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初島

「今日は、初島に行ってこようか」

お父さんは、ゆみに言った。朝ごはんを食べ終わると、祥恵はヨットを出航する準備をして、熱海の港を出航していた。

「初島ってなあに?島なの?」

「そうだよ。島だ。あそこに見えているだろう。あの島が初島っていうんだ」

「あんな近くなんだ」

ゆみは、お父さんの指さしたすぐ目の前の海に浮かんでいる島を見て言った。

「あんなに近ければ、今日はすぐに着いちゃうね」

「ああ、30分ぐらいで到着しちゃうよ。ゆみは、ヨットの上で乗っているよりも、早く到着したほうが嬉しいか?」

お父さんは、ゆみに聞いた。

「それは、早く着いた方が向こうでいろいろ行けるし・・」

ゆみは、お父さんに答えた。お父さんは、ゆみの回答に、やっぱり一般の人たちはヨットに乗って走っているよりも、目的地に到着して、現地で観光とかするほうが楽しいのだろうなと思った。お父さんだったら、現地での観光よりもヨットをこうして目的地に向かって走らせていることこそが、ヨットの醍醐味なのだが。

「ほら、着岸するぞ!」

少し話しているうちに、ヨットはあっという間に初島の港に到着してしまっていた。

「もう着いちゃった」

ゆみは、お母さんとヨットを降りて、初島に上陸した。

「この島って何があるの?」

「さあ?」

ゆみに聞かれたが、お母さんも初島には初めて来るので、よくわからなかった。

「何もないさ。初島は小さな島だから。漁港が少しあるから、島の中心に行けば、いろいろお魚とか売っているよ。あとリゾート地の島だからホテルが一軒ある」

もう何度も初島に来ているお父さんが、代わりに答えた。

「あとで、ホテルにでも行ってみるか」

船を着岸して、ロープの整理などを一通り終えると、お父さんと祥恵も島に上陸した。

「おーい!出かけるぞ」

お父さんは、岸壁の沖のほうにいるゆみとお母さんに声をかけた。2人は、岸壁の先っぽにまで行って、そこで海の中にいる魚やカニを眺めていたのだった。

「はーい、今、行きます」

お父さんに呼ばれて、2人は慌てて岸壁の先っぽからヨットの前まで戻ってきた。

「ちょっと島の中心のほうまで歩いてこよう」

「はーい、島の中心って遠いの?」

「そんなには遠くないよ。初島自体が小さな島だから、ゆみの足でもすぐに一周できてしまうよ」

お父さんは、先を歩きながら言った。

港を出て、木が茂った林の中を歩いていると、

「あ、シカがいる!」

ゆみは、林の中を歩いているシカの群れに気づいた。

「本当だな。シカなんて初島にいたかな?きっと、最近できたリゾートホテルの人たちが観光用にシカを放したのだろう」

「おいで、シカちゃん」

ゆみは、シカのほうに向かっていくと、シカのほうも、ゆみに気づき近づいてきた。

「ごめんね、ごはんは、持っていないのよ」

ゆみは、側に寄ってきたシカたちに声をかけると、シカたちも特にお腹が空いていたわけでもなく、お腹が空いていれば、地面にいくらでも生えている草を食べられるので、ゆみから特に食事をもらうことを期待していたわけではなさそうだった。

「撫でてあげるね」

ゆみは、自分の側に寄ってきたシカたちの頭、鼻すじのところを指でそっと撫でてあげた。撫でてもらったシカたちは、嬉しそうにゆみに身体をすり寄せていた。

「やっぱり、ごはんをもらいに寄ってきたわけじゃなくて、ゆみに頭を撫でてもらいたくて寄ってきたみたいね」

祥恵が、その様子を見て答えた。お腹が空いてごはんが食べたいシカたちは、ゆみの側には寄ってこずに、林の中の草をもぐもぐしていた。ゆみの側に寄ってきたシカたちは、ゆみに頭を撫でられることで満足しているようだった。

「そろそろ行こうか」

動物好きのゆみに付き合って、ずっとシカと遊ばせていると、ずっとシカから離れられなくなりそうなので、ある程度すると、お父さんは、ゆみに呼びかけた。

「あっちに行ってみよう」

お父さんは、林の向こう、上の方に建っている大きな立派なホテルに向かっていた。

「ホテルに入るの?」

皆は、ホテルのロビーの中に入っていくお父さんの後を追って、歩きながら聞いた。

「いらしゃいませ!」

お父さんは、ホテルの正装したスタッフたちの横をすり抜けて、ホテルのエントランスの中をうろうろしている。かなりの高級型リゾートホテルのようで、シャンデリアやら内装が豪華だ。

「ほら、レストランがある」

お父さんは、レストランを見つけて、ゆみたちに言った。

「え、ここで食べるの?」

「やめたら?高そうだよ」

レストランは、かなりの高級そうなレストランだった。それに、お父さんはヨットから降りてきたばかりでTシャツに短パン、祥恵も、ゆみもジーパン姿だった。

「たまには良いところで食べるのもいいだろう?」

「え、でも、他にしようよ」

お父さんは、Tシャツ短パンでレストランで食事する気が満々だったが、娘たちがやめようよ、他にしようの一言でレストランでの食事はやめになった。

「お金だったら、お父さんちゃんと持っていたんだぞ」

ホテルから表に出た後も、ホテルのレストランで食事が出来なかったのを残念そうにしているお父さんだった。

「お金の問題じゃなくて・・」

「ね、こんな格好だし」

娘たち2人は、お父さんを諭していた。

島の食堂につづく

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