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卒業式
「なんでだよ!なんで、あいつが来るんだよ!」
卒業式の朝、坂本はご機嫌斜めだった。
卒業式が体育館で始まる前に、クラスルームで担任が最後のホームルームの授業を行っていた。その席で、担任の口から、ゆみがヤマトのテストセーリングにだけ参加するということが報告されたのだった。
「ゆみさんは、コスモタイガーの操縦に関しては、MVPだし、とても上手だから、この機会に皆も、ゆみさんからコスモタイガーの操縦方法を勉強するといいぞ」
担任は、ゆみがテストセーリングに参加する話を伝えた後で、クラスの皆にそう言ったのだった。
「ちぇ、なんで俺が、あのブスから習わなければならないんだよ」
「全くですよね。俺も、例えブスがテストセーリングで一緒でも、ブスからだけはコスモタイガーの操縦法は習いたくないね」
クラスの生徒たちは、口々に話していた。
「ゆみちゃん、テストセーリングは一緒に行けるんですね」
クラスの中で、ゆみが参加することを一人喜んでいたのは太助だった。
「ヤマトでは、ゆみさんの部屋どこになるんですかね?」
太助は、ゆみに言った。
「どこにも泊まる部屋が無かったら、俺と一緒の部屋になりますか?あ、男女だし、そんなわけには行かないか」
ゆみは、特に何も太助の言葉に返事もしていないのに、太助一人だけで嬉しそうにはしゃいでいた。
「一緒の部屋は無理かもしれないけど、お互いの部屋が決まったら、俺の部屋にも遊びに来て下さいね。俺も、もちろんゆみさんの部屋に遊びに行きますから」
太助は、ゆみに言った。本当に、太助の中では宇宙戦艦ヤマトのテストセーリングが訓練学校の修学旅行気分になっていた。
「ほら、体育館行くよ」
ゆみは、太助の言葉は無視して言った。
体育館には、既に人がいっぱい集まっていた。卒業式の会場を見にやって来た人たちなのだ。会場の隅に、派手なきれいな振り袖を着たお蝶婦人の姿があった。彼女と一緒にいるのは、彼女のお母さんなのだろう。娘の晴れ姿を嬉しそうに眺めていた。
お蝶婦人以外にも、両親が一緒に来ている卒業生は多かった。どのお父さんも、お母さんも息子、娘たちの晴れ姿に嬉しそうに笑顔だった。
「お母さんも連れてきたかったな」
ゆみは、心の中で思っていた。
「ゆみさん!ゆみさん!」
会場に来てから、どこかに行っていて姿が見えないなと思っていた太助に、大声で呼ばれた。
「これ、僕のお父さんとお母さん」
太助は、自分の横にいる両親のことを、ゆみに紹介した。ゆみは、無愛想に太助の両親たちのほうには顔を向けず、会場の一番端の席に腰掛けた。
「あの子が、あんたの言っていたゆみちゃんって子なの」
「うん、そうだよ」
「なんか汚らしい子だな」
ゆみの薄汚れた服を見て、太助のお父さんが言った。
「でも、心はとってもきれいな子だから。それに前髪を下ろして、顔も泥だらけにしているけど、ゆみちゃんって本当はとってもきれいな子だから。すごい美人なんだぜ」
太助は、お父さんに言った。
「なんで、そんな美人があんな格好、顔だって隠したりしているんだ?」
「それは・・」
お父さんに聞かれて、太助も返事に困っていた。
「きっと、なんか訳ありなのよね。でも、とってもきれいな子なんでしょう?」
「ああ。美人さ!俺、お昼の食堂で、彼女の頬についていたごはんを取ってあげたことあるんだけど、そのときに頬に付いていた泥がはがれて、彼女の顔って、本当はなんて綺麗な子なんだって思ったもの」
「今度、彼女のことを家に連れていらしゃい」
太助のお母さんは、太助に言った。
「ああ」
「そうしたら、あんたの選んだ彼女のことをちゃんと見てあげるから」
太助のお母さんは言った。
「わかった!」
太助は、お母さんに返事すると、
「それじゃ、俺たち卒業生は前の席だから。母さんたちは後ろの父兄席にでも座っていて」
そう言って、太助は前の席の端、ゆみが座っている横に腰掛けた。
「なんで、ここ?」
ゆみは、隣りに座った太助のことをうるさそうに睨んだ。
「良いじゃん。ほら、坂本とかお蝶婦人に隣りに座られるよりも良いでしょう」
太助は、ゆみに言った。
卒業式が始まり、学長先生の挨拶が終わって、卒業生それぞれに卒業証書の授与となった。今年度の最優秀MVPは、ゆみだった。一番最初に呼ばれたゆみは、壇上に上がって、学長から卒業証書を渡された。
「ちぇ、チクショー。なんであいつが・・」
それが、また卒業生の席にいた坂本たちの怒りを買うこととなった。
はじめてのヤマトにつづく