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期末試験

「ああ、どうしよう。ぜんぜん頭に入っていない」

祥恵は、朝食を食べ終わった後も、しばらく席を立てずに頭を抱えていた。

「どうしたのよ?」

お母さんが、祥恵の食べ終わった後のお皿を片づけながら声をかけた。

「きょう、期末試験なんだよ。なのに、勉強がぜんぜん頭に入ってない」

「あらあら、1学期は部活ばかり夢中になり過ぎて勉強が厳かになってしまったかしらね」

「そうかもしれない」

「でも、ここ1週間ばかしは部活はやっていないんでしょう?」

「うん。だって試験期間中は部活は禁止だもの。やったら先生に怒られちゃうよ」

「そうなの」

お母さんは、祥恵に答えた。

「ゆみも期末試験なんでしょう?」

「それはそうよ。同じクラスだからね」

「その割には、ゆみはぜんぜん試験のこと言ってなかったけど。夜遅くまで勉強をしている様子もなかったけど」

「あの子、夜遅くまで起きてたら体調崩しちゃうじゃない」

「そりゃそうだけど」

お母さんは、祥恵に言われて苦笑した。

「どうした?なんか悩みか?勉強とお金以外のことだったら父さんが相談にのるぞ」

「じゃ、いらない」

祥恵は、お父さんに答えた。

「悩みは勉強のことだものね」

お母さんは、祥恵に同調した。

「今日から学校は期末試験なんですよ」

「それで勉強ができないって悩んでいるのか?もっと普段から勉強しておかなきゃダメだろう。勉強に支障きたすならバスケなんかやめちゃえ」

お父さんは、他人事のように祥恵に言った。

「おまえは医大に行くんだろう?だったら、勉強は今からしっかりやっておいた方がいいぞ」

「え、私って医大に行くの?」

「なんだ、歯医者になるんじゃないのか?」

「歯医者?私って歯医者になるんだったの?」

逆に祥恵がお父さんに聞き返した。

「あなた、また勝手に祥恵に自分の職業を押しつけて・・」

お母さんは、お父さんのことを叱った。

「私、運動は得意だけど頭わるいから。医大は無理じゃない。ゆみが頭いいんだから、ゆみに医者はやらせなよ」

祥恵は、お父さんに言った。

「ああ、遅刻しちゃう。ゆみ!ゆみっ!学校に行くから、早く部屋から降りてきなさい」

祥恵は、2階に向かって叫んだ。

「はーい」

ゆみが2階から自分のバッグを持って降りてきた。

「学校に行くよ」

「はーい。お母さん、お父さん、行ってきます」

ゆみは、両親に挨拶をすると祥恵と一緒に家を飛び出した。ゆみの肩には、タンスの上に置いてきたはずのブータ先生が乗っかっていた。

「本当に医者には祥恵でなく、ゆみがなるのか?」

娘2人が家を出て行くのを見送った後で、お父さんがお母さんに聞いた。

「そんなのまだわかりませんよ。ゆみだって、まだ本人の口から医大に行くなんて話、1回も聞いたことありませんからね」

お母さんは、お父さんに答えた。

「まあ、ゆみはともかく。祥恵は医大に行くよな?」

「知りません」

お母さんは、お父さんを置いたまま、キッチンに朝食の食べ終わったお皿を洗いに行ってしまった。

「ええっと、江戸時代は・・」

祥恵は、毎朝のように、井の頭線でゆみのことを空いた席に座らせると、その前のつり革に捕まって、試験勉強の暗記の続きを始めていた。

「おまえの姉ちゃん、忙しそうだな」

ゆみの膝の上のブータ先生が顔をゆみの方に振り向いて話しかけた。

「うん。お姉ちゃん、お勉強中だから静かにしてあげて」

ゆみは、ブータ先生の頭を撫でながら言った。

結局、祥恵は学校に着いてからも試験が始まる直前まで暗記をしていた。

「はい、教科書とかは机の中にしまってください。試験を始めますよ」

試験官がテストの問題用紙と解答用紙を配って、試験が開始になった。

「げ、こんなところ勉強してこなかった・・」

クラスのあっちこっちから生徒たちのため息が聞こえていた。そんな中、ゆみだけは特に慌てることなく問題文を読んで、すらすらと解答用紙に解答を書き込みはじめていた。どの問題も、1学期に先生たちが授業で教えてくれたことばかりだった。ゆみからしたら、ついこの間、先生たちから授業で教えてもらった問題ばかりなのだ。こんな解答、どれも考えるまでもなく簡単に書き込めてしまうものばかりだ。

結局、どの科目の試験も、制限時間ぎりぎりまで考えるまでもなく解答できてしまっているものばかりだった。

「はい、終了20分前です。終わった方は、先に解答用紙を提出して退出されてもかまいませんよ」

どの試験も、先生のその言葉とともに席を立って解答用紙を提出していたのは、ゆみだけだった。

「ねえ、ゆみちゃん。夏休みの間、ブータ先生って私と一緒に清里の山を登るんだって?」

期末試験の最終日、試験がぜんぶ終わった後で、そうゆみに話しかけてきたのは、ゆり子だった。

「え、そうなの?」

「なんか祥恵がそう言っていたけど」

ゆり子に言われて、ゆみは抱えていたブータ先生の方を見た。ブータ先生は、ううんと首を横に振っていた。

「そんなふうに言っていたんだけど、ブータ先生がどうせゆり子お姉ちゃんの家に里帰りしても、ゆり子お姉ちゃんの部屋のタンスの上に置いてきぼりにされるだけだから、夏休みは里帰りしないって言っているんだけど」

「そうなの。もし、ゆみちゃんがブータ先生も山に登らせてあげてほしいって言うのなら、ゆり子もちゃんとブータ先生のことをリュックに入れて一緒に山に連れて行くよ」

ゆり子は、ゆみに約束した。

「だってさ、ブータ先生どうする?」

「そこまで言うのなら、おいらとしてもゆり子殿と山に登ってくるのも良いが」

ブータ先生は、ゆみに答えた。

「そう、わかった」

ゆみは、ブータ先生のお返事を聞くと、すぐにブータ先生のことを持ち上げて、ゆり子に手渡した。

「ブータ先生も清里の山を登ってみたいって言うので、どうかブータ先生のことを宜しくお願いします」

ゆみは、ゆり子に頭を下げた。ゆり子は、夏休み前にブータ先生のことをゆみから預かると、いったん家に持ち帰った。

清里村へ旅行に出かける日、ブータ先生はゆり子の持っていくリュックの中にいた。ゆり子は登山の合間ずっとブータ先生のことを持ち歩き、頂上や休憩場所など要所要所でブータ先生のことをリュックから取り出して、地面や木の上などに置いて写真を撮っていた。登山から帰ったら、ブータ先生の写真とともに、清里村の話をいっぱいゆみにしてあげるつもりでいたのだった。

小倉夕子につづく

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