今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

5 学校の体育館

お母さんは、自分の愛車、ベンツの小型ハッチバック車を、ゆみとお姉ちゃんが通っている、これから通うことになる明星学園の正門から中に入れると、学校の職員室の前にある駐車スペースに停めた。ほかにも、駐車スペースはあるのだが、お母さんは、いつもそこに停めていて慣れてしまったせいか、場所が空いていると大概ここに停めていた。

「ゆみちゃん、着いたわよ」

ゆみは、お母さんに言われて、自分でシートベルトを外して車の助手席から降りた。お母さんも運転席から降りていた。ゆみは、お母さんのところに走っていくと、お母さんの手をぎゅっと握って、一緒に歩き出した。

「ゆみちゃん、今日からは中学生なんだから、あんまりお母さんにくっついていると、ほかのお友だちに笑われちゃうかもしれないわよ」

お母さんは、自分の手を握ってきたゆみのことを笑った。

「うん、大丈夫。お母さん大好き!」

ゆみは、周りの目のことなんか一切気にせずに、お母さんに甘えた。

「ゆみ、今日から中学生じゃなくて、去年の9月から中学生だよ」

ゆみは、お母さんに甘えながら答えた。

「あ、そうだったわね。日本では今日から中学生でしょう。中学生の入学式はどこでやるのかな?」

「きょうは入学式なので、ここの駐車場でなくても、真ん中の校庭も駐車場として開放していますので、校庭も駐車場としてご利用になられても大丈夫ですよ」

ゆみとお母さんが手をつないで歩いていると、駐車場にいた守衛のおじさんが教えてくれた。

「あ、そうなんですか。それじゃ、車を校庭に移動した方が良いですか?」

「ああ、別にあそこも空いてますから、あそこでも大丈夫ですけどね」

お母さんが守衛のおじさんに訪ねると、守衛のおじさんがお母さんに笑顔で答えてくれた。お母さんは、守衛のおじさんに笑顔で会釈すると、ゆみを連れて「入学式はこちら」という看板の方向に歩いていった。

入学式の会場は、正門脇の駐車場から職員室の入っている職員棟の横を通り抜けて、その先にある体育館でやっているようだった。明星学園の職員棟の1階は職員室だが、2階には図書室と裏側に理科の実験室があった。ゆみとお母さんは、職員棟を越えて体育館の入り口から中に入る。

「靴を履きかえるみたいね」

体育館の入り口のところに置いてある大きなダンボール箱に緑色のスリッパがたくさん入っていた。その脇のところには、脱いだ靴を入れておく下駄箱もあった。ゆみも、お母さんも、そこで履いてきた靴を脱ぎ、体育館に置かれている緑色のスリッパに履きかえた。

アメリカの学校には、こういった下駄箱に上履き、下履きの制度はなかった。

体育館の運動スペースに入る入り口には、鉄製の重たい扉が付いていた。お母さんが、その重たい扉を静かにそっと開くと、中から校長先生の話している声が聞こえてきた。どうやら、入学式は、もう既に始まっているようだった。

遅れてきた2人は、静かに音をたてないようにそっと中に入った。体育館の中には、ほかにも遅れてきた両親が何人かいるみたいで、彼らも静かにそっと中に入ると、後ろのほうの空いている席に腰掛けていた。お母さんも、後ろのほうに空いている席を見つけて、そこに静かに移動して腰掛けた。

ゆみも、お母さんの後についていって、お母さんの隣りの空いている席に腰掛けようとした。

「ゆみ、生徒たちは前の席に座るみたいよ」

お母さんは、隣りに座ろうとしていたゆみに小声で囁いた。ゆみは、チラッと前方の生徒たちが座っている席の方を見たが、首を横に振って、黙ってお母さんの横の席に腰掛けた。

「生徒たちの席は、前みたいよ」

隣りに座ったゆみの耳元で、お母さんがもう一度小声で話しかけてきたが、ゆみは黙って、もう一度、首を横に振って、お母さんの手をぎゅっと握りしめた。

「しょうのない子ね」

お母さんは、苦笑しながらも黙って、ゆみの手をぎゅっと握り返してくれた。

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