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宇宙ピクニック
「ね、艦長代理って、さっき自分の奥さんなのに雪さんのことを見捨てようとしたよね?」
ゆみは、上空に飛び立っていく大統領専用機の中で、古代進に文句を言った。
「あ、いや、あれは雪のことを見捨てたわけでなくて、あのまま、この飛行機の離陸が遅れていたら雪だけじゃなく他の皆までやられてしまうってことで・・」
「そうよ。それは仕方ないの。私も、古代君も宇宙戦士なのだから、戦いの中で命を亡くしてしまうかもしれない覚悟は出来ている」
森雪が、自分の怪我をしている太ももを押さえながら古代進のことをかばって、ゆみに説明した。
「ええ、それでもダメだよ。自分の家族なんだから何よりも一番に雪さんのことを思わなきゃ!」
ゆみは、森雪と古代進に言った。
「ほら、ゆみは偉そうに大人の会話に入らないの」
祥恵が、ゆみの頭を撫でながら、ゆみのことを引っ張って最後部の皆のところに連れ戻した。
「でも、ゆみちゃん。ありがとうね。おかげで、私も皆とこの飛行機に乗ることができた」
森雪は、祥恵に引っ張られて最後部に連れて行かれているゆみに言った。メロディも、ゆみの後ろにくっついて最後部に行く。
「あと、メロディもね。ありがとう」
森雪がメロディにもお礼を言うと、メロディは、あゆみの膝に自分の頭を乗せて寝転がりながら、ワンと一言吠えた。
「さあ、治療をしようか」
佐渡先生が、森雪に言った。
アナライザーは、飛行機の最前列にカーテンを引いて、簡易的な治療室を作っていた。その中に森雪を連れて行くと、宇宙人に撃たれた太ももの治療を始めた。
「祥恵さん、お菓子食べますか?」
最後部の円陣に加わった祥恵に、竜がお菓子をすすめた。
「ありがとう。実は、ずっとここまで雪さんと走ってきたから、お腹空いていたんだ」
祥恵は、竜からもらったお菓子を食べながら言った。
ゆみは、お母さんとあゆみの間の自分が座っていた席に戻って、あゆみと同じに足を伸ばして座った。あゆみは、戻ってきたゆみの膝に、自分が掛けていた毛布を半分ずつ掛けて一緒に入った。
祥恵は、ゆみの隣のあゆみの横に座って、皆の話にくわわっていた。
「祥恵さん、ゆみちゃんにスカート履いて、ここに来させたのって、ゆみちゃんが動きづらい服装で少しでも静かにしているようになんですか?」
あゆみが、隣に座った祥恵に聞いた。
「そうよ。だけど、大失敗だったね」
祥恵は、あゆみに答えた。
「まさか、スカート履いてても、そんなの関係無しに機内をジャンプしたり、飛行機の機外に身を乗り出したりするとは思ってもみなかったわ」
「確かに。少しぐらい動きづらい服装着させたぐらいじゃ、ゆみ姉のことを静かにさせるなんて不可能だよ」
竜が、ゆみのことを笑った。
「竜、うるさい」
ゆみは、手に持っていたピーナッツの殻を、竜に投げつけた。
「痛てえな」
「ゆみ!やめなさい。食べ物を投げるんじゃないの」
祥恵は、ゆみのことを叱った。
「なんだか楽しそうね」
佐渡先生に治療をしてもらって、太ももに白い包帯を巻いている森雪が、古代進に連れられながら、最後部に来て、皆の円陣に加わった。
「そうなんだよ。ここだけ皆が明るくて、なんだか戦いに行くというよりも、遠足かピクニックでも行くような気分なんだよ」
古代進が、森雪に言った。
「良いんじゃない。楽しい方が」
森雪は、子どもたち皆の笑顔を、嬉しそうに眺めながら答えた。
「雪さん、サーシャさんは?」
ゆみは、円陣に加わった森雪に聞いた。今、この機内の中に、娘のサーシャとパパとママのスターシャ、古代守の姿が無かったのだった。
「ああ、彼らは、地球にはいないんだ。月面基地だったかなにか別の星に暮らしているんだ」
古代進が、森雪に代わって答えた。
「イスカンダル星人のスターシャさんがね、地球の大気は身体に合わないんですって。だから、3人とも家族皆で、地球では無くて月に暮らしているんですって」
森雪が答えた。
「いや、なんだか月の環境も身体に合わないとかで、さらに月の近くの、別の星に引っ越したんだとかって、兄さんが言ってたな」
「そうなの。どこの星に引っ越したの?」
森雪は、主人の古代進に質問した。
「どこだったっけな?確か、兄貴から来たメールに書いてあって、なんとか言う星だったんだけど、名前を忘れちゃったな」
古代進は、森雪に答えた。
「ちょっと、しっかりしてよ。自分のお兄さんの家でしょう」
森雪は、そんな古代進に言った。皆は、大笑いした。
小惑星イカルスにつづく