ゆみが放課後、教室で姉の部活が終わるのを待っている間に事件が起こった。
それは、クラスの男の子、川上と鶴見が、目の見えないかおりのことをからかっていたという事件だった。そのとき、たまたま教室で姉の部活が終わるのを待っていたゆみが、川上たちに文句を言うと、川上たちがチビのくせに生意気だと今度は、ゆみのことをイジメてきたという事件だった。
「え、なんでこんなに大ごとになっているの?」
ゆみは、その日のクラスのホームルームの時間に不思議に思っていた。ズボンの裾は、ちょっと擦りむいたかもしれないが、怪我も何もしていないし、まさかこんなに大ごとになるとは昨日は思ってもいなかったのだった。
それが、その日のホームルームの時間に話題になってしまっていたのだった。
「昨日の放課後、彼女に何かしたというのに心当たりあるものは正直に手を挙げなさい」
佐伯先生は、かおりの席のすぐ側に立ちながら、クラスの皆に話していた。しかし、クラスの誰も心当たりが無いのか手を挙げるものはいなかった。
「それでは、目撃者がいるので、目撃者に聞いてみよう」
佐伯先生は、そう言うと、今度は、かおりのところからゆみの側にやって来た。
「見ていたんだろう?というよりも、君も注意したら逆にイジメられそうになったんだろう?」
佐伯先生は、ゆみに聞いてきた。
「え・・・」
ゆみは、佐伯先生にうまく答えられないでいた。
「どの子に注意されたのか言ってごらん」
佐伯先生は、再度ゆみに聞いた。ゆみは、部屋の中央、廊下側の席に座っている男の子たちだということはわかっていたが、中等部入学から今まで彼らとまだよくお話とかもしたことなかったし、川上という名前までは知らなかった。
「ええっと、よくわからないかな・・」
ゆみは、佐伯先生にうまく返事できずにいた。
「いいんだよ。はっきり言っても。昨日、先生も、かおり君のお母さんからそういうことがあったんだってことは、既に聞いているんだから」
佐伯先生は、ゆみに言った。
ゆみは、奥の、廊下側の、かおりの席の方をチラッと見た。かおりは、目が見えないので、奥からゆみが見ていることには気づかずにいた。
「ほら、ゆみ。なんかあったんだったら言いなさい。昨日、お姉ちゃんがバスケ行っている間、1人でここで待っていたよね?」
隣の席の祥恵が、ゆみに助け船を出してくれた。でも、なんかそんな告げ口みたいなことして良いのかよくわからなかった。それに、そんなこと言って、もし、あの男の子たちが仕返ししてきたらどうしようって不安もあった。
「うう・・」
ゆみは、祥恵の腕を掴んで、その腕に自分の顔をすり寄せてみせながら、うまくお返事できないので甘えてみせた。
「しょうがない子ね」
祥恵は、ゆみの頭を撫でた。
「ともかく、かおりも見てわかるように車椅子なんだし、ゆみだって、君らと同級生かもしれんが、年はずっと下の年下の子なんだし、そういう体力的に弱い子に、ちょっとからかっただけなのかもしれないが、そういうことをするのは先生は嫌いだ。そんなことは二度としないように・・」
ゆみが、イジメられた子のことを言わないので、クラス全員に向かって佐伯先生は、お説教をして、その日のホームルームは終わりになった。
「先生、この問題はこれで終わりにするので良いのですか?」
教室の中央に座っているスラリと背の高いイケメンの佐藤君が質問した。
「そうだな。君らはどうしたら良いと思う?」
「しっかり真相を究明して、今後は、こういうことがうちのクラスで起こらないように対策した方が良いと思います」
「そうだな・・」
佐伯先生が、佐藤に答えると、
「確かに、今後うちのクラスでこういう問題が起きないようにはした方が良い」
「それには、まず誰がやったのかがわからないと」
「どうして、そんなことが起きたのか、その原因も大事かも」
クラスの皆は、一斉に意見を言い始めた。
「それでは、本日はもう時間が無いから、次回のホームルームまでに、今回のかおりとゆみの事件だけに限らず、イジメとか、生徒間のからかいあうことについて良い機会だから少し話し合ってみようか」
「はい!」
生徒たち皆は、佐伯先生の提案に賛成した。
昨日、かおりとゆみが巻き込まれてしまった事件が、なんとクラスのホームルームの議題に上がってしまったのだった。
「次回までに、とりあえず祥恵には、ゆみちゃんに誰がやったのか聞いておいてもらいましょうよ。その方が話し合いも進めやすいだろうし」
ゆり子がクラスの皆に提案した言葉で、祥恵までも余計な宿題を仰せつかってしまっていた。
「ゆみ。今うまく答えられないなら、家に帰ったら、ちゃんとお姉ちゃんに話すのよ」
祥恵は、ホームルームが終わり、放課後になると、ゆみに命令してから、バスケ部の部活に行ってしまった。
反省につづく