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「お家に帰ってきたね」
ゆみは、懐かしそうにお母さんに言った。
「久しぶりのお家ね」
お母さんも、懐かしそうだった。
「え、どこに行くの?」
せっかく、お家のすぐ側まで帰ってきたというのに、車を運転しているお父さんは、家の前を通り過ぎて、そのまま大通りを東松原駅の方に走っていた。
「どこかで夕食を食べてから帰ろう。これから家に帰っても、お母さんたちだって夕食の料理するの大変だろう」
お父さんは、東松原駅前の商店街にある馴染みの定食屋さんの駐車場に車を入れた。夏休み、お盆休み中とはいえ、観光地とはかなり無縁の東松原の商店街は、駐車場も人もガラガラだった。
「さあ、何を食べようか」
お父さんが馴染みの定食屋の扉を開いて、皆を中に入れる。お店の中も空いていた。
「いらしゃい!」
店長が厨房から出てきて、お父さんに声をかける。
「きょうは家族と夕食を食べに来た。そっちのテーブルいいかな?」
「どうぞ、どうぞ。祥ちゃんも久しぶり」
店長は、お父さんと祥恵に声をかけた。定食屋といっても、居酒屋と定食屋をかけ合わせたような定食屋で、お父さんは、たまに自分のデンタルクリニックを閉めた後に、1人で立ち寄り、飲むこともあるお店だった。
「おじさん、久しぶりです」
祥恵も、小さい頃からこのお店には出入りしているので、店長とも顔馴染みだった。ゆみが小さい頃は身体が弱く、よくお母さんと病院に入院する日も多かったので、そんな日の夕食とかは、祥恵はお父さんとこの定食屋に食べに来ていた。
「何にしますか?」
「俺は、A定食で・・あとは」
お父さんは、ここに来るといつも注文する料理をいつものように注文する。
「私は、エビフライ定食がいい」
「ゆみは、お母さんとハンバーグ定食を半分こしようか」
お母さんに言われ、ゆみは黙って頷いた。
「ゆみちゃんは、最近は身体の調子はどう?悪くしていない?何か食べれないものとかなかったっけ?」
お店の店長も、ゆみが生まれつき身体が弱いことは知っているのだ。
「最近は、だいぶ身体の調子も良くなってきたみたいで・・」
お母さんが、ゆみの代わりにお店の主人に答える。
「食べれないものは、おかげさまで、ゆみは特に無いのよね。好き嫌いも特に無いし。ただ、食べる量が一度にあんまり多くは食べられないだけよね」
「そうか、それは良かった。好き嫌いなく、なんでも食べられるっていうのが大事よ。なんでもちゃんと食べていれば、そのうち身体だって丈夫になるさ」
お店の主人は、大きな声で笑いながら店の奥に行ってしまった。
「はい、お待ちどおさま」
しばらくすると、出来上がった料理を持って、また店の主人がやって来た。皆の分をテーブルに配る。お母さんと半分こするゆみには、ちゃんと取り分けられるように、小皿を一緒に持ってきてくれていた。
「お盆休みだったけど、先生はヨットに乗ってきたの?」
「ええ、皆で」
お父さんは、店の主人に答える。店の主人も、お父さんが横浜にヨットを持っていて、休みになるといつも乗りに行くことを知っている。お父さんは、近所で歯医者をやっているので、店の主人には、いつも先生と呼ばれていた。
「えっ、皆で?ああ、家族皆で乗ってきたの!それはいいね」
店の主人は、お父さんに言った。
「うちも今週末からはお盆休みを取って、家族と北海道の実家まで行ってきますよ」
「ああ、それはいいね」
お父さんは、仲の良い店の主人と話している。
「うちは、今までお休みだったから、明日からは平常通りに病院のほう営業ですよ」
「うちは飲食店だから、皆と休みがどうしてもずれる・・」
「そうだね」
お父さんは答えた。
「休みがずれた方が、道路も、電車もなんでも混まなくていいじゃないですか」
「確かに、それはありますね」
お母さんに、お店の主人は答えていた。
「それじゃ、ごゆっくり」
店の主人が奥に引っ込む。お母さんは、ゆみのためにおかずを小皿に取り分けてくれた。
「いただきます」
ゆみは、お母さんの取り分けてくれたおかずを量を少しずつ食べていた。
「ゆみは、ピーマンも、えんどうも、オクラとかも何でも食べれるか?」
「うん」
ゆみは、ごはんを食べながら、お父さんに頷いた。
「うん、それは良い!なんでも好き嫌いなく食べるのが一番だ」
お父さんは、さっき店の主人が話していたのと同じことを言って、1人頷いていた。
尾瀬旅行につづく