ゆみは、竜の後について、手作りブランコがぶら下がっている木の下辺りまで行った。
「おーい、ゆみを連れてきたぞ」
竜は、ほかの子たちに、連れてきたゆみのことを紹介した。
「こんにちは」
子どもたちは、ゆみの周りに集まってきた。ゆみは、チラッと見ただけで黙っていた。
「ゆみ、愛想悪いじゃん。なんか挨拶してやれよ」
竜が、ゆみに言った。
「なんで、あんたさ、あたしのこと呼びつけにしてんのよ」
ゆみは、竜に文句を言った。
「別にいいだろ。ゆみって呼んだって」
「ぜんぜん良くないから。あたしとあんたとは、友だちでもなんでもないし、大体あんたいくつよ?あたしの方が年上でしょう?」
「おまえより一つ上だから」
竜が答えたので、ゆみは、何も言い返せなくなってしまった。
「まあ、でもいいや。じゃ、今度からは、ゆみちゃんって呼ぶようにしてやるからよ」
竜は、ゆみに言った。
「ぜったいやめて!あんたなんかに、ゆみちゃんなんて呼ばれたくもない」
ゆみが、竜に言い返した。
「じゃ、なんて呼べばいいんだよ」
「うーん。ゆみさんとか、今井さん」
「なんだよ、なんで俺とおまえの仲で、そんなゆみさんみたいな他人行儀で呼ばなきゃならないんだよ」
「って言うか、何よ。俺とおまえの仲って。あたしたち、ぜんぜんそんな関係じゃないでしょうが」
ゆみが、竜に言い返した。
「で、彼女を本当に連れて行くのかよ?」
公園にいた子どもたちの中の1人が、竜に聞いた。
「ああ」
竜は、その男の子に頷いた。
ゆみには、竜とその男の子がいったい何の話をしているのかが、よくわからないでいた。
「おまえにさ、この地下シェルターの町の現実を見せてやろうと思ってな」
2人の会話を不思議そうに聞いていたゆみに、竜は答えた。
「別に、あんたに見せてもらわなくても間に合っているから」
ゆみは、竜に言い放った。
「それより、もう約束の5分経っているよね。あたし、帰るからね」
ゆみは、車に戻ろうとしていた。そんなゆみの腕をいきなり掴んで帰さないとばかりに、竜に取り押さえられてしまった。
「放してよ。5分だけ付き合ったら、もう放っておいてくれるって約束だったでしょう」
「そうかよ、逃げるのかよ」
竜は、ゆみの腕を離しながら言った。
「逃げる?」
「ああ、逃げる気だろう。俺たちが、これから一緒に連れて行こうとしているところから」
「なに、それ?」
「とりあえず、ついて来いよ」
竜は、先に立って歩き出した。ほかの子たちも皆、竜の後についていく。男の子も、女の子もいた。竜以外の子たちは皆、ゆみよりも年下の小さな子たちばかりだった。
ゆみは、皆が歩いていく方を見たが、自分はそのまま車の方に歩き出した。
「おーい、逃げるのかよ!ゆみは弱虫だな」
車に向かって戻ろうとしているゆみに、後ろから竜が声をかけてきた。
「別に弱虫じゃないし、逃げてるわけでもない。あんたたちの行くところになんか興味がないだけよ」
ゆみが、竜に言い返すと、
「とか、負け惜しみ言ってますけど・・」
竜が、ほかの子たち皆に話すと、ほかの子たちが、ゆみのことを笑った。それを無視して、ゆみが車に戻ろうとしていると、
「おお、こんな小さい子たちに笑われたまま、負けて帰るのか」
竜が、ゆみに言った。その言葉を聞いて、
「別に逃げてないし、あんたたちに興味もないし、ただ、ちょっと暇だから散歩するだけだから」
そう言って、ゆみは、ほかの子たち皆を追い抜いて、竜たちが歩いていこうとしていた方向に向かって、歩き出した。
そんなゆみの姿を見て、竜は後ろでニヤリとほくそ笑んでいた。
エリートとみなし子につづく