祥恵は、その日も病院の体育館でバスケットボールをしていた。
「で、彼女がそうなのか?」
森雪と一緒にバスケットボールをしている祥恵のことを、体育館の観覧席から眺めていた男性が、森雪に聞いた。
「そう、バスケットボールの動きなんかみても、運動能力抜群そうでしょう」
森雪は、男性に答えた。
「そうだな。身体も丈夫そうだし、戦士としてヤマトに一緒に乗ってくれたら、心強いかもしれないな」
男性は、祥恵が1人で活発そうにバスケットボールをやる姿を見ながら言った。
「古代君の良い後輩になるかもよ」
森雪は、男性に言った。男性のほうは、古代進という名前だった。兄の古代守は、ガミラスと宇宙で戦っているときに敗れて、亡くなってしまったのだった。兄がたった1人の肉親だった古代進は、亡くなったことを知ってからしばらくは、とても落ち込んでいた。が、しかし、今はヤマトへの搭乗も志願し、宇宙戦士だった亡くなった兄と同じ道を歩もうと決意していた。
彼の古くからの友人である島大輔も、やはり古代進と同じようにヤマトの戦士に志願し、ヤマトに搭乗することになっていた。島大輔は、ヤマトの航海班長、古代進は、戦闘班長を任せられていた。戦闘班長を任せられた古代進は、自分と一緒にヤマトに乗って、ガミラスと戦い、イスカンダルに放射能除去装置を取りに行ってくれる優秀な戦士を探しているのだった。
「おーい、君!」
古代進は、祥恵がバスケットボールをやっている体育館に降りていくと、大きな声で祥恵に呼びかけた。
「はい?」
祥恵は、古代進に声をかけられて振り向いた。
「こんにちは」
見知らぬ古代進の横に森雪の姿を見つけて、少し警戒していた祥恵は、警戒心を少し解いた。
「この人、古代進さんっていうの」
森雪は、男性のことを祥恵に紹介した。
「こんにちは」
祥恵は、古代進に挨拶をした。
「君さ、ヤマトに乗って、一緒にイスカンダルまで放射能除去装置を取りに行ってもいいんだって?」
「え」
突然、古代進に聞かれて、祥恵はちょっと驚いていた。
「いきなり、そんなこと、こんな見知らぬおじさんに聞かれたら驚くよね。前に祥ちゃんが、私に話していたじゃない」
森雪が、古代進の話に補足する。
「ああ、あのときは、そう言いましたけど」
祥恵は、答える。
「さっき、君のバスケットボールの腕を拝見させてもらったよ。あと地上からここの地下シェルターまで石の欠片に乗って降りてきた話も・・」
古代進は、祥恵に言った。
「君みたいな優れた運動能力を持った人に、一緒にイスカンダルまで行ってもらえると、こちらもすごく心強いんだけどな」
古代進は、祥恵のことをヤマト搭乗へとしきりに勧誘していた。
「そう言ってもらえるのは、とても嬉しいですけど」
祥恵は答えた。
「私、自分の家族を探しているところでして」
「ね、そうよね。まずは、自分の家族が大切だものね。家族の無事を確認してからでないとね。安心してヤマトにだって乗っていけないわよね」
森雪が祥恵に言った。祥恵は、森雪の言葉に頷いた。
「それは、確かにそうなんだけど。ヤマトの出航は、もう来週で時間が無いんだ。でも、今すぐ結論を決めてくれとは言わないから、もし乗ってもらえるのだったら、ぜひヤマトで待っているので搭乗してほしい」
それだけ言うと、古代進は帰っていった。
「ごめんね。古代君に勝手なお願い言わせちゃって」
「いいえ。私も住んでいる、これからの地球が助かるためですもの。古代さんのおしゃることもわかります」
森雪は、祥恵に謝っていた。
「見つかりましたよ」
役場から祥恵のところに連絡があったのは、それから2日後のことだった。
「今井さんのご家族ですが、まだ新宿の地下駐車場にいらっしゃるようです。妹さんの、体内の放射能を除去するために、地下駐車場でしばらく待機してもらっているところです。ただ、遅くても、あと2週間ぐらいで、こちらの地下シェルターにも降りてこられるはずですので、ご安心ください」
役場から祥恵のところに入った返事だった。
「あと2週間か・・」
2週間待っていたら、ヤマトはもう既にイスカンダルへ向かって出発してしまっているはずだ。祥恵は、このままお父さんたち家族を待っているべきか、地球を救うためにヤマトに乗っていくべきか迷っていた。
そして、決断した。
「お父さんも、お母さんもわかってくれるよね」
祥恵は、自分に言い聞かせていた。自分の丈夫な身体が、地球を救うために役立つって話なんだ。地球が救われれば、またそこでお父さんとも、お母さんとも、妹のゆみとも暮らせるじゃないか。もし、私がヤマトに乗っていかなくて、ヤマトが途中、悪い宇宙人の方のガミラスに襲われて大破してしまったら、ヤマトがイスカンダルから装置を持って帰ってこれなかったら、地球はお終いなのだ。そうなったら、私だって家族とまた暮らすこともできなくなってしまうのだ。
そして、ヤマトが地球を出発する日、祥恵は、ヤマトの甲板に立っていた。
大勢の人たちが、これからイスカンダルに向かうヤマトのことを地上、地下シェルターの地面からお見送りしていた。これから一緒にヤマトに乗る仲間たちの家族も、地上でお見送りをしているらしく、仲間たちは甲板から地上に向かって、大きく手を振っていた。
そんな仲間たちの姿を横目で見ながら、祥恵も心の中でつぶやいていた。
「お父さん、お母さん、ゆみ、行ってきます!」
地下シェルターにつづく