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こわい教官
「あんたさ、何をしてきたの?」
お蝶夫人は、坂本に聞いた。
「何って?」
「一番最後だったでしょう、コスモタイガーで着艦したの」
「ああ、ちょっとご挨拶に愛想を振りまいてきた」
坂本は、お蝶夫人に返答した。
「あんたさ、もしかして第二艦橋にいるヤマトの戦闘班長の前でなんかやったの?」
「ああ、俺の一番得意のアクロバット飛行を披露してやった」
「勇気あるね」
お蝶夫人は、坂本に感心してみせた。
「え?」
「戦闘班長、あんたのアクロバット飛行のこと、なんか言ってた?」
「なんだか、めちゃ怒られましたよ。俺の操縦技術に嫉妬してんのかな?」
「そんなわけないでしょう。あの人、ヤマトの戦闘班長って私たちよりもはるかに腕の立つコスモタイガー乗りなのよ。私なんか、あの戦闘班長の彼女に、めちゃ憧れてコスモタイガーに入ったんだから」
お蝶夫人は、坂本に忠告した。
「あと、あの人って、アクロバット飛行とかそういう勝手な行動すると、めちゃ許してくれないよ。かなり叱られると思う。そういうことには、とても厳しい人、でも、人にはすごく優しくてかっこいい女性なんだよね」
「もう叱られましたよね」
加藤四郎が坂本に言った。坂本は、少しふてくされた表情をしていた。
お蝶夫人と会う前に、坂本は格納庫で、既に戦闘班長からこっぴどくお説教されたばかりだった。
「とりあえず、食堂に行って、なんか美味いものでも食わないか」
「いいね」
坂本たちは、食堂へ移動した。
「お蝶夫人たちは?」
「私たちは、もうさっき食べてきた。展望室に行って雑談してくるわ」
お蝶夫人たちはヤマトの展望室へ、坂本たちは食堂へと別れた。
「何を食う?」
「新しく入った食堂のおじさんって料理の腕がめちゃ良いらしいぜ」
坂本たちは、食堂に入ると、壁に貼られたメニューを見て、料理を選んだ。
「おばちゃん、チャーハン定食」
「俺は、チーズハンバーグ、サラダにイングリッシュマフィン」
「俺はラーメン」
坂本たちは、料理を注文する。
「チャーハン定食、ラーメン、チーズハンバーグ・・」
坂本たちの注文を繰り返す食堂のおばちゃんは、ゆみのお母さんだった。カウンターの奥、厨房で料理を作っているシェフは、ゆみのお父さんだった。
ゆみのお父さんも、お母さんも、暑い厨房の中での作業なので半袖で料理を作っていた。半袖なので、左腕の貧民のマークが見えていた。2人は、別に貧民であることを隠して、宇宙戦艦ヤマトに乗っているわけではないので、貧民であることを秘密にする必要はなかったのだ。
「チャーハンお待ち」
お父さんは、出来上がったチャーハン定食をカウンターに出した。お母さんは、お父さんがカウンターに置いたチャーハン定食を坂本たちのテーブルに運んだ。
「いただきます!」
坂本たちは、食事を始めた。
「おばちゃん、美味いっすよ。ここの料理」
一口食べて、坂本たちは食堂のおばちゃんに食事の美味しさを褒めていた。
まさか、ここの食堂のおじさんとおばちゃんが、同級生のブスの父ちゃんと母ちゃんだとは夢にも思っていないようだった。
「こんばんは」
坂本たちが食事をしている食堂に入ってきたのは、森雪だった。
「おばさん、なんかお持ち帰りできる料理を2人前作ってもらえないかな」
森雪は、カウンター席に座ると、食堂のおばちゃんにお願いした。
「ゆみちゃんと2人で部屋で食事するので・・」
食堂のおばちゃんが、注文を取るために森雪のすぐ側まで来たときに、小声でおばちゃんに話しかけた。
「これ、ゆみが好きなので」
食堂のおばちゃんこと、ゆみのお母さんは、料理と一緒にイチゴ大福を2つ、袋に入れて、森雪に手渡した。
森雪は、お母さんから受け取った料理の入った袋を持って、食堂を後にした。
「そういえば聞きましたか、ブスの話は?坂本さん」
「ああ、なんか1人だけ濡れていないとかって、艦長代理に怒られたんだとか」
「そうなんすよ。挙げ句の果てに、コスモタイガー班を追い出されて、ヤマトの生活班に移動させられたんだとか」
「あの愛想ないブスが生活班になるのかよ。なんか笑っちゃうな」
食堂を後にしている森雪の背後で、坂本たちの話している声が聞こえていた。
佐渡先生の助手につづく