今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

卒業式

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「なんでだよ!なんで、あいつが来るんだよ!」

卒業式の朝、坂本はご機嫌斜めだった。

卒業式が体育館で始まる前に、クラスルームで担任が最後のホームルームの授業を行っていた。その席で、担任の口から、ゆみがヤマトのテストセーリングにだけ参加するということが報告されたのだった。

「ゆみさんは、コスモタイガーの操縦に関しては、MVPだし、とても上手だから、この機会に皆も、ゆみさんからコスモタイガーの操縦方法を勉強するといいぞ」

担任は、ゆみがテストセーリングに参加する話を伝えた後で、クラスの皆にそう言ったのだった。

「ちぇ、なんで俺が、あのブスから習わなければならないんだよ」

「全くですよね。俺も、例えブスがテストセーリングで一緒でも、ブスからだけはコスモタイガーの操縦法は習いたくないね」

クラスの生徒たちは、口々に話していた。

「ゆみちゃん、テストセーリングは一緒に行けるんですね」

クラスの中で、ゆみが参加することを一人喜んでいたのは太助だった。

「ヤマトでは、ゆみさんの部屋どこになるんですかね?」

太助は、ゆみに言った。

「どこにも泊まる部屋が無かったら、俺と一緒の部屋になりますか?あ、男女だし、そんなわけには行かないか」

ゆみは、特に何も太助の言葉に返事もしていないのに、太助一人だけで嬉しそうにはしゃいでいた。

「一緒の部屋は無理かもしれないけど、お互いの部屋が決まったら、俺の部屋にも遊びに来て下さいね。俺も、もちろんゆみさんの部屋に遊びに行きますから」

太助は、ゆみに言った。本当に、太助の中では宇宙戦艦ヤマトのテストセーリングが訓練学校の修学旅行気分になっていた。

「ほら、体育館行くよ」

ゆみは、太助の言葉は無視して言った。

 

体育館には、既に人がいっぱい集まっていた。卒業式の会場を見にやって来た人たちなのだ。会場の隅に、派手なきれいな振り袖を着たお蝶婦人の姿があった。彼女と一緒にいるのは、彼女のお母さんなのだろう。娘の晴れ姿を嬉しそうに眺めていた。

お蝶婦人以外にも、両親が一緒に来ている卒業生は多かった。どのお父さんも、お母さんも息子、娘たちの晴れ姿に嬉しそうに笑顔だった。

「お母さんも連れてきたかったな」

ゆみは、心の中で思っていた。

「ゆみさん!ゆみさん!」

会場に来てから、どこかに行っていて姿が見えないなと思っていた太助に、大声で呼ばれた。

「これ、僕のお父さんとお母さん」

太助は、自分の横にいる両親のことを、ゆみに紹介した。ゆみは、無愛想に太助の両親たちのほうには顔を向けず、会場の一番端の席に腰掛けた。

「あの子が、あんたの言っていたゆみちゃんって子なの」

「うん、そうだよ」

「なんか汚らしい子だな」

ゆみの薄汚れた服を見て、太助のお父さんが言った。

「でも、心はとってもきれいな子だから。それに前髪を下ろして、顔も泥だらけにしているけど、ゆみちゃんって本当はとってもきれいな子だから。すごい美人なんだぜ」

太助は、お父さんに言った。

「なんで、そんな美人があんな格好、顔だって隠したりしているんだ?」

「それは・・」

お父さんに聞かれて、太助も返事に困っていた。

「きっと、なんか訳ありなのよね。でも、とってもきれいな子なんでしょう?」

「ああ。美人さ!俺、お昼の食堂で、彼女の頬についていたごはんを取ってあげたことあるんだけど、そのときに頬に付いていた泥がはがれて、彼女の顔って、本当はなんて綺麗な子なんだって思ったもの」

「今度、彼女のことを家に連れていらしゃい」

太助のお母さんは、太助に言った。

「ああ」

「そうしたら、あんたの選んだ彼女のことをちゃんと見てあげるから」

太助のお母さんは言った。

「わかった!」

太助は、お母さんに返事すると、

「それじゃ、俺たち卒業生は前の席だから。母さんたちは後ろの父兄席にでも座っていて」

そう言って、太助は前の席の端、ゆみが座っている横に腰掛けた。

「なんで、ここ?」

ゆみは、隣りに座った太助のことをうるさそうに睨んだ。

「良いじゃん。ほら、坂本とかお蝶婦人に隣りに座られるよりも良いでしょう」

太助は、ゆみに言った。

卒業式が始まり、学長先生の挨拶が終わって、卒業生それぞれに卒業証書の授与となった。今年度の最優秀MVPは、ゆみだった。一番最初に呼ばれたゆみは、壇上に上がって、学長から卒業証書を渡された。

「ちぇ、チクショー。なんであいつが・・」

それが、また卒業生の席にいた坂本たちの怒りを買うこととなった。

はじめてのヤマトにつづく

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