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イカルスへ
「さて、どうしようか?」
祥恵は、大統領官邸の建物の壁面に、森雪と共に身を潜めながら考えていた。
大統領専用機は、もう本当にすぐ目の前に停まっていた。省庁の建物を出てから、宇宙人たちの攻撃を交わしながら、どうにかこうにかここまでは、やって来れたのだった。
「どうする・・あともう少しなのにね」
森雪も、祥恵と一緒に建物の陰に身を潜めながら、祥恵に言った。
もう、後50mぐらい先。そこに大統領専用機は停まっているというのに、祥恵たちのことを発見した宇宙人たちが次々と集まってきてしまい、大統領専用機の周りは、たくさんの宇宙人たちでグルリと囲まれてしまっていた。
「相原、大丈夫か?」
「このぐらい、かすり傷です」
祥恵たちが大統領専用機のすぐ近くまで到着する15分ぐらい前に、大統領専用機にやって来たのは、古代進と相原だった。相原は、途中、宇宙人たちと応戦したときに足を負傷してしまって引き摺っていた。
「入るぞ!」
2人は、大統領専用機の扉を開けると機内に入った。機内の一番奥には、ゆみたち先客が既にいた。
「あ、艦長代理!」
ゆみは、機内に入ってきた2人を見て叫んだ。ゆみたちは、機内の一番最後部のところに毛布を敷いて、そこにぐるりと円形に座って陣取っていた。子どもたちはもちろん、ゆみのお父さん、お母さんも直に毛布の上に座っていた。犬のメロディは、あゆみの投げ出した足の上に頭を置いて寝そべっている。猫たちは、ゆみが膝に抱えているバッグの中から非常事態に怖れて出て来ない。それでも、たまに出てきては、ゆみの周りをぐるりと一周しては、またバッグの中に戻って丸くなっていた。竜たちは、持ってきたバッグの中からお菓子を取りだして、おしゃべりしながら食べていた。
「おお、皆くつろいでいるな」
古代進は、ゆみたちが機内で修学旅行気分におしゃべりしているので、安心したように微笑んでいた。
「あ、古代か」
ゆみの声に気づいてコクピットの扉が開いて、島大介が顔を出した。
「おお、島も、もう来ていたか」
古代進も、島大介に答えた。
それから5分後、ほかのヤマト乗組員たちも続々と、大統領専用機の機内に集まってきた。坂本やお蝶婦人、太助の姿もあった。太助は、一番最後部にゆみの姿を見つけると、近寄ってきて、胡座をかくとゆみたちの円陣に加わった。
太助は、竜の向かい側に座っていた。本当は、ゆみの隣に座りたかったのだが、ゆみの横には、お母さん、お父さん、それに反対側には、あゆみが座っているので場所が空いていなかった。
「全員、そろったか?」
コクピットから島大介が顔を出して、皆に聞いた。
「いや、まだだ」
「後は、祥ちゃんと雪だな」
古代進が人数を確認して、島大介に返事した。
「ね、行くきゃないんだけど、雪さんは走れる?」
祥恵は、大統領邸の建物の陰で、森雪に聞いた。
「正直、ここまで走ってきたのでバテバテ。だけど行くしかないものね」
森雪が自分に気合いを入れる。
「よし、1、2、3で走るよ!」
祥恵は、森雪に言って、2人は掛け声と共に大統領専用機を目指して、一気に走り出した。それを見つけた宇宙人どもが、祥恵たちに銃撃してきた。祥恵は、走りながら、宇宙人の何匹かに応戦して倒していた。
2人が大統領専用機のすぐ側まで走り寄ると、専用機の扉が開いて、中から2人に向かって古代進の両手が伸びた。祥恵は、古代進の片手を掴むと機内に引っ張り上げてもらった。同じく森雪も古代進の片手を一瞬掴んだのだが、そのまま手を放して地面に倒れ込んでしまった。大統領専用機がちょうど離陸し始めたところだった。
宇宙人の撃った光線が、森雪の太ももに当たって、森雪は地面に倒れたため、一瞬掴んだ古代進の片手を放してしまったのだった。
「もう時間が無い!」
誰かの声に、古代進はやっとのことで祥恵だけを機内に収容するのが精一杯だった。このままでは、森雪を宇宙人たちが迫ってくる地面に置いたまま、大統領専用機は飛び立ってしまう。
「だめよ!停まって!」
ゆみは、最後部から飛行機の扉に向かってジャンプすると、機外に飛び出し倒れている森雪の手を掴んだ。
しかし、機外に飛び出しているゆみも、そのまま手を繋いでいる森雪の体重に引っ張られて地面に落下しそうだった。
「ゆみ!雪の手を放せ!」
このままでは、ゆみも地球に置いてきぼりにしてしまうと思った古代進が、ゆみに向かって叫んだ。が、ゆみは森雪の手を放さなかった。そしてゆみの身体が機体から離れる。
そのとき、ゆみの愛犬メロディが飛び出し、ゆみの背中のジャンパーに噛みつくと機内に引っ張り上げた。メロディに引っ張られて、機内に戻ってきたゆみの身体を、側にいた古代進と坂本で引っ張り上げる。メロディも、しっかりゆみのジャンパーに噛みついたまま踏ん張っている。
「よし、頑張れ!」
古代進たちがゆみの身体を引っ張り上げると、そのまま、ゆみが手を繋いでいる森雪の身体も機内の中に引っ張り上げられた。皆が機内に入ると、太助と祥恵で飛行機の扉をしっかり閉めてしまった。
宇宙人たちが銃撃してきた弾は、飛行機の機体に当たって、地面に落下した。
そして、大統領専用機は、そのまま上空へと上がり、大気圏を出ると小惑星イカルスを目指して飛び立っていった。
宇宙ピクニックにつづく