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57 良明の秘密
「夕子、久しぶり」
朋子は、インターネットのパソコン越しに夕子に声をかけた。
「久しぶり。どう、その後のニューヨークは?皆、元気にしている?」
夕子は、朋子に質問した。
「そうね。あ、春子のこと覚えている?」
「ああ、よく一緒に遊んでいたよね」
「春子もさ、お父さんの出張が終わって日本に帰ったんだよ」
「そうなの?日本のどこ?」
「大阪。夕子とも、どっかで会ったりするんじゃないの?」
「大阪か。うちは東京だから、そんな会ったりする確率は低いかな」
「大阪って、東京と遠いの?」
「遠いよ。まあ、ニューヨークとロサンジェルスってほどは離れていないけどね」
夕子は、朋子に答えた。
「で、ゆみちゃんって、そこにいるの?」
「ここには、いない。でも、良明の話は、いろいろ聞いたよ。ゆみちゃんさ、良明とクラスメートだったから、良明が日本に帰る日は空港までお見送りにも行ったんだって」
「そうなんだ」
夕子は、朋子に返事した。
「それでさ、夕子も住んでたリバーデールの町。すっかり日本人の姿が、あの頃に比べると減ってしまったのよ」
「そうなの?」
「日本人は、フォートリーとか日本人学校のあるクイーンズの町で暮らすようになってしまったの。リバーデールは、けっこう治安が悪くなってしまってさ。住んでた日本人は皆、お引越したのよ」
「へえ」
「私も、私の家族も、来月にはフォートリーにお引越するの。弟は、もともとクイーンズの日本人学校に通っていたから、学校が近くなるって喜んでるよ」
「そうなんだ。朋子の学校は?転校するの?」
「うん。来月から弟と同じ日本人学校に通うことになる」
「そうか。朋子も日本の勉強するんだ」
「そうなの。私のお父さんもニューヨーク勤務が長いし、そろそろ日本への帰国も近いだろうから、私も帰国後の勉強が困らないように日本の学校の勉強しておかないと」
朋子は、夕子に答えた。
「ゆみちゃんが、リバーデールから日本人いなくなってかわいそうなんだよね」
「そうなの?」
「うん。もともと彼女って、アメリカ人のクラスだったでしょう。それが他のクラスにも、周りに日本人がいなくなって、ますます日本語を話す機会が無くなってしまっているみたいで、この間、夕子に言われて良明のこと聞いたときも、彼女うまく日本語の言葉が話せなくなっていたもの」
「そうか。彼女はリバーデールから引っ越さないの?」
「隆さんの話では、引っ越す予定ではいるみたい。でも費用の面とかもあるし、ゆみちゃんの学校のこともあるし、そう簡単ではないみたい。ゆみちゃんは、私たちと違って、日本語の読み書きが全くできないでしょう。クイーンズの日本人学校には通えないし」
「ふーん、なるほどね」
夕子は、朋子から今のニューヨークの様子を聞けて、懐かしくなっていた。
「でさ、良明の話なんだけど」
朋子が、今日のチャットの本題に入った。
「うん」
「夕子のクラスでは、お昼にお弁当とかちゃんと自分で食べている?」
「え、食べているでしょう。私、良明とお昼にお弁当を一緒に食べたことないんだけど」
「食べているのなら良かった。こっちではね、良明って学校では、自分ではお昼のお弁当食べなかったんだよね。」
「食べないって?」
「文字通り食べなかったの。それで、ゆみちゃんが、いつも良明のバッグから、彼のお弁当を取り出してあげて、お弁当の蓋とかも開けてあげて、箸でお口にあーんって食べさせてあげていたんだって」
「うそ!何それ、マジで?」
「本当だって。ゆみちゃんが、そのお弁当を良明に食べさせている姿は、私も、何度もゆみちゃんが良明の口にお弁当を持っていて食べさせているのを見ていたから」
夕子は、朋子に意外な言葉を聞かされて、しばらく言葉も無かった。
そういえば、良明って昼休みに教室にいる姿を見たことないんだけど、どこか別の場所でお弁当を食べたりしているのかな?夕子は、学校の昼休みの良明の様子を思い出しながら考えていた。
「明日、昼休みに良明がお弁当食べているかどうか確認してみるわ」
「うん」
朋子は、夕子に返事した。
「あとは・・そうね、ヒデキのことを覚えている?」
「ヒデキ?」
「岡本ヒデキ。あ、夕子知らないか。夕子が日本に帰ってしまった後に、こっちに引っ越してきた男子だから」
「じゃ、知らないよ」
「ヒデキとか日本人の男の子たち同志で、週末とかは学校の近くの公園に集まって、そこで皆で野球とかフットボールをしているんだけど」
「それは知ってたよ。隆さんとか長さんとかが、コーチやって野球の練習とかしていたやつでしょう」
「それ、それ。それに良明も参加していたな。なんか学校で、クラスの子やゆみちゃんと一緒のときは、何も話せなくなってしまうくせに、その野球をやっているときには、すごい大声で一番活躍してた」
「ああ」
「椎名とか馬宮って野球の上手い男子がいたんだけど、彼らが、いつも野球ではリーダーやってたんだけど、良明が来た途端に、あっという間に良明の方が野球上手くてリーダーになってしまってたよ」
「そうなんだ。じゃ、良明って運動は得意だったんだね。私も椎名は覚えてるよ。よくカバ村とかと野球の試合で競っていたよね」
夕子が懐かしそうに話した。
「そうだったよね。夕子、男子の中に入って、カバ村たちアメリカ人チームと野球していたよね。そうだよね、夕子も椎名とは知り合いだったよね」
「うん」
「良明って学校で、私やゆみちゃんの前では、ぜんぜん一言も話さないくせに、野球のときだけは、めちゃリーダーシップあって元気なんだよね」
「そうなんだ。それじゃ、今度、良明と野球やってみようかな」
「いいかもね。でも、夕子が良明と一緒なのって学校でなんだよね?そしたら、めちゃ静かだったりして」
「そうなんだよ。めちゃ静かなやつなの。良明って」
夕子は、朋子に答えた。
「学校の昼休みとかに、野球に誘ってみたら?そしたら、急に元気になるかもよ」
「だね」
夜も遅くなってきたし、東京とニューヨークで時差もあるので、2人のチャットは終了した。
「朋子、ありがとう。めちゃ参考になったよ」
夕子は、朋子に言った。
「ならば、良かった」
「話が違うんだけど、ゆみちゃんのことは、朋子ちゃん知ってる?」
「知ってるよ。あの子って頭いいよね」
朋子は、夕子の質問に答えた。
「あ、その朋子の言うゆみちゃんって、隆さんの妹のゆみちゃんのことでしょう」
「うん」
「そうじゃなくてさ、私の言うゆみちゃんっていうのは、うちのクラス、今の通っている中学の、そこに祥恵って子がいるんだけど、彼女の妹も、ゆみちゃんっていうんだけど。彼女もニューヨークにいたらしいんだよね」
「へえ、知らない」
朋子が言った。
「祥恵の妹のゆみちゃんは、ニューヨークでは、フィールドストーンロワースクールに通っていたらしいんだけど。朋子ちゃん、彼女のことも知っているかなと思って」
「フィールドストーンって、ジョンソンアベニューの向こうの私立の学校じゃない?」
「そうかな」
「めちゃセレブの子でしょう。フィールドストーンは授業料も高い、入学も難しい私立校だよ」
「そうなんだ」
「そんな高い私立校に通っている子、私の知り合いにいないもの」
「そうか。祥恵の家ってお医者さんだし、お金持ちだものな」
夕子は、朋子から聞いて納得した。
「そろそろ眠いから落ちるね」
「うん、バイバイ!今日はありがとうね」
夕子は、朋子とのチャットを終了した。