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テストセーリング
「佐渡先生、佐渡酒造先生・・」
ゆみは、家に帰る前に、佐渡先生の動物病院に寄ってみた。
「なんじゃ?こんな夜遅くに。もう診察時間は終わったぞ」
佐渡先生が、動物病院の中から出てきた。
「先生」
「おお、ゆみちゃんか、どうした?」
佐渡先生は、ゆみの顔を見ると、笑顔になっていた。その顔は、お酒が入っているらしく少し赤くなっていた。
「そういえば、お前さんは、さっき英雄の丘におらんかったか?」
「あっ」
やっぱり、佐渡先生には、あの丘の上の銅像にいたのが、ゆみだとばれてしまっていたようだった。
「あれはね、太助っていうドジな男の子が、うちのクラスにいるのよ。そいつがね、もう明日で卒業だからとかって、あたしとどうしても英雄の丘に行きたいって言うから」
「ゆみちゃんは、学校じゃ男の子にモテるんじゃな」
「え?モテてないよ。あたし、この身なりだし、髪も出来るだけ顔がわからないように下ろしているから、皆に貞子とかブスって呼ばれてるぐらい」
ゆみは、佐渡先生に返事した。
「でも、なぜか、あの太助って子にだけは好かれちゃっているみたいで・・あたしも困ってるんだ。いつもは、どこかに行こうって誘われても断っているんだけど。今日は、もう明日で卒業式じゃない。最後ぐらいは、一緒にどっか行ってあげようかなって思って」
「まあ、良いんじゃないか。君が貧民だということさえ、クラスの子にばれさえしなければ」
佐渡先生は、笑顔で言った。
「それは、ともかくちょうど良かった。これから、ゆみちゃんの家に行こうと思っていたところだったんだ。まあ、2階に上がりなさい」
佐渡先生は、ゆみのことを2階に招き入れた。
「あたしもさ、佐渡先生にお願いがあって来たの」
ゆみは、2階に上がる階段を、佐渡先生と並んで上がりながら、話した。
「なんじゃ」
「明日の卒業式の後、大学の入学式までの間、春休みというかしばらく期間が空くじゃない。だから、その間にクラスの子たちと一緒に、ヤマトのテストセーリングに乗ってきたらダメかな?」
「ああ、良いんじゃないか」
ゆみは、こんなことを聞いたら、きっと佐渡先生は大反対するじゃないかと思っていたのだった。それが、普通に賛成されてしまったので、ちょっと拍子抜けしていた。
「明日は卒業式。2年間頑張ったものな。さしづめヤマトのテストセーリングは、2年間一緒だったクラスの子たちと修学旅行ってところだな」
佐渡先生は、全く反対することなく、ゆみのテストセーリング行きを認めてくれてしまっていた。
本当は、ゆみは反対されたときのために、冥王星の悲劇の話と、その被害者に自分の姉が会ってしまっていることもうまく説明して、佐渡先生から承諾をもらわなければならないと思っていたのだった。
が、意外にあっさりとテストセーリング行きが決まってしまった。冥王星の悲劇と自分のお姉ちゃんのことをどう佐渡先生に説明しようか迷っていたところもあったので、説明しなくて良くなった分、ちょっとラッキーとも思えていた。
「2階に、お客さんがみえているんだよ」
佐渡先生は、ゆみに言った。
「え?それじゃ、あたしはお暇します」
ゆみが、反転して、いま上がってきた階段を降りようとすると、
「まあ、待て。ゆみちゃんも、つい最近会った人だから、ぜんぜん構わないよ」
そう言って、佐渡先生は、ゆみのことを2階の部屋に連れてきた。
2階のリビングルームには、男性2名と女性1名がいた。男性の1人は古代進、もう1人は島大介、女性の方は森雪と呼ばれていた人だった。佐渡先生の言うつい最近って、英雄の丘でのことのようだった。
エリートにつづく