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ゆみ、倒れる

「はい、歌って!」

大友先生は、ひな壇に立っている生徒たちに向かって指示をして、生徒たちは先生の指示に従って合唱していた。ゆみも、初めての音楽の授業なので、なんとなくウキウキして一生懸命声を出していた。

「はい、いいぞ」

大友先生は、熱血教師タイプで生徒たちを指導するのに力が入っていた。

「それじゃ、今度はバスだけで歌ってみようか」

大友先生の指示に従って、一番右端の男子グループが歌っていた。一番左のゆみが所属するソプラノグループはしばらく休憩だ。

「はい、じゃテノール行こうか」

大友先生は、その隣のテノール、アルトと順番に歌わせていき、最後に一番左端のソプラノの番になった。ゆみも、大友先生の指示に合わせて、必死で声を出していた。

「どうした?」

ゆみは、必死で歌を歌っていると急に目まいがして、目の前の景色がグラグラと揺れてみえた。そして、そのままフラッと床に倒れ込んでしまった。

「ゆみちゃん!」

「おい、大丈夫か?」

遠くなっていく意識の中で、周りの皆がゆみのことを呼ぶ声だけがしていた。ゆみは、背が低いので一番前のひな壇に立っていたのが幸いした。一番上だったら、上から下まで真っ逆さまに落ちてしまっていただろう。

「ゆみ!」

ゆみが倒れるのに気づいた背の高い祥恵は、慌ててものすごいスピードでひな壇を駆け下りて、倒れているゆみを抱き上げた。

「ゆみ、大丈夫?」

祥恵も声をかけたが、それよりも、もっと早くゆみの側に駆け寄って、ゆみの身体を抱き起こしてくれたのは大友先生だった。

「大丈夫か?どうした?」

大友先生も、気絶しているゆみに声をかける。

「彼女は、けっこう貧血とか起きやすいのか?」

大友先生は、姉である祥恵に質問した。

「貧血は、そんなでもないはずですが。普段からなるだけあんまり激しい運動とかもさせないようにしているし」

祥恵は、答えた。

「ともかく保健室に連れて行こう」

大友先生は、気絶しているゆみのことを抱き上げると、立ち上がった。

「馬宮先生、ちょっとすみませんがお願いできますか」

大友先生は、後の授業を後輩の女性教師の馬宮先生に任せると、ゆみを抱き上げて保健室へと向かった。

「私も行きます」

「そうだな。お姉さんがいたほうが良いかもしれない」

祥恵が大友先生に言って、祥恵もゆみを抱いている大友先生と共に保健室に行くことになった。

「彼女は、けっこう身体が弱い方なのか」

「ええ、生まれたときも未熟児で、いつも体育とかは見学なんです」

祥恵は、保健室への道すがら大友先生に説明した。保健室は、中等部の校舎を入ってすぐのところにある。

「あらら、ゆみちゃん。どうしたの?」

保健室に入ると、保健の小山先生という女の先生が、ゆみの姿をみて声をかけてきた。ゆみは、小等部の頃からよく保健室にはお世話になっていたので、小山先生とも、すっかり顔見知りだ。

「貧血?倒れちゃったの?」

ゆみが気絶していて返事できそうもないので、小山先生は大友先生に状況を聞いた。大友先生に状況を聞きながら、小山先生は、大友先生からゆみの身体を受け取り、奥のベッドに寝かせた。

「なるほど。そういうことなの」

小山先生は、ゆみの熱を測ったりしながら、

「音楽、合唱は、お腹から声をだしたりして発声しますよね。ただ立って歌っているだけにみえるかもしれないけど、意外にけっこう体力を使いますよね」

「ええ、まあ」

「歌もですが、ダンスとか踊りが加わると、それはもう立派な体育ですしね」

小山先生は、大友先生に言った。

「これからは、彼女は合唱の時間も見学にしたほうが良いかもしれないです」

「そうなんですね。では、次回からはそうしましょう」

大友先生は、小山先生に答えた。

「とりあえず今は、しばらくここで安静にして眠らせておけば大丈夫と思いますので、先生は授業ありますよね?戻っていただいて大丈夫ですよ」

「は、わかりました。それじゃ、彼女のこと、よろしくお願いします」

「はい。彼女とは、もう付き合い長いですから。任せてください」

小山先生は、大友先生に笑顔で答えた。大友先生は、ゆみのことを小山先生に任せて、自分は音楽の授業に戻ることにした。

「今井くんは、妹の側についているか?」

「はい」

祥恵は、大友先生に言われて返事したが、

「祥恵さんも、授業があるんでしょう。ゆみちゃんのことは私に任せて、授業に戻りなさい」

小山先生に言われ、祥恵も大友先生と共に授業に戻っていった。

「おい、大丈夫か?」

保健室のベッドで目を覚ましたゆみに、声をかけてきたのは枕元にいるブータ先生だった。

「あたし、どうしたの?」

「歌を歌っていたら、急に倒れたりするから、びっくりしたよ」

ブータ先生は、ゆみに言った。

「ブータ先生が助けてくれたら良かったのに」

「あんな急に倒れられたら、助けるに助けられないだろう」

ブータ先生は、ゆみに言った。2人の話し声に、小山先生がベッドにやって来た。

「あら、ブタさんじゃない」

小山先生は、ゆみの枕元にあるブタのぬいぐるみを見て言った。

「ブータ先生っていうの」

「あら、そうなの。ゆみちゃんのぬいぐるみなの?」

「ゆり子お姉ちゃんのぬいぐるみ」

「そうなの。さっきから、その子、ゆみちゃん持っていたの?」

「え?」

ゆみは、一瞬答えに詰まったが、

「う、うん。いたよ」

「あら、そうだったの。先生、ぜんぜん気づかなかったわ」

小山先生は、ゆみに返事した。

「体調は、大丈夫そうね。ちょっと合唱で体力を消耗してしまっただけみたいね。これからは、大友先生には話しておいたけど、合唱の授業も見学にした方が良いわ」

小山先生は、ゆみに言った。ゆみは、黙って先生に頷いた。

「もう少しで午前の授業終わるから、もうしばらくここで寝れば、午後からの授業には出席できるでしょう」

小山先生は、ゆみに伝えた。

星野くんにつづく

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