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36 木工の授業
「重いよ、めちゃめちゃ!なんでこんなことしなければならないんだか」
星野は、ゆみや麻子たち女子に声を掛けられて、弱音を吐いていた。
「麻子たちって、向こうの教室の中で料理かなにかしていたんでしょう?」
星野は、逆に女子たちに質問した。
「ううん。料理はしていないよ」
「タペストリーって生地を縫ったり、貼ったりして壁掛けを作らなければならないの。1学期ずっとかけて」
「縫ったりなんかしなくちゃならないし、けっこう大変だよ」
「こんな重いもので叩いたりするよりは遙かにいいよ。俺もそっちでタペストリー作りたいな」
星野は、女子たちに言った。
「星野には、木工ってきついかもね」
「そう思うでしょ?」
「先生に頼んでさ、髪にかわいいリボンも結んでいることだし、スカートとか履かせてもらって、向こうの家庭科室でお裁縫とかさせてもらった方が良いんじゃないの」
「俺もそうしたいよ」
星野は、真弓に答えた。麻子や真弓が星野と話している間、ゆみはその向こうで割り終わった薪に彫刻を彫っていた鳥居のところにいた。
「けっこう大変だよ。1個ずつ掘っていかなければならないからね」
「そうなんだ。なんか面白そう」
ゆみは、鳥居に答えた。
「やってみる?こっちの薪は使わないから、これに彫刻を彫ってみてもいいよ」
鳥居は、自分の脇に放り出してあった小さい薪を、ゆみに手渡しながら言った。
「どうやるの?」
ゆみは、興味深そうに鳥居の持っている彫刻刀を眺めた。
「ここをこうやると、ほら、木が削れるんだ」
鳥居は、彫刻刀の使い方をゆみに教えてくれた。ゆみは、もう一つ置いてあった彫刻刀で鳥居に使い方を教えてもらいながら、小さな薪を掘ってみた。
「なんか楽しい!」
ゆみは、鳥居が掘っている彫刻の横で、自分も薪に彫刻を彫っていた。鳥居は、自分の持っている木にボートの形を彫っていた。
「ほお、クマか」
さっき男子たちに木工を指導していたごま塩頭の先生が、ゆみの掘っている彫刻を覗きこんでつぶやいていた。ゆみは黙って、木工の先生に頷いた。
「なかなか上手じゃないか」
ごま塩頭の先生は、ゆみの掘った彫刻を手にとって確認しながら言った。
「ここのところに台座を付けると机の上に飾ったときにクマが安定して良いぞ」
先生は、ゆみに言った。
「ちょっと中にお出で」
先生は、ゆみの掘った彫刻を手に持ったまま、ゆみのことを木工室の中に招き入れてくれた。ゆみは、先生の後に追いて木工室の中に入った。
家庭科室は、普通の教室とあまり変わらなく生徒たちが座る椅子と作業できる机がいっぱい部屋中に置いてあるだけだったが、木工室には生徒たちの座れる椅子や机はどこにも置いてなかった。その代わりに部屋じゅう至る所に木工の木々が積み重ねられていた。その木々の中に大きな大工用の機械が何台も置かれていた。
「これで台座を作ろう」
先生はそう言うと、1枚の板を手にして、その板を木工用の機械の上に置くと、
「危ないからちょっと下がっていて」
先生は、ゆみを後ろに下げると、機械のスイッチを入れて板をその上で動かした。
ウィーーン・・
木が削れる大きな音がして、板は小さく切れた。
「ほら、こちら側も台座にはまだ少し大きいから切ろう」
先生は、今切った木の板をゆみに見せ、説明しながら木工の機械を操作しながら、木を切っていた。
「あたしが切りたい」
「うーん、この機械はちょっと危ないから、先生に切らせてくれ」
そう言って、先生は板を機械に乗せて反対側も切った。その後、切れた板を持って奥の机に来ると、その机の上に乗っていたカンナを手にとって、板を削りだした。
「ほら、これで削ると、板がスベスベになるだろう」
先生は、ゆみの手を板に触らせながら説明した。
「これなら君でも出来ると思うよ。やってみるか?」
ゆみは頷いた。先生は、ゆみにカンナの使い方を教えてくれて、ゆみはカンナで板を削った。削ったところを触ってみる。木の表面がツルツルになっていた。
「この台座の上にクマを置いて、このクギでくっつける」
先生は、ゆみにクギの打ち方も教えてくれて、ゆみは台座に自分が掘った木彫りのクマを取り付けた。
「なんか、ゆみちゃん。彫刻に夢中になっているね」
木工室の外で星野とおしゃべりしていた真弓が、先生と木工室の中に行ってしまったゆみを見て言った。
「俺、見てくるよ」
鳥居が木工室の中に入って、ゆみの様子を確認した。
「見て!作ったの」
ゆみは、鳥居に、先生に手伝ってもらいながら自分が作ったクマの置物を見せた。
「うまいじゃん」
鳥居は、ゆみの木彫りを褒めてくれた。
「彼女は、鳥居たちと同じクラスなのか?」
「はい、1組です」
「彼女はなかなか彫刻の才能あるな。上手に彫刻刀を使いこなしているよ」
先生は、ゆみのことを鳥居に褒めていた。
「彫刻は今までにしたことあるのか?」
「え、あたしですか?ぜんぜん。やったことないです」
ゆみは、先生に答えた。
「なかなか上手いよ。家庭科でなくて木工の授業に来るか?」
先生は、ゆみに言った。ゆみも褒められて嬉しそうに頷いた。
「え、じゃあ俺と変わって欲しいです」
麻子たちと木工室に入ってきた星野が、先生に言った。
「なんだ、おまえは木工はやりたくないのか?」
「あっちの家庭科の授業のほうが良いです」
「なんだ、それはだらしないな。先生が1年かけて鍛えてやるよ」
先生は、星野に言った。星野は勘弁してくれって顔をしていた。
「ゆみちゃん、これ彫ったの?めちゃ上手じゃん」
麻子と真弓も、ゆみの彫ったクマを褒めてくれた。