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冥王星の悲劇
「そうか、それで、ゆみちゃんは冥王星に行きたいのね」
森雪は、ゆみから冥王星の話を聞いて、頷いた。
「だけどね、残念だけど、ゆみちゃんのお姉ちゃんは冥王星にはいないわ」
森雪は、ゆみに伝えた。
「どうして、そんなこと言い切れるのよ!雪さんにだって、冥王星に残されている人がいないなんて言い切れないでしょう」
ゆみは、森雪に言い返した。
「冥王星には、地球人は一人もいません」
森雪は、再度繰り返した。
「それだけは、はっきりしています。あのね、地球で、地下で避難している時に、人々の間で流行った冥王星の悲劇だけど、それってかなり脚色されているわよ」
森雪は、ゆみに説明した。
「当時、ガミラスが地球に遊星爆弾を落としてきたときだけど。そんなに一般の人たちが宇宙に避難するためのロケットなんて全然無かったはず。それじゃ、なんで冥王星の悲劇という言葉が歴史に刻まれているかというと、確かに冥王星の悲劇で冥王星に取り残された人々はいた。その殆どは皆、軍人さんよ」
ゆみは、森雪から冥王星の悲劇の話を聞かされていた。
「あのとき、私たち宇宙戦艦ヤマトに乗っていた乗組員たちは、冥王星に避難、っていうか基地勤務していた軍人さんたちには助けられた。そのおかげで太陽系を離れて、無事イスカンダル星まで行って、コスモクリーナーをもらって帰ってこれたよ」
森雪は、説明しながら一息ついた。
「でも、そのとき冥王星にいた人たちは全員、ガミラスから報復攻撃を受けて基地もろとも亡くなってしまっているわ。生存者は誰もいない。いないからこそ、逆に冥王星の悲劇なのよ」
森雪は、ゆみに説明した。
「だけど、それじゃ、あたしのお姉ちゃんは?」
「ゆみちゃんのお姉ちゃんは、確かに冥王星に避難したの?」
「うん」
ゆみは、自信なさげに小さく頷いた。
「本当に?ゆみちゃんは、お姉ちゃんが冥王星に避難するロケットに乗るところを見たことあるの?」
森雪に改めて聞かれて、ゆみは全然自信が無くなっていた。
「たぶんね」
森雪は、悲しそうな表情のゆみの頭を撫でながら答えた。
「お姉ちゃんなんだけど、新宿で避難している途中に、ガミラスの宇宙船に襲われて車が脱輪したのよね。それで車の後ろに周り、後ろから車を押した。その後、車は無事に走れて、だからこそ、ゆみちゃんたち家族は今、ここにいるのよね」
「うん」
「だけど、車の後ろにいたお姉ちゃんだけがガミラスの宇宙船に襲われて、地上に開いた穴の中に落ちて行方不明になってしまったのよね」
「うん」
「ここから先は、私の想像だけど、穴の中に落ちてしまって・・、そのまま埋まってしまい、亡くなってしまった・・」
「そんなことはない!お姉ちゃんは必ず生きている!」
ゆみが、はっきりそう断言したので、
「しまった・・ってことが無かったとしたら、お姉ちゃんは必死で穴から這い上がった。這い上がったけど、もうあなたたちの乗る車は避難してしまった後で、もうそこにはいない。穴に落ちたとき負傷した足を引き摺りながら、お姉ちゃんは新宿の地下を目指して歩いていた。そのとき、同じように避難している人と出会って、その人たちに手伝ってもらいながら、やっと新宿の地下に避難できた」
「うん、そう思う」
ゆみは、森雪の想像に頷いていた。
「それで、地下のシェルターの中で避難していた。やがて、ヤマトが地球に帰ってきて、地上の放射能がきれいになって、人々は、また地下シェルターから地上に上がってきた。そして地上で暮らすようになった」
「うんうん」
「だから、ゆみちゃんのお姉ちゃんも、きっと地球上のどこか地上で暮らしているんじゃないかな?」
「どうやったら会える?」
ゆみは、森雪に聞いた。聞かれた森雪のほうも返事に困っていた。
「地球に戻ったら、一生懸命お姉ちゃんのことを探すしかないわね」
「そうか」
ゆみは、寂しそうにつぶやいた。
「きっと見つけられる・・役所とか探偵とかいろいろ見つけ出す方法はあると思うから」
森雪が、ゆみに言った。
「でも、あたし貧民だから、貧民街から外に出させてもらえない」
「そうだね」
森雪は、ゆみに言った。
「今、どうしたら良いのか聞かれても、私にもどう返事していいかわからないけど、こうして、私とゆみちゃんは出会ったのだもの。地球に戻ったら、私もなんとかして、ゆみちゃんのお姉ちゃんに会える方法を考えてみるよ」
森雪は、そっとゆみの頭を撫でていた。
氷の惑星につづく