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39 小倉夕子
「夕子ってさ、本当に男っぽいよね。スカートとか履いたことないでしょう?」
祥恵は、休み時間に同じクラスの小倉夕子に話しかけていた。
「うん、ここのところは、しばらくスカートは履いたことないかな。ほら、この体格だから、あんまりスカートとか女っぽい服は似合わないのよ」
小倉夕子は、祥恵に答えていた。
小倉夕子は、がっちりした体格で肩幅のある背の高い女子だった。髪もベリーショートだった。1組のクラスでは佐藤がけっこうスラリとして背の高い男子だが、その佐藤と殆ど同じぐらいの背丈があった。
小倉夕子という名前だけど、あのゆうこりん星からやって来た華奢な体つきのタレントの小倉優子とはぜんぜん違う。漢字だってタレントの小倉優子とは違っている。明星学園中等部の7年1組の小倉夕子は、男っぽい体格のがっちりした性格も男勝りな女子だった。
彼女は、父親の仕事の関係でずっと小学校時代をニューヨークで暮らしていた。中学になって日本に戻ってきて、ここ明星学園中等部に入学したのだった。
「でも、スカートは一応自分の分は持っているんだよ」
小倉夕子は、祥恵に答えた。
「え、夕子ってスカート持っているんだ。見てみたいな、夕子のスカート履いているところ」
デニムのジャンパースカートを履いている百合子が、夕子に言った。
「そうね。そのうち一度ぐらいは学校に履いてくるよ」
「それは楽しみ。早く見たいから、明日履いてきてよ」
皆は、夕子のスカート姿を想像しながら楽しみにしていた。
「明日?明日は嫌だな。皆が私のスカート姿にまったく興味無くなった頃に履いてくるよ」
夕子は、皆に答えた。
「夕子ってニューヨークで暮らしていたから、スカート履かないの?」
「そうだね。向こうじゃ、女子もほとんどスカートなんて履いている人いないからね」
夕子は、美和に答えた。
「ニューヨークって夕子とお父さんで行っていたの?」
「ううん。お母さんも、あと弟が一人いるんだけど弟も一緒に行っていたよ」
「へえ。家族皆でニューヨークに引っ越していたんだ。すごいな」
「別にすごくはないよ。たまたま、うちのお父さんが会社でニューヨークに転勤しろって言われて、それで家族も一緒にくっついて転勤していただけだもの」
「でもすごいよ。そもそも、うちのお父さんじゃ、仕事でニューヨークに転勤してこいなんてことすら無いからね。うちのお父さんだったら、医師会長か誰かに、ニューヨークへ転勤してこいなんて言われても、嫌だって断りそうだもの」
「それは、祥恵のお父さんは歯医者さんだもの。自営業ですもの、転勤はないでしょう」
百合子が言って、皆は笑っていた。
「ニューヨークの話とか聞きたいな」
「いいよ。学校は向こうの学校だったから英語でアメリカ人が多いんだけど、私みたいに日本から転勤で来ている日本人もけっこう多くて、私の通っていた学校のクラスは、半分ぐらいが日本人だったよ」
夕子は、祥恵に話した。
「そうなんだ」
「ニューヨークじゃ男女ともTシャツにジーンズで過ごす子が多くて、私も弟も殆どジーンズで過ごしていた。だからかな、スカート履く習慣がなくて」
夕子がそう話していたときに、音楽室に行っていたゆみと麻子が教室に戻ってきた。
「あ、ここにも、ほらスカートを履かないニューヨークの子が帰ってきた」
祥恵は、ゆみのことを指さして言った。
「え、なんのこと?」
ゆみは、祥恵に聞いた。
「そういえばさ、ニューヨークにも、ゆみちゃんって女の子がいたんだよね。私はクラスも違ったし、あんまり話したこと無いんだけど」
「ゆみって名前の日本人多いものね」
「そのニューヨークにいたゆみちゃんっていうのは、彼女がニューヨークで生まれてすぐに両親が交通事故で亡くなってしまって、ニューヨークで隆さんって18歳年上のお兄さんと二人暮らししていたのよ」
「え、お兄さんと二人暮らし?お父さんとかお母さんがいないの?」
「いないの。なんかニューヨークに転勤で来ているときに交通事故で両親とも亡くしてしまって、そのとき高校を卒業したばかりだった隆さんが、生まれたばかりの妹のゆみちゃんを育てて、以来ずっとニューヨークで二人暮らしなんだって」
「うわ、すごいね!両親が亡くなった時点で日本に戻ってくれば親戚とかいただろうに。ずっとニューヨークで妹を育てているなんて」
「なんか、いろいろあってそういうことになったみたいよ」
夕子は、皆に話した。
ニューヨークで、兄弟で二人暮らししていた隆とゆみの話は、「ニューヨーク恋物語(ニューヨークピュアストーリー)」の中で詳しくお話しています。
「きっと、そのゆみちゃんもお兄ちゃんのことが大好きだったんだよ」
ゆみは、祥恵の腕の中にまとわりついて、甘えながら言った。
「というよりも、隆さんっていうのは、普段の平日はマンハッタンに在る日系企業のニューヨーク支店に勤めているから、平日はゆみちゃんが学校から戻ると、掃除とか洗濯、隆さんの夕食の支度とか家の中の、家事を皆担当してやっていたみたいよ」
夕子は、日本の明星学園の教室で姉に甘えているゆみに言った。
「あ、すごい!じゃ、日本のゆみと違ってぜんぜん甘えん坊じゃなくて、いろいろな意味で大人でしっかりしていたんじゃないの」
「うん、そうだった」
夕子は祥恵に答えた。
「だってよ。日本のゆみも、もう少し甘えん坊を卒業しなくちゃね」
祥恵は、自分の腕に甘えていたゆみに向かって言った。
「っていうか、そのゆみちゃんだけでなく、全体的にどの子も、日本の子に比べたらニューヨークの子はけっこう大人びた子が多いよ」
「そうなんだ」
「よくいえばクールって感じかな」
「それで、夕子もスカート履いていないだけじゃなくて大人びて見えるのかもね」
百合子が言った。
「ゆみちゃんは、ニューヨークのどこにいたの?」
夕子が質問した。ゆみは、最初、夕子に聞かれたとき、自分ではなく、そのニューヨークのゆみちゃんのことを話しているのかと思っていた。
「あたし?あたしはお婆ちゃんの家に住んでいたの」
「お婆ちゃん家なんて言われたって、夕子がわかるわけないでしょう」
「ブロンクスの近く」
祥恵に言われて、ゆみは夕子に言い直した。
「ブロンクスか。それじゃ、リバデールとかの近くかな?」
「うん、そう」
「それじゃ、私のいたところとすぐ近くじゃないかな。学校はどこだった?私はPS24」
「PS24は、最初に入学しにお母さんと行ったんだけど、飛び級で中学校に行くようになってしまったので、結局、一度も通わなかったの」
「そうなんだ。それじゃ、本当にすぐ近く、同じような場所に住んでいたかもしれないね。私のニューヨークのお友達で、まだニューヨークに住んでいる子いるから、メールで聞いてみるよ」
「あたしも、夕子さんのこと、春子ちゃんか朋子ちゃんに聞いてみる」
ゆみは、夕子に返事した。
「え、朋子ちゃん?朋子ちゃんって、PS24のすぐ近くの公園の前に在ったアパートメントに住んでいた朋子ちゃんのことかな。春子ちゃんはホワイトホールに住んでいた」
「あ、そう!その春子ちゃんと朋子ちゃん」
ゆみは、夕子に言った。ホワイトホールとは、PS24小学校のすぐ近くに在った真っ白な外観のアパートメントで、屋内の温水プールが付いた高級なアパートメントだった。
「なんだ、夕子とゆみって、ニューヨークですぐ近くに住んでいたんだ」
祥恵が、夕子に言った。