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「ゆみ、何をやっているの?」

祥恵が図書室に入ってきて、ゆみに言った。

「え、図書室にいるだけだよ」

ゆみは、かおりと一緒に図書室の椅子に腰掛けておしゃべりしていた。

「あんたは、今日は図書室で待っているっていうのは知っていたけど」

祥恵は、図書室の中に入ってくると、ゆみに言った。

「かおりちゃんまで連れてきたらだめでしょう。おかげで、かおりちゃんがどっかに行ってしまったって大騒ぎだったんだから」

祥恵の後ろには、佐伯先生も一緒にいた。佐伯先生の横には、かおりちゃんのお母さんも一緒だった。

「一緒に本を読んだり、おしゃべりしていたのよ」

かおりが祥恵に言った。

「お母さん、ゆみちゃんっていうの」

かおりは、自分のお母さんに、ゆみのことを紹介した。

「ゆみちゃん、こんにちは」

かおりのお母さんは、ゆみに挨拶してくれた。

佐伯先生が、いつものように職員会議を終えると、かおりのことを教室に迎えに行き、そこにかおりの姿が無くなっていたので、行方不明だと大騒ぎになっていたらしかった。

そこへ、祥恵も部活から戻ってきて、合流したみたいだった。

「そういえば、ゆみは図書室に行くって言っていた」

祥恵が思い出して、先生たちと図書室に来たら、ゆみと一緒にいるかおりとも遭遇できたということらしかった。

「それじゃ、またね」

かおりは、迎えに来たお母さんの車の助手席に乗ると、そこの窓から手を出して、ゆみに手を振った。

「バイバイ!また明日ね」

ゆみも、走り去っていくかおりの乗る車に向かって手を振った。

「またね!ブータ先生もバイバイ」

かおりは、ゆみの後ろの木の枝に腰掛けているブータ先生にも手を振った。ブータ先生も、木の枝の上から、かおりに手を降っていた。

「ブータ先生?」

祥恵は、かおりの言葉に、ゆみの周りをキョロキョロ見渡して、木の枝の上に置かれたブータ先生のぬいぐるみに気づいた。

「ゆみ、こんなところに、ぬいぐるみ置いておいたら、ぬいぐるみ汚れちゃうでしょう。これ、ゆり子のぬいぐるみなんだから、汚したりしたら怒られるよ」

祥恵は、木の枝からブータ先生を持ち上げると、ゆみに手渡した。

「ありがとう」

ゆみは、祥恵からブータ先生を受け取ると、祥恵の顔を見た。

「お姉ちゃん、ブータ先生が手を振っているところも見えたの?」

「手振っているって何のこと?」

「見えていないのか。なら、大丈夫」

ゆみは、ブータ先生を自分の肩から提げているバッグの中に仕舞いながら言った。

「ほら、ゆみ。あんたも一緒に帰るよ」

ゆみは、祥恵と一緒に佐伯先生にバイバイをすると、家に帰るため、駅までの道を歩き はじめた。

井の頭公園駅まで歩けば、後はそこから井の頭線に乗れば家の近くの東松原駅まで1本で家に帰れる。

「お姉ちゃん、ブータ先生と話したことある?」

ゆみは、帰りの電車の中で、祥恵に譲ってもらった席に座りながら聞いた。

「うん、あるよ」

祥恵は、ゆみに答えると、

「こんにちは。ボク、ブータ先生だよ。君は、ゆみちゃんって言うんだよね」

祥恵は、ゆみのバッグの中から顔を出していたブータ先生のぬいぐるみを取り出すと、ブータ先生をゆみの腕の上で動かしながら言った。

「え、そうじゃなくて・・」

ゆみは、祥恵がブータ先生を使って自分に話しかけてきてくれるのを笑顔で喜びながらも、祥恵に聞いた。

「本当に。ブータ先生とおしゃべりしたことあるかな?」

ゆみは、祥恵の顔を見た。

「って、無いよね。うん、あるわけないよね」

ゆみは、祥恵からの返事を待たずに、自分で自分に言い聞かせながら納得していた。

「やっぱ、ぬいぐるみが話すわけないんだよな」

ゆみは、その日の夜、自分の部屋のタンスの上にブータ先生を置きながらつぶやいた。ブータ先生を置いたタンスの上には、他にもたくさんの動物のぬいぐるみが置かれていた。皆、ゆみが誕生日とかにもらったぬいぐるみだった。

「でも、かおりちゃんも話していたよな」

ゆみは、パジャマに着替え終わっていて、自分のベッドの中に入りながら考えていた。

「何を考えているんじゃ」

「わ!」

ゆみは、ベッドの中で枕元に突然移動してきたブータ先生に話しかけられて驚いていた。

「また、いつの間にこっちに来たの?」

「だって、ゆみだけ暖かいベッドの毛布の中で、おいらは、あの冷たい木のタンスの上に立たされて一晩過ごすなんてずるいだろう」

そう言うと、ブータ先生は、ゆみの隣の毛布の中に潜り込んだ。

「ね、ブータ先生」

ゆみは、眠そうに横になっているブータ先生に声をかけた。

「なんじゃ」

「ブータ先生って、今日かおりちゃんとおしゃべりした?」

「ああ。なかなか純粋で優しく、可愛らしい女性だったな」

ブータ先生は、かおりのことを話した。

「なんで、ブータ先生は、かおりちゃんとはお話したの?」

「ゆみのお友だちだから、悪いやつではないと思ったからだよ」

「ふーん、そうか」

ゆみは、ブータ先生に返事した。

「それじゃ、なんでゆり子お姉ちゃんとは、お話しないの?ゆり子お姉ちゃんも、あたしのお友だちだよ」

「ゆり子君は、ゆみの友だちでは無いだろう。ゆみのお姉さんのお友だちだろう」

「そうだけど、今は、ゆみもゆり子お姉ちゃんと同じクラスだし、ゆみのお友だちでもあるよ」

「いいや、今はまだ友だちではないな。現に、ゆみだって、ゆり子とは呼んでいないではないか。ゆり子お姉ちゃんと呼んでいるだろう」

「それは・・」

ゆみは、ブータ先生に返事できないでいた。

「じゃ、お姉ちゃんは?お姉ちゃんは、ゆみのお姉ちゃんだよ。ゆみのお姉ちゃんなんだから悪いやつのわけないでしょう?」

「まあ、そうだけどな。しかし、ゆみの知り合いだからと、あまり皆に話しかけては、おいらたちのことを知ってしまう人間が増えすぎてしまうだろう」

ブータ先生は答えた。

「増えすぎたら困るんだ・・」

ゆみは、ブータ先生に聞き返すとなくつぶやいた。

「何、まだ起きているの?」

祥恵が部屋に入ってきて、ベッドの中のゆみに聞いた。

「あ、お姉ちゃん。ううん、もう寝るよ」

ゆみは、祥恵に返事した。

「さっき、私が悪いやつじゃないとかなんとか言ってなかった?」

「うん。お姉ちゃんは悪いやつなんかじゃないよ!あたしの世界で一番大好きなお姉ちゃんだもん」

ゆみは、祥恵に言った。

「ありがとう。はいはい、おやすみ。明日も学校あるんだし早く寝なさい」

祥恵は、ゆみにそう言うと、自分は奥の自分の机で勉強をし始めた。

ゆみは、祥恵の勉強する後ろ姿を眺めながら、眠りについた。

ゴールデンウィークにつづく

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