先生が職員室から戻って来た。
「ええ、皆、一回席に着いてくれるか」
先生は、窓際から外を眺めている生徒たちに言った。
生徒たちは皆、ぞろぞろと自分の席に着く。
「ええーと、職員室に行って、状況を聞いてきた」
先生が話を始めた時に、学校の校内放送が大きな声で流れた。
「生徒の皆さん、武蔵野の奥に巨大な隕石が大量に降っています」
校内放送は、伝えていた。
「隕石は、立川、国立の町に多く飛来しているようです。緊急事態です!学校は休校になります。立川、国立方面に住んでいる生徒の皆さん以外は、直ちに自宅へ帰宅してください。繰り返します!学校は休校になります、生徒の皆さんは全員速やかに帰宅ください」
そう校内放送は伝えていた。
「尚、立川、国立方面にお住いの生徒の皆さんは、担任の先生とともに教室に待機してください」
校内放送が終わった。
「今の聞いたか?そういうことだ。学校は休校になるので、全員速やかに帰宅するように!」
先生は、クラスの生徒全員に告げた。
「このクラスでも、確か立川、国立方面に住んでいる生徒が何人かいたよな。住んでいる人は手を上げて」
先生に言われて、3人ほどの生徒が手を上げた。
「君たち、先生と一緒にこのまま教室に待機。国立、立川方面にはいくつも隕石が既に地上に落ちているらしいから、ご自宅の安否確認を取ってからどうするか状況を見極めよう」
先生は、3人に提案した。
「他の皆は、今すぐに帰宅しなさい」
先生は、言った。
「帰宅する人たちも、ぜったいに寄り道とかするんじゃないぞ!真っ直ぐに家に帰るんだぞ!今は、武蔵野にだけ隕石は降っているようだが、いつ他の地域にも降ってくるかわからないんだからな。早く家族の元に帰って、家族で相談し、避難活動なりするように」
先生の話が終わると、国立、立川の3人を除いて、他の生徒たちは急いで帰宅し始めた。
「ゆみ、帰るよ!」
ゆみも、お姉ちゃんに言われて、一緒に教室を出て帰宅する。
「吉祥寺駅から帰ろうか」
お姉ちゃんは、学校を出て歩きながら、ゆみに言った。
学校から一番近い最寄駅は、京王井の頭線の井の頭公園駅だった。
「一番早くお家に帰れる方がいいんじゃないの?」
ゆみが、お姉ちゃんに言った。
「うん。だから吉祥寺駅の方が急行が停まるでしょう。その方が早いと思うよ」
お姉ちゃんに言われて、ゆみはお姉ちゃんと吉祥寺駅を目指して歩き出した。学校から吉祥寺駅へは、井の頭公園の中を突っ切っていく。出来るだけ早く家に帰ろうとしているからだろうが、いつもよりも、お姉ちゃんの歩く速度が早い。ゆみは、必死でお姉ちゃんについていこうとしていた。
「ほら、ゆみ。乗りなよ」
お姉ちゃんが、突然歩くのをやめると、ゆみの前にしゃがんで背中を向けた。
「え、なに?ゆみ、ちゃんと自分で歩けるよ」
「歩けるのわかっているよ。でも、私がおんぶして歩いた方が早いから」
お姉ちゃんに言われて、ゆみは、お姉ちゃんの背中の上に乗った。ゆみが上に乗ると、お姉ちゃんは立ち上がって歩き出した。
「お姉ちゃんの背中、あったかい」
「良かったね、寝ててもいいよ」
ゆみが言うと、お姉ちゃんが言ってくれた。ゆみがお姉ちゃんの背中の上で、本当に寝てしまいそうになっていると、吉祥寺駅に着いていた。本当に、ゆみが一緒に歩くよりも早く駅に着いてしまった。
「すごい混んでいる!」
「そりゃそうだよ。どこの学校も、会社も隕石のせいで休校で、家に帰るんでしょう」
お姉ちゃんが、ゆみに言った。
2人は、大混雑の吉祥寺駅の構内に入ると、井の頭線のホームに向かった。
「ゆみ、迷子になるから、私の手を離したらだめよ」
お姉ちゃんが、ゆみの手をしっかり握る。
「乗れるかな?」
井の頭線の電車も大混雑だった。2人がどこに乗ろうか迷っていると、誰だかわからないけど、男性の手に引っ張られて、電車の中に乗り込まされていた。
「ここ空いているから、座りなさい」
お姉ちゃんの手を引っ張ってきた男性が、お姉ちゃんに声をかけた。
「ありがとうございます」
お姉ちゃんは、男性にお礼を言うと、その空いている席に腰掛けた。
「ゆみ、ここに座りなさい」
ゆみは、お姉ちゃんに言われて、お姉ちゃんのお膝の上に座った。
「おじさん、ありがとうございます!」
ゆみも、その男性にお礼を言うと、
「いいよ、いいよ。良かったな、座れて」
男性は、超大混雑の満員電車の中で、揺られながら答えた。井の頭線の急行は走り出した。
「お姉ちゃん、わざわざ井の頭公園駅でなく吉祥寺駅に来たけど、東松原駅って急行停まったっけ?」
ゆみが聞くと、
「あ、そうだよね」
お姉ちゃんは、失敗したって顔をしていた。
「この電車は急行ですが、緊急事態のため各駅停車にて運行します」
車掌の車内放送が流れた。
「良かったな。このまま東松原駅まで行けるよ」
2人の会話を聞いていて、東松原駅が目的地だと知ったさっきの男性が声をかけてくれた。ゆみは、その男性に向かって、嬉しそうに微笑んだ。お姉ちゃんも会釈した。
マイホームにつづく