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パパはご機嫌ななめ

「ただいま!」

ゆみは、入学式からお家に戻ってきて、玄関の扉を開けながら言った。

「お帰り」

病院の受付の窓口から顔を出して答えてくれたのは、陽子さんだった。

「きょうは、ゆみちゃんは入学式だったんでしょう?」

陽子さんは、帰ってきたゆみに聞いた。

「うん、お母さんの車で学校に行って、車で学校から帰ってきたの」

ゆみは、病院の受付のお部屋の中に入りながら、陽子さんに返事した。陽子さんは、お父さんの病院で働いている歯科衛生士さんだった。

「ただいま、疲れたわ」

お母さんも、受付の部屋に入ってきた。

「お疲れさま、どうでしたか、ゆみちゃんの入学式は?」

「なかなか良かったわ。ゆみが中学生になったのかと思うと感動したわ」

お母さんは、着ていたジャケットを脱ぎながら、陽子さんに答えた。

「奥さま、とっても素敵なスーツスカート」

「そう?いつもの一張羅よ。お姉ちゃんの小学校の入学式のときにも着ていった同じやつ」

「なんかスカートの色が素敵です」

陽子さんは、お母さんのうすいグレー色のプリーツスカートを眺めながら言った。

「奥さまは、おめかしされていたのに、ゆみちゃんはおめかししなかったの?」

陽子さんは、ゆみに聞いた。

「そうなのよ、本当は入学式用にちゃんと可愛いスカートを用意しておいたんだけどね。着ていってくれなかったのよ」

「だって、スカート嫌いなんだもん」

ゆみは、小声で答えた。

「どうして、スカート嫌いなの?ゆみちゃん、可愛いからスカート似合うと思うけどな」

陽子さんが、ゆみに言った。

「ほら、私だってスカート履いているよ」

陽子さんは、自分の着ている服を、ゆみのほうに見せた。

「それ、病院の制服じゃん」

ゆみが、陽子さんの着ているお父さんの病院の白衣を見ながら答えた。

「制服だけじゃないよ。ほら、私服もスカート履いているよ」

陽子さんは、受付の奥にある自分のロッカーから自分のデニムスカートを取り出して、ゆみに見せた。

「あ、陽子お姉ちゃん、スカート」

「そうよ」

陽子さんは、自分のデニムのスカートを揺らして見せながら答えた。揺らして見せながらも、陽子さんは、心の中で今日はたまたま家からスカートを履いてきている日で良かったと思った。実は、陽子さんも、ふだんはめったにスカートを履かない。パンツばかりだった。

 

お母さんは、ジャケットだけ脱ぐと、ブラウスの上から白衣を羽織って、診察室のほうに行った。診察室では、ちょうど1人の患者さんの診察が終わったところで、お父さんが伸びをしていた。

「ただいま」

お母さんは、お父さんに言った。

「お帰り。どうだった、入学式は?」

「良かったですよ。きょうは学校は午前中までだったので、ゆみも一緒に帰ってきました」

お母さんは、お父さんに報告した。

「お昼は、これからか?」

「ゆみと、途中でファミレスに寄って食べてきました」

お母さんが答えると、

「なんだよ、2人だけで食べちゃったのかよ。俺なんて、お昼の食事まだしていないんだぞ」

お父さんは、不満そうにお母さんに言った。

「あら、そうなの?食べていなかったのですか?」

お母さんは、お父さんに聞いた。

「それじゃ、何か作りましょうか?」

「もう午後の診察が始まっているから、食べている時間ないよ」

お父さんは、自分だけお昼ごはん無しだったのが不機嫌そうに答えた。

「先生、前の松吉さんに行って、お蕎麦食べてきましたよね」

2人の会話を横で聞いていた歯科衛生士さんが、会話に割って入った。

「奥さま、先生は、ちゃんとお昼にお蕎麦屋さん行って、食べてきたみたいですよ」

「あら、そうなの。うちの先生が何も食べずに、今の、今の時間まで我慢しているはずはないとは思っていたわ」

お母さんは、歯科衛生士さんの方に向きながら、苦笑しながら答えた。

「でも、お昼になっても、お母さん、ちっとも帰ってこないじゃないか。まあ、お母さんだってお腹空かしているだろうから、待っててあげるかとは、俺言っていたよな」

お父さんは、歯科衛生士さんに確認した。

「確かに言っては、いましたけど」

「言ったすぐ後に、遅れて帰ってくるほうが悪いんだから、待っててやる必要もないかって、ちょっと前の蕎麦屋に行ってくるって出かけてましたけどね」

もう1人の歯科衛生士さんがつけ加えた。それを聞いて、お母さんも、歯科衛生士さんも一緒になって笑っていた。

「それより、お前、会計の計算早くやれよ。お前がいない間、ずっと陽子ちゃんがお前の仕事まで代わりにやっていたんだぞ」

お父さんは、お母さんに言った。

「はいはい、わかっていますよ。ちょっと一息ぐらいつかさせてくださいよ」

お母さんは、また受付の部屋に戻っていった。

 

「陽子ちゃん、ごめんね。私の仕事まで代わりにやってもらちゃって」

「いいえ、今日はゆみちゃんの晴れの入学式だったんですし」

陽子さんは、お母さんに答えた。お母さんは、受付の陽子さんの机の隣りに置かれた自分の机で仕事を始めた。

「ゆみちゃんも、陽子お姉ちゃんのじゃまになるから、自分のお部屋に行ってなさい」

お母さんは、陽子さんの机の端で今日もらったばかりの教科書を見ていたゆみに言った。

「大丈夫よね。ゆみちゃん、静かにお勉強してるだけだしね」

陽子さんが、お母さんに言ってくれた。

車椅子のかおりちゃんにつづく

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