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ママ友
「お母さん、ちょっと出かけてきますね」
お母さんは、春休みで家にいる祥恵とゆみに告げると出かけていった。
「春休みなのに、大変だね」
祥恵は、お母さんに言った。
「だって、仕方ないでしょう。あなたたちの学校のためなんだから」
「ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
お母さんは、出かけていった。
「ゆみ。お母さん、出かけちゃったよ」
「うん、学校に行ったの。学校で、ゆり子お姉ちゃんのお母さんとかとも会うんだって」
「そうだね」
祥恵は、リビングのソファに腰掛けて、見るわけでもないテレビのスイッチを入れながら答えた。
「お姉ちゃん、お腹すいた?」
「ううん、別に」
「お腹空いたら、お昼ごはん用意するね」
ゆみは、お母さんが出かけるからと、お父さんと祥恵のお昼ごはんを作るように言われているのだった。春休みとはいえ、平日なので、お父さんは病院の診察室でお仕事中だ。
「陽子お姉ちゃん」
祥恵がリビングでテレビに夢中になっているので、一人暇のゆみは、病院の受付に来ていた。
「ああ、ゆみちゃん。どうしたの?時間あるの?」
「うん。何かお手伝いすることある?」
「うん、大丈夫よ」
陽子お姉さんは、お父さんの歯科クリニックで働いている歯科衛生士さんだ。いつも病院の受付を担当していて、患者さんの書類とか経理の仕事をしている。
「お母さん、学校に行っちゃったの」
「そうだってね。学校でなんか運営委員に選ばれているんだって」
「そうなの。学校が中等部から高等部に進学するときに、高等部が入学試験を作るとかって言われていて、それに反対する中等部の運動をやっているんだって」
「高等部の入学試験って、今年から始まるの?」
「まだ始まるかはわからないけど、お母さんたちが頑張っているから。でも、始まるとしたら今年から始まるみたい」
「そうか」
陽子は、ゆみに言った。
「それじゃ、ゆみちゃんたちが初めての入学試験を受ける生徒になるかもしれないんだ」
「そうなの」
「じゃ、受験勉強しなきゃいけないんだ」
「ううん。そこまでは難しくないらしいの」
ゆみは答えた。
「そうかな?すごく難しい試験かもしれないよ」
患者のカルテを受付に取りに来た松子が、からかい半分にゆみに言った。松子は、今井デンタルクリニックのベテラン歯科衛生士さんで、お母さんより少し下ぐらいのおばさんだ。
「ええ、難しいのかな。でも、あたし大丈夫」
ゆみは、自信ありげに答えた。
「本当に?」
「うん!」
「余裕持っていると、もしかしたら落ちちゃうかもしれないよ。ゆみちゃんだけ」
「そうかもね。ゆみちゃんだけ落ちて、祥ちゃんだけ受かったらどうする?」
松子のからかうのに、陽子まで乗っかって、ゆみに言った。
「あ、そうだ。祥ちゃんだけ合格して、ゆみちゃんは落ちちゃうかも」
「ええ、まずいじゃん。それって、あたしがお姉ちゃんと同じ高校に行けなくなってしまうってことだよね」
ゆみは、マジで心配そうな顔をした。
「大丈夫よ、お母さんがちゃんとなんとかしてくれるから」
「うん。ゆみちゃんのお母さんは、しっかりしているから大丈夫よ」
松子も、ゆみに言ってくれた。
「本当に?」
ゆみは、少し心配そうに、松子と陽子に聞いた。2人は大丈夫と大きく頷いてくれた。
「あたし、別に明星学園の高等部に行けなくなるのは、どっちでも良いんだけど、お姉ちゃんと別々の学校に行くのだけはぜったいに嫌だ」
ゆみは、陽子のお膝に座りながら答えた。
「そうか。ゆみちゃんは、お姉ちゃんのこと大好きだものね」
陽子は、ゆみの頭を撫でてくれた。
「祥恵、あなたも9年生になったら少し勉強をしておいた方が良いかもしれないわよ」
お母さんは、夕食の後のんびりしていた祥恵に言った。
「え?ああ、大学受験でしょう。高等部に入ったら、もう部活は一切やめて勉強に専念するよ」
祥恵は、お母さんに答えた。
お父さんは、ダイニングの自分の椅子に腰掛け、新聞を広げて読んでいた。ゆみは、もう時刻は9時をとっくに回っているので、自分の部屋のベッドに入って眠ってしまっていた。
「大学受験もそうなんだけど、今日、お母さん、学校に行ってゆり子ちゃんのお母さんたちとかと中等部、高等部の先生たちの話を聞いてきたけど。どうやら、高等部に進学するときにも入試はあるみたいよ」
お母さんは答えた。
「そうなんだ。わかった」
「まあ、中等部で習ったことの、うーんと基礎的な部分の確認するだけの一般の高等学校の入試に比べたら、簡単な試験だとは言っていたけどね」
「そうか」
「だから、7年、8年で習ったことも少しぐらい復習はしておいたほうが良さそうね」
「うん、そうする」
祥恵は、お母さんに答えた。
「高等部を卒業できなかったら、大学にだって行けなくなってしまうものね」
9年生のはじまりにつづく