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デモ行進

「ゆみを今すぐ俺らに引き渡せ!」

「貧民をかばうな!俺らで貧民裁判にかけてやる!」

太助や坂本たちは、医務室の前の廊下に座り込んで、デモを始めていた。

「お前たち、うるさいぞ!今、医務室に名誉の負傷した怪我人が入院しているんだぞ」

最初、デモを始めたときには佐渡先生が中から飛び出してきて文句を言った。

「どうしてブスをかばうんですか?」

「やつは貧民ですよ。俺らは訓練学校時代からあいつには被害にあっているので、あいつを貧民裁判にかける権利はあると思います」

「すぐに、ゆみのやつを俺らに明け渡してください」

太助や坂本たちは、医務室から出てきた佐渡先生に交渉した。が、

「馬鹿馬鹿しい、お前らの相手などしておれんわ」

そう言って、佐渡先生は早々に医務室の中に引き上げてしまった。佐渡先生が中に引き上げて以来、医務室のドアはしっかり中から施錠され、太助たちは中に入れなくなってしまっていた。

「なんで俺らが馬鹿馬鹿しい呼ばわりされるんだ・・」

「悪いのは、あいつじゃないか。貧民のくせに人間扱いされて」

太助たちは、医務室から出てこないゆみに勝手に怒っていた。以来、医務室の中に入れない太助や坂本たちは、医務室のすぐ外の廊下で、シュプレヒコールを上げて騒いでいた。その声は、中にいるゆみのところまで聞こえていた。

「ゆみちゃん、私たちが守ってあげるから大丈夫だから。我慢よ、我慢」

森雪は、ゆみが太助や坂本たちの喧嘩に応えて、喧嘩腰になって何かしでかさないかと、ゆみを慰めていたが、ゆみの反応は喧嘩に応えるのではなく全く逆の反応だった。

「坂本たちだけでなく、太助まであたしに怒ってる・・」

ゆみは、彼らが廊下で奇声を上げる度に、身体じゅうを震わせて恐怖に慄いていた。なにしろ、今の自分は貧民であるということが彼らにバレてしまった後なのだ。彼らは、自分が貧民であるということを知っている。一般の人間は、相手が貧民だとわかると、お構いなしに途轍もなくひどいことをしてくるのだ。そのことは、これまでも貧民街で竜たち少年盗賊団の子どもたちと一緒にいるときに何度と経験していることだ。

彼ら、坂本や太助だって、今のゆみに対して何をしてくるかわかったものではない。

「ゆみを今すぐ俺らに引き渡せ!」

「貧民をかばうな!俺らで貧民裁判にかけてやる!」

彼らの奇声が、廊下から聞こえてくる度に、ゆみは布団の中で身震いしてしまうのだった。

「ゆみ。こんなに震えちゃって・・」

布団の中で震えあがっているゆみの手を、しっかり握って慰めてくれる祥恵だった。

「おかしいな。祥ちゃんと再会する前は、あんなに強気で色々頑張ってたゆみちゃんなのに、祥ちゃんと再会してから、急に震えちゃってお姉ちゃんに甘えん坊になっちゃったのかな」

森雪は、坂本たちの言動に震えながら、祥恵にしがみついているゆみを見て言った。

「いや、違うだろう。それだけ貧民という悪習が地上の人々の心に染み付いてしまっているということだろう」

佐渡先生が、森雪に説明した。

「私があいつらのところに行って、貧民なんて嘘だってことを説明してくるよ」

祥恵は、佐渡先生たちに言った。

「いや、それはやめた方が良いだろう。今や、祥恵君だって、残念ながらあいつらから見たら立派な貧民に見えるだろうからな」

佐渡先生は、祥恵に言った。

「え、私が貧民?なぜ?私にはどこにも、その貧民のマークなんて無いよ」

祥恵は、佐渡先生の前に自分の両腕を差し出して見せながら言った。

「確かに、貧民のマークは無いかもしれないけど、祥恵君は、ゆみ君のお姉さんだ。今井さんたち御夫婦の娘さんだ。あいつらにとって、貧民とは世襲制、人間と同じような種族に見えるが、人間では非らず人間とは全く別の種族だ。ってことは貧民の今井さん御夫婦の娘の祥恵君も、貧民と思われてしまっても仕方ないじゃろう」

「確かにそうかも。ってことは祥ちゃんも今はあいつらの前に出ない方が良いかもね」

森雪が、佐渡先生の話を聞いて納得した。

「どうしてよ。私は、あいつらの上司っていうか、一応ヤマトの戦闘班長なんですけど・・」

祥恵も、佐渡先生の話は納得してはいるけど、悔しそうに答えた。

「そうか!これ、使えるよ!」

祥恵は、突然何かに気づいて叫んだ。

「ね、貧民っていうのは人間とは別の種族なんでしょう?だから貧民のお母さんの娘である私も貧民。だったら、貧民のお母さんの腕にある貧民のマークが、私の左腕には無いっていうのは、ものすごく矛盾しているじゃない」

祥恵は、自分の腕とお母さんの腕を並べて、皆の前に差し出しながら言った。

「確かに、今井さんの腕にあって、祥ちゃんの腕には無いっていう事実は、貧民って論理そのものを論破させるだけの事実にはならないかしら?」

森雪も、祥恵の話に同意した。

「確かにそうかもしれんな」

佐渡先生は、自分の手を顎にやりながら考え込んでいた。

貧民裁判につづく

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