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まっかな嘘
「しかし、ゆみさんは何を思いついたんだろう?」
太助は、食堂の椅子に腰掛けて、さっき200年後の地球で見てきたロダンの考える人と同じポーズを取りながら、食堂を出て行ったゆみのことを考えていた。
「うまいっすね、これ」
子どもたちは、太助の持ってきた料理を口いっぱいに頬張って食べていた。
「あ!これって、なんか違うって思っていたけど、そうか腕が違ったんだ・・」
太助は、突然考えていたポーズから閃いたように、椅子から立ち上がった。
「大変だ、これは!皆に知らせなくちゃ・・まずは、ゆみちゃんに知らせてみよう」
太助も、ゆみの後を追って、食堂を出て行った。
「ゆみちゃん!ゆみちゃーん!」
太助は、多分ゆみは、佐渡先生のいる医務室に行ったのだろうと思って、医務室まで走っていった。
「ゆみちゃん、俺、大変なことを発見してしまったんですよ」
太助は、森雪や佐渡先生と一緒に医務室の中にいたゆみに声をかけた。
「俺、200年後の地球でロダンの考える人の彫刻を見てきたんですけど、その彫刻って、こんな風にポーズを取っていたんです」
太助は、ゆみの前で考える人のポーズを取りながら、言った。
「なんか変だなって思っていたんです。それで気づいたのですが、本当のロダンの考える人は、こっちの手を顎にかけて考えているんです!つまり・・」
太助は、ポーズを取っていた腕の位置を左右逆にして見せながら答えた。
「あんたも、やっと気づいたんだ」
ゆみは、興奮している太助に冷静に答えた。
「これは、お前さんがあの星から持ってきたものかね?」
佐渡先生が、何かの機械にかけられているベネチアングラスを指さして、太助に聞いた。
「ええ、そうですけど」
「このベネチアングラスには、君の指紋以外は一切、だれの指紋も付いていないんじゃが、200年後の地球人は、これをどうやって君の前に持参してきたのかね?」
「え、普通にお盆にのっけって持ってきて、それぞれ皆に手渡してくれました」
「そのときに相手の指紋がグラスに付かないとは考えづらい・・」
佐渡先生は、太助に言った。
「ってことは・・」
太助は、佐渡先生に聞き返した。
「ってことはじゃな、あの星が200年後の地球っていうのは真っ赤な嘘、デタラメということになるんじゃろうな」
「あの星の人には指紋が無いと?」
「ああ、指紋がない。つまり、われわれ地球人とは別の星の人ということじゃな」
佐渡先生が太助に答えた。
「そもそも、あの暗黒星雲の人たちって指紋どころか腕も、手も、身体も無いものね」
ゆみが、佐渡先生の言葉に追加した。
「え、腕や身体も無いって?」
太助は、ゆみに聞き返した。太助は、あの星に降りて、あそこにいた女性や地球総司令官にも直に会っている。そのとき、女性にも司令官にも身体も腕もあったはずだが。
「腕も、身体も、足だって無い。頭だけの化け物よ。だから、頭に義足や義手、義身体?っていうのかしら、にせの身体を取り付けて動き回っている」
ゆみが答えた。
「そのことを、ゆみちゃんはいつ気づいたの?」
森雪が、ゆみに聞いた。
「あいつらが地球で港にタコの乗り物で攻めてきたでしょう。あのときに、あいつらのタコの乗り物を乗っ取ったときに気づいた。頭以外の身体は皆、作り物なのだもん。だから、乗っ取ったときも、頭だけ蹴っ飛ばして、地上に落っことしてしまえば、あいつらってもう何も抵抗できないの」
ゆみは、港で竜たちとタコ型宇宙人と戦ったときのことを思い出しながら言った。
「そうか、ゆみちゃんは、もうその頃から気づいていたのか」
森雪は、ゆみの頭を撫でながら答えた。
「ともかく。このことを第二艦橋にいる艦長たちに伝えなくては」
佐渡先生は、そう言うと無線で第二艦橋を呼び出して伝えた。
「お姉ちゃんも、もうあの星から戻ってきているの?第二艦橋にいるの?」
ゆみは、佐渡先生の無線を聞きながら、森雪に聞いた。
「うん。戻ってきているわ」
森雪は、ゆみの頭を優しく撫でながら答えた。
「まだ、あの星から戻ってきていないのは、澪さんだけ」
森雪は答えた。
「澪さん?って、サーシャのこと?サーシャって、まだあの星から戻ってきていないの?」
「サーシャ?」
「うん、サーシャは戻ってきていないの?」
「え?ええ。澪さんは戻ってきていない。っていうか、ゆみちゃんは澪さんのことをサーシャって呼んでいるの?」
「うん。だってサーシャはサーシャだもの。スターシャさんと艦長さんの娘さんだし」
ゆみは、森雪に言った。
「そうなの?」
「そうなの!イスカンダル人のママの血を継いでいるから1年間で大人になちゃったサーシャのことを皆がびっくりするといけないからって、真田さんの姪ってことにしているだけなの」
森雪は、ゆみからサーシャの秘密を聞いて、ちょっと驚いていた。え、澪さんがサーシャならば、サーシャって真田さんの姪なんかじゃなくて、私の姪じゃない。森雪は、そう思っていた。
「ね、サーシャのことを迎えにいかなきゃ」
ゆみが、森雪に言った。
「ええ、そうね」
ゆみからサーシャの秘密を聞いて、自分の姪であることを知った森雪も、それだったら余計にあの星に残してきたくない。迎えに行かなきゃという気になってしまっていた。もちろん、ヤマト乗組員たちは、自分も含めて皆、地球を守るためなら戦いの犠牲になる覚悟は出来ている。だが、サーシャはヤマト乗組員ではないのだ。彼女の父の古代守は、ヤマト艦長であるからヤマト乗組員かもしれない。けれども、奥さんのスターシャさんも、サーシャさんも艦長の家族ってだけで、ヤマト乗組員ではない。
いわば、今回ゆみやゆみの両親、竜、あゆみたち子どもたちと同じで戦いの中で仕方なくヤマトに乗っているだけの一般人、民間人なのだ。
サーシャのことは、ぜったいにあの星に迎えに行かなければならない、そう森雪は決意していた。
さよなら、地球につづく