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動物の先生
「おいしい?ゆっくり食べていいんだからね」
ゆみは、つぶれた動物病院の動物たちに、その日も食事を与えに来ていた。あれから、もう1ヶ月ぐらい毎日、ゆみは、つぶれた動物病院に取り残されている動物たちに食事を与えに来ていた。
今日は、少年盗賊団の子どもたちと貧民街の表で盗みをしてきた帰りに寄っていた。なので、竜やあゆみたちも一緒だった。
「あのさ、ずっとお前がここの残された動物たちの食事を上げ続けるつもりなのかよ?」
竜は、ケージの動物たちにごはんを与えているゆみに聞いた。
「だって、ごはんを上げなきゃ、この子たち死んじゃうじゃない」
ゆみは、竜に答えた。
「確かさ、俺たちってここの貧民街にいる貧民たちの食料を調達してくるという大切な仕事をしているんじゃなかったっけ?」
「そうよ」
竜に聞かれて、ゆみは答えた。
「ここの貧民の人たち全員の家族の食事も調達しなければならないのに、そんな動物の食事までも面倒見切れるのかよ」
竜は、ゆみに言った。
「大丈夫。動物たちのことで、竜には面倒かけないから」
ゆみは答えた。
「そのうち、ここの病院に残っているドッグフードとかが全部無くなったら、ペットフードの盗みまでさせられるんじゃないよな」
「だから大丈夫だって。もしそうなったら、竜たちにまではペットフードの調達させたりしないから。あたし1人だけでペットフードは盗んでくるから」
ゆみは、竜に言った。
「あたしたちはペットフードも手伝ってもいいよ」
あゆみが、ゆみに言った。
「ありがとう。ねえ、あゆみちゃんたち、先におうちに帰っていてもいいよ」
ゆみは、動物たちにごはんを上げながら、あゆみたちに言った。
「うん。じゃ、あたしたち先に帰っているね」
あゆみたちは、先に動物病院を出た。
「ああ、俺もばあちゃんが待っているから、先に帰るわ」
竜も、あゆみたちの後を追って、動物病院を出ていってしまった。1人、動物病院に残っているゆみは、ゆみが上げたごはんを食べている動物たちに話しかけていた。
「美味しい?いっぱい食べなさいね」
ゆみがケージの中にいる子犬に話しかけると、子犬は食事を中断して、ゆみのほっぺをペロペロと舐めてくれた。
「ふふ、くすぐったい」
ゆみも、子犬の頭を撫でてあげる。
「動物が好きなのかい?」
突然、暗がりの中、ゆみの背後で男性の声がした。驚いたゆみは、慌てて、診察台の下に隠れた。
「別に逃げなくてもいいよ」
男性は、2階から階段で降りてきた。背が小さく、小太りで大きな顔、短足、ジャガイモのようなゴツゴツした頭も、ほとんど禿げ上がっているお世辞にも格好良いとは言いがたい男性、おじさんだった。身長も、子どものゆみと同じぐらいしかない。
「うちの子たちに、わしがいない間、ずっとごはんを上げてくれていたのかね?」
その男性は、1階に降りてきて、ゆみに話しかけた。
どうしよう?あたしは貧民だし、このおじさんに見つかったら、きっと痛い目に遭わされてしまう、そう思ったゆみは、咄嗟に逃げなきゃと思った。
「どうした?お口が聞けないのかね?」
男性は、ゆみの返事がないので、再度話しかけてきた。そして、診察台の下を覗きこもうとしゃがみ込んだ。
早く逃げなきゃとも思ったが、一方、このおじさんなら身長だって、ゆみと変わらないぐらいだ。もしかしたら戦っても勝てるかも、そう思ったゆみは、床に転がっていたアルミの棒を手に取ると、それを振り上げて、目の前のおじさんに突進した。
「おいおい、そんなことしなくても、わしは別に、お前さんのことを取って食ったりとかしないから大丈夫じゃぞ」
そう言って、ゆみの手にしている棒をつかむと、床に放り捨てた。
「おじさん、誰?」
持っていた武器を取られてしまったゆみは、後ずさりしながら言った。
「わしか?わしは、ここの動物病院の院長だ。佐渡酒造という医者じゃよ」
男性は、ゆみに答えた。
「医者?この動物病院の・・」
「そうじゃよ」
そう聞いて、ゆみは、このおじさんに対する怒りが湧いてきた。
「あんたね、ちょっと無責任過ぎるでしょう!」
ゆみは、目の前のおじさんに叫んだ。
「え、無責任・・そうなのか?」
「おじさんの経営がヘタで、この動物病院をつぶしてしまうのは、おじさんの勝手だからどうでも良いけど。つぶれちゃったなら、動物たちをほったらかしにして夜逃げとかしているんじゃないわよ!ちゃんと最後まで動物たちの面倒はみなさいよ」
ゆみは、おじさんに対する怒りをぶちまけた。
「え?ああ、そうじゃよな。確かにそうじゃな。君の言うとおりだ」
おじさん、佐渡酒造は、ゆみに言われて突然大声で笑い出した。
「はあ?」
「確かに、今回の出張は予定外に時間がかかってしまって、その間、残していった動物たちには迷惑をかけてしまったな。すまん、すまん」
佐渡酒造は、ゆみに謝った。
「しかしじゃな。まあ、確かにこの動物病院、建物も設備も古くボロいかもしれんが、まだつぶれてはおらんのじゃぞ。しっかり、わしが営業しておるぞ」
佐渡酒造は、ゆみに言った。
ヤマトの先生につづく