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64 久美子
「ゆみちゃん、ここ教えてくれる?」
ゆみのすぐ前の席に座っている久美子が、数学の時間、ゆみに質問してきた。
「ここは、こうなっているから足してあげると、ちょうど良くなるの」
ゆみは、さっき先生が教壇で話していたことを少しだけ簡単に説明してあげた。
「あ、そうか。ありがとうお。そうだよね、ゆみは説明が的確だよね。先生に聞くよりもわかりやすいよ。ゆみ、将来は学校の先生になったらいいよ」
久美子は、ゆみにお礼を言いつつ返事した。
「学校の先生・・あたしになれるかな」
ゆみは、久美子に言われて先生になることが満更でもなかった。体育の先生以外ならば、運動が苦手なゆみにでも出来るかもしれないと思ったのだった。
「おお、久美子。出来たのか?じゃ、前に出てきてやってみろ」
久美子は、先生に言われて、一番前まで行って、黒板に答えを書いてきた。
「はい、正解!」
先生は、久美子に言った。久美子は、先生に褒められて、ちょっとだけ嬉しくなりながら自分の席に戻ってきた。
「久美子、おまえ、ゆみに聞いただろう?」
後ろ脇の席の柳瀬が、戻ってきた久美子に言った。
「いいよな。すぐ後ろに、ゆみがいるって、何でも聞けるものな」
「良いでしょう!」
久美子が返事すると、柳瀬は、久美子のことを羨ましそうに見ていた。
「ここをこうするのよ」
久美子の斜め後ろは、ゆみのすぐ左横の席だ。横の席のゆみは、今度は柳瀬に教えてあげた。
「おお、なるほどね。それじゃ、こっちの問題はこれで良いんだよね」
柳瀬に次の問題の答えを聞かれたので、ゆみが頷いた。
「次の問題わかる人?」
「はい、先生!」
「お、珍しいな。じゃ、柳瀬。答えてみろ」
今度は柳瀬が、先生に言われて前に出て、黒板に正解を書いてくる。
「よし、正解だ」
柳瀬も先生に褒められて、ちょっと得意げに自分の席に戻ってきた。先生も、ここ最近8年になってから、今まであまり勉強のできなかった4組の後ろの方に座っている連中が、ゆみが来た後から急に答えを答えられるようになったのをわかっているようだった。
「ね、祥恵。今日ゆみのおかげで助かちゃったよ」
久美子は、部活の練習に出るため、女子更衣室で着替えながら、祥恵に言った。
「え、何が?」
祥恵は、自分も部活に出るために着替えながら、久美子に聞いた。
「え、最近なんか勉強が楽しくなってきて。ゆみって、私のすぐ後ろの席なの。それで、数学とかなんでも聞くと、全部ゆみが教えてくれるのよ」
「へえ、良かったね」
祥恵は、久美子に答えた。
「なんか他人事な返事だね。ゆみって、祥恵の妹でしょう」
「妹だけど。ゆみから教わったとか私には関係ないし」
祥恵は答えた。
「で、ゆみの教え方で、ちゃんとわかるの?」
「わかるよ!ばっちし。たぶん先生に教わるよりわかりやすい」
久美子は、祥恵に言った。
「本当かな?」
「本当、本当。だって、私だけじゃないもの。柳瀬や岩本も、ゆみから教わったら、ちゃんと理解していたもの」
「へえ、そうなんだ。そんなわかりやすいなら、今度、家で私もゆみに教わろうかな」
「そうしなよ。そうすれば、祥恵も、もっと中間とか期末の結果が良くなるって」
「そう?って余計なお世話」
祥恵は、久美子のことをぶつマネをした。
久美子も、祥恵や美和と同じバスケ部なのだ。それで、岩本や柳瀬は、1組の佐藤と同じ男子バスケ部員だった。
皆、バスケ部だけあって背が高い。祥恵も、それなりに背が高い方だ。美和も祥恵と同じぐらいの背丈あるのだが、横にも広がっているので少しだけ祥恵よりも低く見える。
久美子は、頭が小さく足が長い。それで持ってスラッとしているので本当に背が高くスマートに見える。
男子バスケ部では、佐藤がダントツで文句無くスラッとしていて、久美子と同じように頭が小さく足が長いのでスマートだ。それでもって顔がイケメンと来ているので、女子に人気が無いわけがなかった。
岩本もスラッとしていて背が高いのだが、佐藤よりも肉体がガッチリしているので、すごく頑丈そうに見える。唯一、男子バスケ部の中では、背が低く小じんまりしているのが柳瀬だった。男子バスケ部で並ぶと、圧倒的に柳瀬だけがチビに見えた。しかし、その小柄さを武器にして、試合になると、皆の間をすり抜けてシュートしていた。
拝啓ゆみ様につづく