今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

謎の動物病院

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「ここって何なのだろう?」

ゆみは、ある建物の前で首を傾げていた。

ゆみたちの閉じ込められている貧民街というのは、街の周りを全て高い塀と金網で囲まれていた。貧民街の入り口に当たるゲートのところにだけ、出入り口として金網も塀も無かった。その代わりにゲートの両側には守衛が常駐する小屋があって、そこを出入りする人や貧民が表に出て行かないように監視していた。

そのほかの場所には、高い塀か金網でしっかり囲まれているのだが、今ゆみが目の前にしている建物だけは、高い塀も金網もなく、貧民街に隣接していた。建物には、ドアが付いていて、入る気になれば貧民街側からも、貧民がその建物に入れないこともなかった。

建物の入り口には、佐渡アニマルクリニックと書かれた看板が設置されていた。

「ここは動物病院なのかな?」

不思議に思ったゆみは、そっと建物のドアを押して、中に入ってみた。

「ごめんください」

ゆみは、鍵のかかっていないドアを開けると、建物の中に入ってみた。

「誰もいない・・」

部屋の中央には、患者の動物を乗せて、診察してもらえるような台があった。やっぱり、ここは動物病院のようだった。ゆみがドアを開けて入ったところは診察室のようだった。その診察室の奥に2階に上がるための階段があった。

「おじゃまします」

ゆみは、そっとその階段を上がって、2階に行ってみた。

「ここにも誰もいない・・」

2階は、ここの動物病院のお医者さんの居住スペースになっているみたいだった。2階の部屋には、小さなキッチンとバスルームがあって、窓際にはベッドが置かれていた。ベッドの手前には食事をするダイニングテーブルが置いてあり、テーブルの端にはパソコンが1台置かれていた。

多分、ここの動物病院のお医者さん先生は、この2階で暮らしていて、仕事で診察するときだけ1階の診察室に降りて、動物たちの診察をしていたのだろう。

しかし、2階にも、もう何ヶ月も人が住んでいる様子はなかった。もしかしたら、この動物病院は、昔は営業していたのかもしれないが、今はつぶれてしまって長いこと営業をしていない病院のようだった。

「もしかしたら、貧民街がここに出来たせいで、患者さんが来なくなってしまって、つぶれた動物病院なのかもしれない」

ゆみは、勝手に、この動物病院のことを想像していた。

2階にいても仕方ないので、ゆみは、階段を降りると1階の診察室に戻った。

「もし、まだ営業していたら、あそこのガラス張りのケージの中には、可愛いワンちゃんやニャンちゃんが入っていたんだろうな」

ゆみは、診察室のはじにあった動物たちを入れておくガラス張りのケージの前に立った。ゆみは、ガラス張りのケージの中を覗きこんだ。ガラス張りのケージの中には、中にいたはずの子犬が遊んでいたのだろうかゴムのボールが転がっていた。他にも、中にいただろう動物用のペットシーツやおもちゃが置かれていた。

「ここのケージの中には、どんな動物がいたんだろうな」

ゆみは、ケージの中を覗き込んだ。

と、ケージの向こう側からも、ゆみのことを見つめてくる視線があった。

「え、うそ」

ケージの中には、子猫の姿があった。

「まだ、この病院に猫が残っている」

ゆみは、ケージの中の猫の姿を見ながら、つぶやいた。そのまま、隣りのケージの中も覗き込んでみる。そっちには、犬の姿があった。

「え、この病院ってつぶれたばかりなのかな。まだ患者さんの犬や猫たちが残されてしまっているのかもしれない」

ケージの中に動物たちの姿を確認したゆみは思った。

「この子たちってお腹空かしているのでは?」

ゆみは、診察室の端にあった冷蔵庫や戸棚の中を確認して、ドッグフードやキャットフードが置いてあるところを見つけた。その食事をお皿に出すと、ケージの中の動物たちに与えた。

よっぽどお腹を空かせていたのだろう。ケージの中の動物たちは、ゆみの与えた食事をあっという間に食べてしまっていた。

「お腹空いていたのね。よかったね、ごはんが食べられて」

ゆみは、ケージの中の食事をし始めた動物たちに話しかけた。

「あたしが明日もごはん上げにきてあげるね」

ゆみは、ケージの動物たちと約束をした。

動物の先生につづく

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