにいたあっしの妻だけは救って、必死の思いで車で逃げて来たんだが、その妻も、新宿に到着する少し手前のところで、宇宙船に襲われて、倒れてきた建物の瓦礫に当たって、妻も亡くなってしまったよ」

おじさんは、自分の車の助手席を指差して、お父さんに見せた。おじさんの車の助手席側の窓は、ぐにゃりと曲がって助手席の屋根は見事に潰れていた。

「あっしは、男として情けないよ。家族を1人も救えずに、自分1人だけ逃げて来たんだからな」

おじさんは、自分のことを嘆いた。

「それに比べて、あんたはさすがだよ。家族をこうしてしっかり守って避難させたんだからな。いやあ、立派だよ。あっしには、出来ない、素晴らしいよ!それでこそ男の中の男だよ」

おじさんは、自分が家族を助けられなかったことを引き合いに出して、やたらとお父さんのことを褒めまくってくれるのだ。その褒め方は、お父さんの方が照れて、恥ずかしくなってしまうぐらいだ。

「いやあ、私も家族全員を救えたわけじゃないんだ」

2日目も、おじさんにさんざん立派だ、立派と褒めちぎられて、お父さんは照れていた。

「いやあ、あんたは立派だよ。お姉さんは残念だったが、全員じゃなくたって、こうして愛する妻と妹さんは立派に助けられておるのじゃからな」

もう何度目かのおじさんに褒められて、お父さんは照れっぱなしだ。

 

「おいおい、本当にあんたは立派だな」

3日目も、またおじさんが、お父さんの座っている運転席にやって来て、お父さんに話しかけている。まあ、地下シェルターに降りるエレベーターに乗るまでの順番待ちの待機中は、車の中でじっとしている以外に、特に何もすることがなくて暇なせいなのかもしれないが。

「いやあ、そんなことありませんって」

その度に、お父さんは、おじさんに恐縮していた。

「いや、立派ですよ。立派。今朝ほど、あんたが家族の皆さんを宇宙船から救うところ、勇姿をテレビで拝見させていただきましたよ。なんで、あっしも、あんたのように、あのように勇ましく振舞って、自分の家族を守ってやれなかったのかと、朝からずっと後悔ですよ」

「テレビ?」

おじさんに言われて、お父さんは聞き返した。

「はあん、あんたさん、まだ今朝の、ご自分の勇姿をニュースでご覧になっていないのかね?」

おじさんは、お父さんに聞いた。

「今朝の勇姿ですか?」

「今朝のテレビのニュース番組で、あんたさんが宇宙船と戦っているところが映っておりましたぞ。それは、それは勇ましいお姿でしたぞ」

おじさんは、お父さんに言った。

「俺が宇宙船と戦っているところなんて、テレビのニュースに出ていたのか?」

お父さんは、おじさんが自分の車に戻っていった後で、助手席のお母さんに聞いた。

「さあ、どうなのかしら?」

お母さんは、お父さんに答えた。

「俺がテレビに出ていたのか?」

「さあ?なんせ、あのおじさんのお話ですよ。もしかしたら、うちの車がチラッとテレビに映っていたのかもしれないけど、かなりオーバーに話が脚色されていてもおかしくないですよ」

「それは、確かにそうだよな」

お父さんも、あのおじさんの話しぶりを思い出しながら答えた。

それでも、お母さんは、運転席と助手席の間にあるカーナビをテレビ画面に切り替えてみた。こういった緊急事態のためか、テレビはバラエティ番組みたいなのは一切無しで、24時間常にニュース、報道番組を流していた。

お母さんは、チラチラとテレビのチャンネルを変えてみた。

その中の一つのチャンネルで、確かにうちの車が映っていた。それは、新宿の地下駐車場に突入するときの映像だった。上空から宇宙船が現れて、宇宙船が車に向かって射撃してきて、ずっと地下駐車場の中に飛び込んで逃げ切るまでの一部始終が映っていた。24時間ずっと同じ報道をやり続けているので、他にネタがないのか、うちの車が宇宙船から逃げ惑うシーンを何度も何度も繰り返し映していた。

「お母さん、これ録画して!」

お母さんの膝でしっかりしょげきっているゆみが、突然叫んだ。

その声に、お母さんは慌てて、うちの車が宇宙船と追いかけあっているシーンを録画すると、ゆみは、何度も何度も録画した映像を再生し、見返していた。

「お母さん!お姉ちゃん生きているよ!無事に」

ゆみは、録画した映像に何かを発見したらしく叫んだ。

放射能検査につづく

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