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穢多と非人
「あのぅ、ちょっと宜しいですかね?」
地球政府の大統領に指名されたオセアニア地区担当の大臣は、閣僚会議の席で発言した。
「これは、私オセアニア地区担当が発言することではないかもしれないのですが」
オセアニア地区担当大臣は、そう前置きした。
「アジア地区担当、日本エリア内担当の大臣さんならば、ご存知かとは思うのですが、昔、日本には江戸時代、江戸幕府が統治する長く続いた時代がありました。江戸時代は将軍、幕府を筆頭に、サムライ、町人、商人、農民などが暮らしていたピラミッド型の封建社会でした。この江戸時代なのですが、なぜそんなに長く幕府の統治を続けることができたのか?当時の社会で最末端の階級である農民や町民から幕府に不満の声など上がらなかったのか、内乱や幕府への反旗は起こらなかったのかというと・・」
オセアニア地区担当大臣は、ここまで話してから一息ついた。
「それは穢多と非人という階級があったからです」
大臣は発言した。
「エタヒニン?」
ヨーロッパ方面やアメリカ方面の日本から離れた地域の担当大臣から疑問の発言が出た。
「穢多と非人というのは、本来、江戸幕府のピラミッド型社会で一番最下級に位置していたはずの農民、町民の、そのさらに最下級、末端に存在させた階級のことです」
オセアニア地区担当大臣は、日本のことをあまり知らない地区担当の大臣にもわかるように説明した。
「穢多と非人にされた人々とは、生まれつき身体に障害のある人たち、社会的弱者の人々などを部落と呼ばれる地域の中に閉じ込め、その部落内で暮らしている人々のことを指して呼称していました。幕府が穢多と非人という階級を作ったことで、本来、一番最下級であったはずの農民や町民たちは、自分たちよりももっと貧しい、生活苦の穢多と非人たちの生活を見て、あいつらなんて、俺たちよりももっと苦しい、最低の生活なんだと自分たちに言い聞かせ、幕府への不満を解消させられるようになりました」
「はあ、なるほど。江戸幕府考えたね」
「エタヒニンって制度なかなかいいね」
オセアニア地区担当大臣から江戸時代の穢多と非人制度のことを聞いた大臣たちは、口々につぶやいていた。
「しかし、穢多と非人に選ばれた人々の人権はどうなるんだ?」
イギリス地区担当大臣から疑問の声が上がった。
「しかし、彼ら穢多と非人が部落内に存在してくれているおかげで、もっと大勢の人々の不満を解消してくれることはできる」
ニュージーランド地区担当大臣が、オセアニア地区担当大臣の発言を支持した。
「確かに、それはそうだが」
「当時の日本には、穢多と非人にされてしまった部落生活者はかなりの数いたみたいなのですが、もっと穢多と非人になる人の人数をかなり絞り込み限定して、穢多と非人犠牲者数を各地区で最小限に止めれば良いのではないでしょうか」
日本地域担当の大臣が、オセアニア地区担当大臣のアイデアを少し補足するような形で発言した。
「各地域で、できるだけ穢多と非人に指定する犠牲者の人数を最低限にすれば、復興を最優先させることによって発生する人権問題も許される範囲になるのでは・・」
「では、具体的にどのように穢多と非人を決めていったら良いかですが」
「穢多と非人は、地下シェルターに今も残されている避難民の中から・・」
それから、各大臣たちの閣僚会議での発言は、隣の部屋にも聞こえないように、ひそひそと声が小さくなって、会議はその日の夜更け過ぎまで長く続けられた。
D地区の居住者たちにつづく