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弁当仲間
「ああ、なんであんなところに栗原淳子がいたんだ」
良明は、中等部校舎1階の窓から表に出た後で、つぶやいた。窓から外に出ると、そこには、たくさんの今は使われていない学校の机と椅子が積み重ねられていた。その積み重なった机の上のところに良明は、ちょうど出たのだった。
「ここ、もしかしてちょうど良いな」
良明は、机が積み重ねられた場所を見て思った。
「この椅子とかをうまく動かして・・」
良明は、そこに置かれた椅子や机をうまく組み合わせて、表から中が見えない空間を作った。
「ここの中でお昼ごはん食べられるじゃないか」
良明は、その机と椅子の空間の中に潜り込んで、そこにしゃがみ込むと、肩からかけたバッグの中からお弁当を取りだして、食べ始めた。
「おい、グランド行って野球しようぜ」
ちょうど2階の7年生の教室の窓が開いていて、7年生の生徒たちが昼休みにおしゃべりしている声がまる聞こえだ。向こうにいる7年生たちに自分のお弁当を食べている音が聞こえないようにと、静かにゆっくりお弁当のおかずを噛みしめながら食べている良明だった。
「あ、このごぼう美味い」
良明は、お母さんが作ってくれたごぼうのおかずを食べながら、思わず涙ぐんでいた。
「なんで、こんなところでお昼のお弁当を食べなくてはならないんだろう?ああ、ここがニューヨークの学校だったらな・・」
良明は、机の陰の空間でお弁当を食べながら、去年まで暮らしていた「ニューヨーク物語」での暮らし、学校生活のことを思い出していた。
あのとき、良明はPS24というニューヨークのリバーデールに在った公立の小学校に通っていた。リバーデールには、良明以外にも、日本人で父親の仕事の関係で転勤で引っ越してきて暮らしている日本人家族がたくさんいた。
なのに、なぜか俺は、日本人の学生がたくさんいるクラスには配属されず、日本人はたった1人しかいないクラス、あと他の学生は皆アメリカ人ばかりというクラスに配属になったのだった。しかも、そのたった1人の日本人という女の子が、アメリカで生まれてからずっと日本には行ったこともないという日本語もよく読めない、書けない、話せない日本人の子だった。その女の子が、俺と同級生、同じクラスだというのに、飛び級で進級していて実年齢は、俺の3人いる妹のうち一番上の妹と同い年だという。
「ゆみちゃん・・」
それが、ニューヨークにいた頃に、同じクラスだった日本人の女の子だった。彼女は、生まれてすぐにニュージャージーの町であった交通事故で両親を亡くしていて、以来、ずっと18歳上の兄に育てられていたのだ。その兄、隆さんというのだが、彼もとっても良い方で、よく俺とゆみのことをボウリング場やら野球場やらに連れて行ってくれていた。
「良明君、お昼だよ」
「・・・」
「良明君のお母さんが作ってくれたんでしょう?お弁当を食べよう」
ゆみは、俺のバッグパックの中から勝手にお弁当を取り出して、お弁当を机の上に広げると、俺に食べさせてくれていた。
良明は、あの頃のニューヨークでのゆみに食べさせてもらっていた日のことを思い出しながら、自分で自分の口にお弁当のおかずを箸で運びながら食べていた。
「なんで、ニューヨークからここに帰ってきてしまったのだろう」
商社に勤める父親のニューヨーク勤務が終わり、日本に帰国することになったのだから、家族である良明たち一家も一緒に帰国したのだったが。
「そういうことではないのだ。ニューヨーク懐かしいな・・」
良明は、ニューヨークでの暮らしを思い出しながら、懐かしくて涙ぐんでいた。あの頃、ニューヨークに住んでいた頃は、何とも思っていなかったゆみのことも、まさかこうして帰国して別れることになってしまうとは思ってもいなかった。
「失って、初めてわかるってこういうことなのかな・・」
良明は、ちょっと大人ぶった考え事をしていた。
良明は、ニューヨークであった思い出を思い返しながら、お弁当を口に運んでいると、いつの間にかお弁当箱の中は空っぽになって、お弁当を食べ終わっていた。
「ごちそうさま・・」
良明は、お弁当を作ってくれたお母さんに感謝しつつ、お弁当箱の蓋を閉めて、自分のバッグの中に仕舞った。
「食べ終わったんだ?美味しかったか?」
お弁当を食べ終わった良明は、突然声をかけられて驚いた。
「なんで泣きながら、食べていたの?」
それは栗原淳子だった。
「あ・・、いや・・」
良明は、返事に困っていた。
「なんか、良いじゃん。秘密基地みたいで」
そう言うと、栗原淳子は狭い机と椅子で囲まれた空間に自分も入ってきた。
「今は、ここがお昼の食堂なんだ」
栗原淳子は、机と椅子の狭い空間の中で、ピタッと良明の横にくっついて膝を抱えてしゃがみ込んでいた。
「あの・・」
良明は、隣りに栗原淳子が入ってきたため、身動きも出来ずに狭い空間の中に縮こまっていた。
「あ、ごめんね。もしかしてパンツ見えた?スカート履いているものだからさ。今度からズボンを履いてくるよ」
膝を立ててしゃがんでいたので履いているスカートの裾がめくれあがって白いパンツが見えていたのを隠して、スカートの裾を伸ばしながら、栗原淳子は答えた。
「いや、別に・・」
良明は、栗原淳子のパンツなど気にしてもいなかった。
「あの・・」
「うん?」
栗原淳子は、良明のほうをチラッと見た。
「そうだ!明日から私もお弁当ここに持ってくるよ。ここで一緒に食べよう!」
「はあ・・」
良明は、この人本気かって顔で淳子のことを見つめてしまっていた。
が、栗原淳子の方は、本当に明日から昼休みになると、1組の良明のところに迎えに行って、一緒に中等部校舎裏の机と椅子が積み重なった秘密基地にやって来て、そこでお弁当を食べるようになっていた。
もちろん、その日から栗原淳子は学校にはスカートを履いてこなくなって、いつもデニムで登校するようになっていた。明星学園は、制服が無く、服装は自由な私服だったから、栗原淳子も、4組のゆみも女子でもスカートで無くズボンで通うことができた。
ソーラン節につづく